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第34話 責任

 日々変化していく村の様子、豊かになっていき表情が明るくなっていく村人。

 半信半疑で連れてこられ、外観からは想像できないその内情に驚き喜ぶ人々、そんな人々を見ていたら、調子に乗っていろいろなことに手を出しすぎてしまい、管理できるレベルを超えていた……

 そこに気が付かず、リスクヘッジを怠ってしまった。

 仲間は一生懸命やっていた。

 自分たちのできる仕事をしっかりとこなしてくれていた、考えが甘かったのは僕自身だ。


「ハヤテ!! 早く来て!!」


「どうしたんだタマモ、そんなに血相を変えて……」


「早く!!」


 尋常じゃない様子に外に飛び出す、ツクヨミが誰かを背負ってこちらへ急いでいるのがわかり、駆けつける……


「酷い……な、何が……」


 確かハリッドという男性だ、足があらぬ方向に曲がり、皮膚は裂けて骨が見えいておびただしい出血がある。全身にも傷が多く、いくつかの大きなキズから出血が酷い。

 いや、それよりも、この状況は……僕が治療するのか……?

 僕は……獣医師……いや、それどころじゃない!!


 バチン!!


 最近腑抜けていた自分を叱りつける意味でも頬を両手で叩きつける!

 

「医者はいないんだよね! 経験とかある人があったら呼んで!!

 とにかく出血がひどい場所を見ていく!!」


 亜人だったけど、人型の治療なんて、それこそ山ほどやっていた。

 目の前に実際に症例が飛び込んできて、惚けるなんて、師匠に拳骨食らう!


「このシートの上に寝かせて!!

 傷洗うよ! 出血を……ここ! それにここ、あと、ここと、ここ……!」


 とにかく雑でいいからまずは出血を止めていく。


「森を探索中に滑落して……草に覆われて、わからなくて……ごめんなさいニャ」


「分かった……まずはこの人を助けよう、ツクヨミ、この付近の気温を高く保って、それからこの桶にぬるま湯、体温と同じくらいのお湯を作っといて!」


 拍動する出血をしている血管を鉗子で止める。つまんで兎にも角にも止めていく。

 大腿部の出血、大きな開放創の傷からの出血をとにかく止める。

 それが終わったら血管を確保して循環血液量を確保するために輸液を行う。

 同時に疼痛管理と各種ショック予防、この状況だとお腹の中の臓器も心配だ。

 解像度の悪いレントゲンと超音波だが、この際文句は言ってられない。


「少なくとも腹腔内への大量の液体は認めない、大出血や尿路損傷はなさそう……

 頭部外傷も目立ったものはない……

 なら、傷の処置と骨折部位の処置を行っていい」


 自分に言い聞かせるように現状を説明していく。

 眠りにつかせる薬のお陰で荒々しかった呼吸は穏やかになるが、短く辛そうだ。

 静脈性の出血は止血したまま創傷を丁寧に洗浄して閉鎖していけばいい、筋肉や皮下組織は動物と異なるけど、丁寧に寄せていけばそこまでの違いはない。


「となると、この複雑骨折が問題だな……厳重に疼痛を抑えて……」


 不幸中の幸いか、骨折端の汚染が少ない……


「ツクヨミこれ骨折部洗浄してくれてた?」


「う、うん。前に骨は汚れに弱いって聞いたニャ」


「最高だよ! これならリスク少なくできる!」


 骨折部をパズルのように組み合わせ、整合性を整えていく。

 挫滅した筋組織は取り除き、元の位置へと収めていく、ファンタジーなプレートを利用すれば現実での骨折手術よりも綺麗に整復できる。


「力があるって楽だな!」


 骨折手術は大工仕事のように結構力技なところがある。

 筋肉が拘縮して骨を正しい位置に戻すのに力がいるんだけど、今の僕の身体は人間離れしている。簡単に骨折の端と端を合わせて元の位置に収められる。

 プレートをあて、ボルトとワイヤーで骨をずれないように固定する。

 ドレーンと呼ばれる炎症によって生じる漿液を体外に排出させる管も設置して、筋肉を寄せていく……


「この血管は繋げないと……」


 大腿動脈が傷ついている部位が最大の難所だ。

 髪の毛くらいの細い糸で血管を吻合する。

 無理やり切断されてぐちゃぐちゃになった血管の断端を切りそろえて、きれいな面を合わせて吻合していく。本来は顕微鏡で行う作業だが、ここは異世界ファンタジー、ちょいと魔力で強化すれば縫合部が拡大される。繊細な作業だが、細かい作業は苦手じゃない。

 

「人間の太い大腿動脈なら、さほど難しくはない! タマモこの位置で固定できる?」


「任せといて」


 タマモは微動だにせずに血管を固定してくれる。なんてやりやすいんだ……


「1つ……2つ……3つ……こっち側に少しだけ回転、そう、そのままね、1つ、2つ、3つ、もうちょっと回転、そこ、1つ、2つ、3つ、最後逆、そうそう、いいね、これで、最後の、仕上げ……よし、一回血流開放するね……よし、リークないね逆も……大丈夫、よし、血流再開!」


 身体というものはすごいもので冷たくなっていた足が再び色が差して暖かくなっていく。


「あっ、タマモ首のところ、そこに血管わかる? そう、それを優しく抑えておいて」


 確か昔読んだ医学書に再灌流時における血餅が脳へと流れ込まないようにこうするって書いてあった……はず……やらないよりはマシだ。


 残りの縫合を終えて、全身をチェクしていく。

 汚れた衣服は剥がして全身を丁寧に洗浄して、清潔な衣服に着替えさせる。

 呼吸、心拍は安定している。


「とりあえず、なんとか、なったんだよね……」


「は、ハヤテ様……む、息子は……?」


 顔をあげるとアマテラスに制止されている妙齢の女性が……ああ、ハリッドさんの母親の、メイアさん……


「とりあえず、命に関わることは処置しました。

 ただ、隠れている怪我があるかもしれないから、安静にして様子を見ないと……」


「あああああ……ハリッドぉ!! ありがとうございます!!!」


 ハリッドさんに飛び付こうとするメイアさんを止める。


「ゆ、揺らさないでください! 頭とお腹の中が一番怖いので!」

 

「す、すみません……」


「アマテラス、スサノオ、そおっとお家まで運んで、ベッドに寝かせて治療を続けよう……


 周囲にいつの間にか人だかりができていた。


 見たことがない治療だったぞ……

 

 あんな足を残して大丈夫なのか?


 切って焼いたほうがいいんじゃないか? 残しておくと腐ると聞くぞ?


 耳に届く声は、好意的な声ではなかった……

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