第21話 苦戦
北端まで来て明らかにおかしい事に気がついた。
赤目の魔獣が多いんだ。
どうやら西の方からやってきている。
山越えの前にこの問題を片付けなければ山越え中ずっと背後を注意しなければいけなくなる。
どうやら越冬後はまずこの問題解決に動くしかなさそうだ。
「そろそろ意識が戻ってくると思うんだけどなー」
豚くんの熱はようやく下がってくれた。
各種バイタル安定している。
多少筋肉は落ちてしまったけど栄養状態も維持できているはずだから、たぶんそろそろ覚醒してくれてもおかしくないはずと思っている。
小狐ちゃんと一緒に様子を見ていると豚くんが予想通り意識を取り戻した。
「ぶひっ!?」
見知らぬ天井に驚き飛び起きた豚くん、すぐに激しい痛みに顔を歪めて突っ伏してしまった。
リハビリはやっていたけど、これだけ長期ほぼ寝たきりだったのに急に動くから……
「小狐ちゃん、お願い」
ぴょんと肩から降りた小狐ちゃんが豚くんと何やら話し込み始めた。
豚くんは身振り手振りが多くてなんとなく言いたいことがわかるなぁと思って眺めていたら話がついたようだ。
「落ち着いた? 大変だったね」
それから豚くんはめちゃくちゃ感謝してくれた。
最初は少し怖かったけど、筋肉が程よくなって、洋服も人に近い作りにしたことによって、一番の理由は見慣れたことで恐怖心はなくなった。
豚くんの話をまとめると、あの種がついたときのことは覚えていないそうだ。
村の仲間と森を歩いていて、気がついたらこの部屋だったみたい……
「やっぱり村はあっちの方なんだね」
西側を示す豚くんの情報でどうやら何かがありそうなことは確定だと確信させた。
それからは豚くんの本格的なリハビリだ。
動かしていなかった関節を少しづつほぐしていく。これには湯船が非常に良い働きをしてくれた。
もともとのはちきれんほどのマッチョがちょうどいい感じの細マッチョになってしまったけど、豚くんの基礎能力は非常に高い。
コボルトくんやケットシーちゃんともすぐに仲良くなって狩りや家事を手伝ってくれる。
僕よりも背が高く力も強い、そして戦いでは壁役を引き受けてくれるようになる。
豚くんが前で壁として敵を抑えて攻撃力の高いコボルトくんとケットシーちゃんが攻撃、僕と小狐ちゃんでフォローしていく戦闘スタイルがめっちゃ安定する。
魔獣の皮で作った大盾を背負うのが豚くんのトレードマークになった。
が、豚くんの本質は盾ではない。
その圧倒的な隠形と周囲の気配察知がもう、なんていうか達人だ。
レンジャー盾、いち早く危機を察知してその驚異からパーティを守る。
戦いの中で敵の注意を一身に引いていたと思ったら、フッと風のように気配が消えて全く別のところから敵の注意を集める。敵は混乱するしかなくなるし、攻撃を受け続けるような消耗もしない。
とんでもなく有能な豚くんであった。
そうして赤目の襲撃から拠点を守ったりしていたら、春が訪れた。
「よし、今日からは西の調査を行います!」
「ワフっ!」「にゃっ!」「ぶっふ!」
森林調査団結成だ。
拠点から西の方向へ少しづつ小さな野営地を作りながら調査の足を伸ばしていく。
そして、西に歩を進めて十数日、明らかに森の空気が変化した。なんというか、淀んでいるというか、不穏な気配が一帯に満ちているような感じ。
「グルル……」「フッフッフッ」「ブフーブフー」
全員その空気を感じて警戒、殺気立っている。
そして、敵、赤目の出現も激しくなっている。
そして、この嫌な雰囲気の中だと、赤目たちが強い……
体感3割増しぐらいの能力になっている、そして僕たちの体が重い、2割ぐらいはデバフを受けている気がする。結果として、戦いが非常に厳しくなっている。
もちろん、5人の力を合わせれば勝てるんだけど、消耗が激しい。
調査は遅々として進まない……
そして、進むほどに嫌な空気が色濃くなっていき、ついにコボルトくんが腕を折られる重症をうけてしまい、大きく撤退することになった。
「うん、経過は順調だね」
受け方がうまいのか、骨は綺麗に折れており、整復して安静にしていればさすがの回復力で一ヶ月もしないで完治した。
「無理しちゃダメだよ!」
よほど悔しかったのか、以前にもまして皆で激しく鍛錬をしている。
私自身も、圧倒的な魔力量で雑に戦っている限界を痛感した。
肉体強化しても、もともとがどんくさい性分だから、戦いの動きというものになれていない。
これは皆の鍛錬に混ぜてもらいながら少しづつなれていくしか無い。
あとは、細かな魔法を丁寧に積み重ねて使用して、戦いのバリエーションを増やすことを考えた。
基本火の玉や水の玉、土の礫を飛ばすだけ、その範囲威力が変化するぐらいだった僕の魔法攻撃、小狐ちゃんの戦い方を参考に、罠のように使ったり、目標へ誘導したり、そのために一見弱そうな魔法を利用したりと、工夫を凝らしていく。
その過程で行ったのが、魔法への名付けだ。
名前をつけてその魔法を明確にイメージすることで、再現性をもたせ、緊急時にも焦らずに使用することが出来る。
戦いのバリエーションを増やすことは、病変に対して一つのやり方に固執するのではなく、多くのアプローチを用意しておくのが大事なことと同じだ。
そして道具だ。まともな装備品といえば豚くんの大盾ぐらいで、適当に石を魔法で切り出した剣やナイフを使っていたけど、岩肌を探り鉄を手に入れた。
魔力によって錬成し、鋼による刃を作成した。
まさか僕が鍛冶をするとはね、知識はあって魔法が有れば、思ったよりはしっかりとしたものが出来た。鉄が生活に加わることで、荷車や食器なんかも一新された。
土系魔法による採掘がチートで、銅やら金やらも手に入ったので、今後役に立ってくれると思う。
全員の装備を一新し、戦いの準備が整っていく。
日も高くなり、汗ばむ陽気になる頃、再び僕たちは西の調査へと歩を進めるのでありました。
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