閑話 森林
別視点の外伝的なお話です。
深淵の森、終焉の森……
その地はこの世界でそう呼ばれていた。
人類が立ち入ることを許されない未開の地、まるで世界から隔離されるかのように巨大な山々に覆われ、全ての生物を拒絶する森。それが、その地だ。
人間の手には余る強大な魔獣や、高い知性を持つ獣人、精霊や死霊までもが当たり前のように跋扈する恐ろしい場所。
しかし、この地でしか得られないものも数多くあり、人間、得に冒険者と呼ばれる者たちはこの森に一攫千金を夢見て挑むのであった。
地理的に4つの国の国境にまたがり存在する巨大な一帯、内部に入るためには東西南北に存在する山脈を貫くか超える道を通らねばならない。
その険しい道程も熟練の冒険者でなければ到底超えることができない。
その険しい道を抜けても、そこからはさらに過酷な森が控えている。
その森にしか生えない希少な薬草を一株持ち帰るだけでも豪邸が建つと言われている理由だ。
南部から森へと入る山脈を貫く洞窟は、最も楽な内部への侵入口となっている。
それでも洞窟内には少なくない魔物が住んでおり、時折、森の内部の魔物が入り込むために、安全とは程遠い。そんな洞窟を抜けると、鬱蒼と茂る木々と草木が冒険者を待ち構えている。
もう、そこは人の領域ではない。
「よし、とりあえずここまでは無事に来れたな……」
「森の魔物がいなかったことは幸運でした」
全身を金属の鎧で包んだ戦士と、ローブを羽織い杖を携えた人物が洞窟の出口から森を伺っている。
「周囲に魔物の気配はない、少し探索してくる」
「頼んだ」
二人の背後から皮の鎧を来た軽装の男が足音もなく現れ、森へと駆けていった。
いかにも慣れた様子に、この人間たちが旅慣れた冒険者であることを伺わせた。
残された冒険者たちも、森の手前に手際よくキャンプの準備をしていく。
周囲への警戒を切らさずに、火を起こし水を沸かす。
カチカチに固まったパンを湯気をくぐらせ、干し肉と乾燥野菜を入れただけのスープを胃に流し込む。
「ふぅ……こんなものでもごちそうだな」
「洞窟内は火を起こせませんからね」
「水は持ちそうか?」
「計画通り、森を3日は探索できます」
「何が起こるかわからないからな……」
「シャドが探索から戻ったら、交代で仮眠をとって、いよいよ森探索だな」
「奇跡の道まで探るだろうから、あと数刻ってとこだな」
「グランドダンプルの攻撃で出来た、噂によると北の入り口まで繋がるとかいう……」
「眉唾ものだが、あの道があるからこそ南と北からの探索が楽になったのは事実だ」
「おかげでイーシスト帝国とウイエント公国がサウザント王国を狙っているんだろ?
いい迷惑だな」
「ノーザンボリッツは強国だからな、まだサウザント王国のほうが御しやすいとでも思ってるんだろ」
「戦争になればダンジョン王国であるサウザントに味方する冒険者が多くいることもわかっているから、表立っては手を出さないだろ」
「そうだな、嫌がらせは増えるだろうが……」
「まったく、こんな小さな場所を奪い合ってどうするんだってんだ、外を見渡しても人間が暮らせる場所なんてちっぽけな一部でしか無いのに……」
「ある程度の安全圏が出来ると、欲が出るのが人間なんだろ。
俺も馬鹿らしいとは思う、本来なら近隣の国家が力を合わせてもっと生存圏を広げるべきだというのに……」
「とにかく俺たちは今回の冒険でいいものに出会えることを祈ろうぜ、先に休む」
「ああ、そうだな」
冒険者たちは順番に仮眠をとっていく。
天幕の下で座るような姿勢で器用に休憩を取る。
この世界は厳しい。
人間に許された土地はほんの一握りだ。
森を中心に、北の強国ノーザンボリッツ、東のイーシスト帝国、西のウイエント公国、南のサウザント王国。この4国は森を囲う山脈を背にすることで、そして山脈から湧き出る川を利用することにによって、人々の安全圏を築くことに成功した。国家間で争わずとも、その外には広大な土地が広がっており、いくつもの種族の集落などが点在しており、国家も存在する。
自然と魔獣という強大な人間な敵がいるにも関わらず、国家間ではくだらない小競り合いを行っている。人間とは罪深く愚かな生き物であった。
「リーダー! 様子がおかしいぞ!」
「おお、シャド、戻ったのか? どうした?」
森へと入った軽装の男、シャドが戻ってきた。
慌てた様子で皆が休むキャンプに走り込んできた。
仮眠をとっていたリーダー、ソルジはすぐに目を覚まし対応する。
他のメンバーもその会話に参加する。
「何があった?」
「き、奇跡の一本道に……何者かの痕跡と、聖魔力が……満ちていた」
「なに!? しかし、南からは誰も入っていないはずだぞ……?」
「いや、そんなことよりこの森の一部に魔力を満たす?
天使でも降臨したのか!?」
「冗談、ではないよな?」
「そんなくだらんことはしない、すぐに確かめたほうがいい……周囲の魔物が聖魔力を嫌って離れているようで、瘴気もほとんどなく、まるでピクニックだった……」
「確かに異常事態だな……よし! 総員すぐに出立だ!」
冒険者たちは文句一つ言わずあっという間にキャンプを畳んでいく。
彼らが持ち帰った情報にいくつもの国家が大騒ぎとなる。
前人未到の深淵の森、そこに巨大な魔物によって作られた奇跡の一本道が、ほんとうの意味で奇跡の道となり、南北に森林を貫くことになった。
林道にあふれる膨大な魔力は周囲の木々を霊木へと変化させ、強大な魔獣たちを遠ざけた。
また、林道には点々と建築物が存在した。
まるで砦のようなその建築物は、全て恐ろしいほどの魔力を込められた霊木によって作られており、決して朽ちることもなく、完全な安全地帯を形成していた。
内部には霊薬にも等しい魔力を携えた食物があり、多くの病から人々を救うことになった。
颯たちの行動が、思わぬ結果を生むことになることを、知ったのは、随分と時が経ってからであった……
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