第18話 変化
「おお……やっと、ようやく、抜けた!!」
永遠に続くと不安もあった林道に変化が訪れる日がついに来た!
広大な森を囲うように巨大な山脈がかすかに見えていたが、ついにその麓を眼下に収めることができた。
直線的な林道が、山に入ると蛇行して巨大な山に続いている。
「こりゃ、こっからも大変そうだね。しっかりと準備をしよう」
目の前に現れた険しい山に比べれば、森の中は様々な物資にあふれていると考えられる。
今までの長い旅路も森からの物資によって支えられている。
ついにこの森から離れるとわかると、少し名残惜しい気もする。
小狐ちゃん、コボルトくん、ケットシーちゃんはそれぞれ自分たちの仕事に移る。
僕も自分の仕事を行う。
魔法によって森を切り開き、山の入口に拠点を形成する。
魔力探知によって周囲の危険な魔物も遠ざけておく。
林道を走っていて、ケットシーちゃんを襲っていたような魔物に会わないことを不思議に思ってたんだけど、僕が魔力を巻き散らかしているから、知性の有る魔物は距離を取るらしい。
今では外に溢れ出る魔力を調整する事もできるようになった。
魔力を垂れ流しと、ここにはこえーのがいるぞーって知らしめることで、魔物たちは僕の周囲から距離をとって襲われにくくなる。
動物も同様に逃げてしまうんだけど、まずは隠匿した魔力探知で魔物の位置を把握してから、個別に魔力の波動をぶつけることで、食材たちが逃げることを防いでいる。
コボルト君やケットシーちゃんたちが結構な距離を狩りしていたことに気がついたときは申し訳無さでいっぱいになった……
「まずは一番大事な浴室づくりから!!」
みんな大好きなお風呂づくり。
ここには手を抜かない、皆へのご褒美も兼ねている。
今までも何箇所も拠点を作りながら移動してきて、僕の拠点づくりも匠の技になってきた。
始めこそ移動式プレハブを運んでいたけど、今では周囲に無尽蔵に有る木々をその場で加工して作り上げている。
そのせいで林道脇に何箇所も宿場町みたいになっているけど、もしかしたらまた使うかもしれないから問題ないよね。
美しい木造りの浴室ができて大満足である。
木々にもたっぷり魔力で強化しているから腐ることもカビることもない。
「いやぁ、自重しないと楽しいなぁ! 魔法最高!!」
まさにゲーム感覚で魔法を使ってやりたい放題やっていく。
使えるものは使っていくのが礼儀だろう。うんうん。
大木を根ごと引っこ抜いて風魔法で切り刻み、乾燥、強化、組み立て、その全てを住居を組み立てていく。戸棚や家具も手慣れたもんだ。周囲の防衛設備も繰り返すことで練られてきた。
3人が帰ってくる頃には巨大拠点が完成している。
巨大と言っても僕と3人が住むにしては、ってことで、建屋は3個ほど、住居と作業場と風呂場。
必要最小限なんだけどね。
コボルトくん、ケットシーちゃんがそれぞれ鹿っぽい動物と鳥っぽい動物2羽、イノシシっぽい動物と魚が5匹。この二人、弓矢をもたせるととんでもない狩人だし、力も強い。釣り竿を作ったらすぐに釣りも覚えちゃったし、この世界に生きる獣人は皆そうなのかな? こんな重そうなものを簡単にズルズルと引っ張ってくる。走れば魔力強化した僕と同等ぐらいに動けるし、獣人の運動能力は人間よりも遥かに高いんだろう。そんなコボルトくんやケットシーちゃんを追い込む魔物たちは人間にとっては驚異でしか無いだろうな……魔法使えなかったら対峙するのもごめんだね。
小狐ちゃんは専用のかご編み車に果実やきのこなどを満載にして帰ってきた。
本当に皆凄い。
そのまま作業場でコボルトくんが獲物の解体を行い、ケットシーちゃんが革や肉の加工を行いながら調理も行っていく。私は水を貯水塔に貯めたり下水設備の不備がないかをチェックする。
下水システムは浄化槽を用意して、生活排水を濾過によって環境汚染に配慮している。
浄化槽にそこら編で捕まえたスライムを利用して、濾し取った物質を最終処理させているのがファンタジーっぽくなっている。
浄化槽に魔法で水を作り出せば、水車を動かし動力にも出来る。
こんなことを何度も繰り返して、今では随分と使いやすい拠点を建築することが出来るようになった。
「今日の獲物は脂も乗ってうまいねぇ……!」
香辛料もかなり集まって、料理のレパートリーも増えてきた。
僕もコボルトくんやケットシーちゃんに料理を習って、随分と腕を上げた。
余った食材は燻製などにして保存食にする。
今までの拠点にも魔力を満たした樽の中に保存食料を置いてきてある。
今回は山越えのためにもある程度の量の保存食を確保したい。
僕の魔力を満たした樽の中では、腐敗などが生じないので、実は新鮮な肉を入れておいても大丈夫なんだけど、寄生虫とか怖いからね。
きちんとした手順を踏んで保存してある。ジビエもブームになっていて、鹿とかイノシシの生肉を食べるなんて恐ろしいことをやる人間は、現代科学社会でもいるんだから、科学の敗北だなぁと思って見ていたのを思い出した。人間の体内で生死に関わる問題を起こす寄生虫がいるよと専門家が言っていても、自己責任と聞く耳をもたない人間がいることに驚いた。結局それで病気になったらお医者様の手をわずらわせるんだから、専門家の話を少しは聞けばいいのに……って思ったものです。
むしろこの原始的なファンタジーな世界の獣人のほうが、その恐ろしさを知っている。有る種のハーブで肉を包んで寄生虫よけをしたり、僕の知らない方法を色々と教えてくれた。
見たこともないファンタジーな植物も多いので、一生懸命勉強している。
精霊の記憶という書いたものを記録しておける魔道具にはこの世界で新たに知ったことがびっしりと書いてある。一日の終りにその記録を手直しするのはこの世界に来てからの日課になっている。
「随分と寒くなってきたなぁ……山越えは、冬開けになりそうだね」
小狐ちゃん、コボルトくん、ケットシーちゃんが頷く。
長い旅路のおかげで、こちらの言葉は殆ど完璧に皆理解している。
僕も3人の言いたいことはある程度理解できるようになってきました。
木戸を開けると刺すような肌寒い風が入ってくるようになった。
どうやら、この世界、この地帯には日本のように四季が有るようだ。
到着した頃は春先、そして森の中なのでそこまで厳しくなかった夏、そして、今が秋に入って冬が訪れようとしていた。
越冬の準備、そして、登山の準備、思ったよりも時間がかかるかも、そう予感させたのでありました。
毎週金曜日の午後18時に投稿していきます。
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