第15話 多彩
雨上がりの爽やかな空気が鼻腔を抜けていく。
少し肌寒いが、雨はすっかりと止んでいた。
森の中に行くつもの雨溜を作っている。
用意しておいた雨水を集める革袋もいっぱいになっている。
「一度自分の限界を知らないとなぁ……
それに魔法で作った水を長期的に摂取して本当に健康被害がないのかもわからないし……」
小狐ちゃんが、魔法で作った水よりも雨水を飲んでいた時に、その可能性に気がついた。
うかつだった。
単純に純水の可能性が高い水よりも、ミネラルなど不純物を含む水のほうが味がいい可能性もあるけど、この世界で先に生きている子狐ちゃんは、僕にとっては生活における先生だ。
なおコボルト君はどちらもあまり気にせず飲む。
まだまだこの世界に対する考察は続けていかないと。
「さて、道に戻ったらコレを組み立てよう、さ、出発だよ!」
一晩僕たちを守ってくれた家は元の土に戻しておく。
板材は必要なものだけ持っていく。
今後も現地調達でやればいい。
コボルト君は器用に木を登って元の道へと僕たちを導いてくれる。小狐ちゃんも周囲の気配を探っていち早く危険を察知してくれている。何よりも一緒にいる仲間がいることが僕にとっては心強い!
途中休憩を挟みながら、ようやく元の道へと戻ることが出来た。
「組み立てようか!」
僕とコボルトくんで荷車を組み立てていく。
4輪の荷車の材料はコボルトくんと一緒に棒と網によって作った荷運びで運んだ来たけど、荷物と合わせるとかなりの重さだった。
魔力による身体強化の練習にはぴったりだった。
反復と持続によって、自身と他者への魔法付与も随分と上手になった。
「そろそろ本当に限界を知っておかないと、いざって時に魔法が使えなくなっていたら目も当てられない……」
自分が規格外の魔力を持っていることは予想がついている。
それでも、きっと限界はある。その限界をしっかりと知って置かなければ、また、回復はどの程度行われるかなどを知って置かなければ、いざという時に命を落とすことにもつながるだろう。
「そのためにも、安全な拠点を作らないとなぁ……」
限界を試すってことは、その後の無力状態を安全に過ごせる場所が必要だから、可能なら他の種族の集落などに所属したい。
考えなければいけないことはたくさんある。
明らかに敵対する勢力も存在する、敵対と言っても、こちらを一方的に食料に見ている存在というか……そういったものに対するきちんとした備え……
「やっぱり、森は出たいよね」
この広大な森、たしかに狩猟もできるし天然の食材、素材も豊富で素晴らしいんだけど、やはり危険だ。視界が悪く敵に襲われた時に木々を利用されてしまう可能性もある。
始めのうちは森の清廉な空気や香りも楽しめたけど、今では薄暗くジメジメしていて、開けた空間が恋しくなっている。
森にこもってスローライフも憧れないわけじゃないけど、せっかくこんなファンタジーな異世界に来たのなら他の種族とも触れ合いたい。
小狐ちゃんやコボルト君みたいな可愛らしい生き物ともっと出会いたいし、なんと言っても……
「あれだけやり込んだチュートリアルをあんまり活かせないんじゃ、僕が報われない!」
それに、自分の技術が落ちていくのは、辛い。
僕と師匠をつなぐものが薄れていくような気持ちがする。
獣医師として生きることが、僕の生きる目的みたいなものだった。
実際、その想いがなければ、僕は人生の最後の殆どの時間をベッドの上で寂しく過ごしていたと思う。
「よし!! 出来た!!」
ババーン!
道幅の7割を占める大きな体、それを支える四輪の車輪。
荷台は広く取られ、僕とコボルト君が両手を広げて寝転がっても余裕がある。
早速持ってきた荷物をすべて乗せても余裕のよっちゃんである。
コボルト君は満足気に車体を眺めている。
小狐ちゃんは嬉しそうに車体の上を行ったり来たりしている。
「引っ張らなきゃいけないんだけどね」
持ち手を上げてひくと、想像より遥かに軽かった、いや、軽くはないけど、もっと力がいると考えていた。コレなら身体強化をすればほとんど疲労なく大量の荷物を運ぶことができる!
コボルト君一人でも余裕で引ける事もわかった。
なんと、僕が荷車に乗っている状態でも楽々と引けた。
調子に乗って後続する荷車オプションを作って移動中にも炊事などができるなんちゃってキャンピングカーでも作ろうかなとか、妄想が広がってしまう。
「やばい、楽しい。生きてるって素晴らしい!」
荷車を利用し始めてからは、日中は移動しながら食料の確保、日が暮れたら資材を組んでキャンプと非常にスムーズ、毎日快適な寝床で眠れるし、最近は魔法でお風呂的なものも作ったので、僕の精神的な満足度は鰻登り、正直、異世界最高と叫びたくなるほどです。
「そんな事考えてるからこういうことに巻き込まれるんだよね……」
傷ついたケットシーを守りながら、煌々と光る赤い目をした巨人と対峙する羽目になったのは、僕のうかつな妄想のせいではないと信じたい。
それは突然だった。
森の街道をいつもどおり進んでいた、異変に気がついたのはやはり小狐ちゃんだった。
それからすぐに森からベキベキと木々をへし折るような音と、ズンズンと地面が揺れ始め、何故か僕たちの荷車の前に飛び出してきた猫型の獣人が、僕たちを見て気絶した。
そして現れたのは5メートルはありそうな巨人、トロールだった……
反射的に土壁を生み出し、撤退戦を行っているというわけです……
「コボルト君、車よろしく! この子診ないと!」
コボルト君は任せとけと大きく頷いて車を引いて走る。
僕は荷台に寝かせたケットシーを診る。
トロールへの魔法による嫌がらせと並行しての診察、果たして何が出るか……
毎週金曜日の午後18時に投稿していきます。
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