第14話 犬人
やっぱり動物の回復は早い、魔物? 獣人? なんと言えばいいかわからないけど、食べて寝て適度な運動を行っていくと、みるみると回復していく。コボルト君は小狐ちゃんともすっかり仲良くなって、今では一緒に狩りをしたり木の実や果実、キノコに山菜などをとってきてくれるようになった。
「もう、大丈夫だね。完治でいいよ」
傷も完全にふさがり、機能的な後遺症も全く認められない。あの重症から考えれば奇跡的と言っていい。本当に良かった。
そして、コボルト君の高い知性と器用な手先には本当にお驚かされた。
僕の作業を見て、あっという間に真似してしまう。
今では編み物や料理なんかもマスターして、すっかり家政婦になっている。
生活面はかなりのポンコツである僕より、よっぽど成長している……すでに料理は抜かれている……
小狐ちゃんもかなり高い知性が有る。
なんと言っても僕の言葉を理解してコボルト君とも意思疎通が取れているんだから。
いせいしゃの世界の生物たちはすごいんだなぁ!
「さて、怪我も治ったけど、これからどうするの?」
僕の言葉を小狐ちゃんが訳してくれて、それを聞いたコボルト君は首をかしげる……かわいい。
それからは、コボルト君のパントマイムの解析を行うことになった。
彼の身振り手振りを僕が予想して答えて、それを小狐ちゃんが伝えて正誤判断。
遅々として進まない会話にイライラ思想なものだけど、コボルト君の可愛さのおかげで、その時間はとても楽しい時間になってくれた。肉体言語ってこういうものなんだろうなぁ……後半の方に行くと、随分と理解できるようになってきた。僕自身の理解も上がったし、コボルト君の表現がわかりやすくなっていったからだ。こういった点からもコボルト君の高い知性が感じられる。
とにかく、このコミニュケーションから理解できたストーリーはこうだ。
コボルト君たちは群れで生活をして、拠点を作って各地を移動していたが、あの赤目の魔物たちに襲われ多くの犠牲者を出した。群れを生かすためにコボルト君が囮となって必死に魔物たちをひきつけて群れは森深くに逃げていった。もう群れには戻れないから自分の居場所はこの群れ、そして命の恩人でも有りあの魔物を倒した強者でもある僕の配下的な者になっていると思っていた。だそうだ。
「そっかぁ……配下はともかく、そういう理由なら一緒に行動しようか。
コボルト君がいると色々助かるから」
小狐ちゃんの翻訳を聞いて嬉しそうにしっぽを振って小躍りしているコボルト君は可愛さが爆発していた。
「だったら、僕がどうするかを決めないとね……とりあえず、この森を抜けたいんだけど……
なにか当てがあると良いんだけど」
どうやらコボルト君もこの広大な森の外を知らないらしい。
まさか、ゲーム場面全てが森とかないよね『いせいしゃ』さんよぉ……
「とにかく、移動する準備を少しづつしておこうか。
たぶん天候が崩れそうだし」
空を見上げると青空に雲が多くなっている。
それと、少し涼しく湿った風を感じる。
「あと、僕的天気予報で雨の予感がする」
頭の奥のほうが鈍く痛む。この兆候が出ると、雨が降るんだよね。多分気圧のせいだ。
魔法で作られた土の建物がどこまで水に耐えられるかわからない。軽く水を防ぐ補修をしようと思う。今後の移動を考えれば、しっかりとした建造物より、簡単な骨組みを魔法で作って周囲を木々で補修が良いだろうと考える。いずれは大型のテントとかターフみたいなものを作りたいな……
とりあえずコボルトくんと木板を組み合わせて屋根や壁を作っていく。はしごもコボルト君がササッと作ってくれた。最近僕を真似て作り始めた編み縄を利用して色んなものを作っている。
繊維の豊富な長い草を石で叩いて繊維をほぐして縫い込んでいくんだけど、コレがまったくもって馬鹿にできない強度を出してくれる。たぶん、時間をかければ紙とかも作れそうだ。
そこら中に生えている草なんだけど、ものすごくお世話になっている。
それと同様にためていた動物の皮も利用する。
揉んで叩いて油を塗って、煙で燻す。
物資の枯渇は避けたいから、出来る限り現地のもので代用できるものは代用したい。
貴重な縫合針や糸を生活品で浪費は出来ない。
病弱な身体を憂いて一時期漁るように読んでいた転生系小説、そこから真面目に異世界転生した場合に必要な知識や技術についてまとめたことが役に立つとは思わなかった。
一度思い込むととりあえず形になるまで突っ走ってしまう僕の性格もたまには役に立つもんだ。
しばらくするとポツポツと雨音が聞こえてくる。
準備のおかげで部屋の中への浸水はなく、どうやら雨程度では部屋がどうにかなることは無さそうだ。さーーっと雨音が響く森の中、冷やされた風が扉から流れ込んでくる。
雨のノイズ音が、静けさよりも作業に没頭させてくれる。
これからの長旅に必要な移動時に役立つ道具作りがとても捗るのであった。
「なんといっても荷車は絶対だ」
森の内部は厳しいが、あの道を進むためには荷車が絶対に必要だ。
ありがたいことに木材は山ほどあるし、魔法を用いた木材加工はかなり丁寧な仕事を可能にさせる。
車輪というものを発見した古代の人間は偉大だ。
現代社会においても、鉄の塊に車輪をつけて走っているんだから、とんでもない発見と言える。
もちろん構造や素材は変化しているが、太古の時代から現代まで、その基本コンセプトは車輪の利用だ。
木材を重ね、重量と耐久力のバランスを考えて、シャフトとの摩擦や負荷がかかる部分には植物や動物の素材を利用していく。荷車だからあまりに精巧なダンパーなどは用意しない。
極端な話をすれば、箱に車輪をつけて引ければいい。
白衣の中のこの世界の貴重品を使えば、すごくいいものが出来るだろうけど、それは今ではない。
「コボルト君や小狐ちゃんみたいな意思疎通が可能な種族ともっと交流が取れてきたら、色々と考えないとなぁ……」
いせいしゃの世界では多くの種族の治療に当たった。
まだ見ぬ種族はたくさんいるはずだ、コボルト君みたいに社会を形成している種族だっているだろう。僕はこの世界では異物だから、なんとかそういった種族と渡り合っていかなければいけない。
たぶん、医療の知識や技術はそういった交渉の役に立つだろう……
「普通に生きていいられるだけでも幸せなのに、こんな胸躍る冒険まで出来るなんて……ありがとうございます神様!」
困難な道筋も、乗り越えるべき試練と思えばやりがいがあるし、なによりこの健康な体に圧倒的な力までもらってそれに挑まないなんて、無いでしょ!
外は雨。
森は静かに僕たちを包み込んでいた。
毎週金曜日の午後18時に投稿していきます。
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