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第12話 打撲

「ふへへへへ……小狐ちゃーん……ふひひ……」


 目が覚めると、すでに小狐ちゃんの姿はなく、寝ぼけて自分の腹を擦っている残念な大人がそこにはいた。

 小狐ちゃんは主の居ない枝葉布団で丸くなって眠っていた。


「うふふ、今日からはたっぷりこの子を撫で回してこねくり回せるのかぁ……」


 目覚めるまでハァハァいいながら眺めていたら、距離感が広くなった。反省。


「さて、今日も進みますかぁ」


 片付けを済ませて出発する。

 個々数日で随分と慣れたもんだ。自分の順応力の高さに感心する。

 まぁ、家とか元気だったらずぼらでゴミ屋敷になるタイプな自覚は有る。

 病院でもどこでも寝られたし、図太いんだろうね。


 身体強化を行って進んでいるために、かなりの距離を登っている。

 その影響は周囲の草花に現れていた。

 少し種類が変化して見慣れない植物が増えてきた。

 そして、木々の高さが低くなってきた。

 急に登ってきたら息苦しくなってくるのかもしれない……

 冷え込みに関しては、日が出ているためにそこまで気にならないが、森林を抜けてくるしっとりとした風から、丘に広がる爽やかな風へと変化している。


「キィーーーー!!」


 小狐ちゃんが肩に乗ってきた! 肩に! 肩にっ!! って今はそっちじゃない。

 警戒音だ。耳をすませば……何かが争うような音が聞こえる。


「向かうけど気をつけて!!」


 音のする方に駆ける。手の入っていない藪を進むのは大変なので、まるで忍者のように木々を渡っていく。こ、怖いけど、今の僕ならなんとか出来る!

 暫く進むと音の正体がわかる。

 

「キィーーーーー!!」


 小狐ちゃんが嫌悪感を示すように、あの目の赤い今度はなんだろ、毛のない猿のような生物が棒やら棍棒で子供を叩いているように見える。

 あれはコボルトだ。チュートリアルで出てきた。

 とりあえずこの世界であの赤い目は敵認定だ!

 50cm程の水弾を作り上げて、ハゲ猿に撃ち込む。

 ドゴン! という想像よりも強力な音がしてハゲ猿が吹き飛んでいく。

 まともに木にぶち当たった不幸な者は幹がへし折れて憐れぺしゃんこになっている。

 凄まじい威力だな……

 精霊の手を使って一方的に叩かれていたコボルトの子をすくい上げ、ハゲ猿達から距離を取る。

 数匹は水弾が致命傷になってみたいで、あの狼みたいにドロドロに溶けて消えていった。

 残りの奴らもかなりのダメージを受けたのかよろよろと立ち上がる。

 コボルトの子をトリアージする。

 打撲多数、可視粘膜蒼白、裂傷多数、出血は甚大ではない、意識レベルは低い、瞳孔反射、対光反射は正常、四肢の痛覚反射は正常、外傷性ショックは起こしているけど、頭部外傷による急性の神経障害は起きていない。頭部外傷は時間経過で悪化することが有るから、要注意だけど、まずは全身循環の回復と外傷へのケアだな。

 猿たちはすでに地面から伸びた棘槍に貫かれ、灰となって消えていった。

 

 すぐに処置を開始する。

 静脈を確保する。血圧が低下しているが、もう幾度となくこんな血圧低下状態で処置をしている。「見えていればどうということはない、見えていなくてもそこに有れば入れるんだ。それで生死がきまるんだぞ」師匠の言葉を思い出す。

 留置針を設置し、世界樹の一滴と呼ばれるゲーム世界の生物全てに使える便利点滴を流す。

 血管や皮下に入れればちゃんと点滴として働くのに、飲もうとすると霧になって消えてしまうファンタジー物質の一つ。


 ショックというのは生命の危機に瀕した身体が、なんとか命をつなぐために、生命にとって重要な機能を持つ中枢部分に体液を集めてなんとか生き残ろうとする反応だ。

 生命機能にとって重要性の低い末梢への血液循環を改善させてあげる。

 同時に生体にとってストレスとなる痛みを和らげていく。精神を落ち着ける香や塗り薬で対応していく、こういうときは注射による消炎剤とか、オピオイドなどの麻薬鎮痛剤とかが欲しくなる……

 少し怪しいファンタジー薬もある、ちょっと気持ちよくなってしまったりね、使い方です。

 酷い切り傷は洗浄後縫合、打撃部分も丁寧に洗浄し炎症を抑える薬草入の軟膏を刷り込み非固着性の包帯で覆っていく。

 胸腔内の損傷や腹部臓器の損傷がないかどうかは、現実世界で言えば超音波やレントゲンなどの画像診断で複合的に判断をする。

 いせいしゃでは魔道具と呼ばれるものでそういったものの代わりをする。

 精霊の囁き。言ってみれば聴診器、打診など応用が効くので、やはり欠かせない。

 精霊の目。精度の悪い超音波兼レントゲン、慣れればかなりの状態把握ができる診察における僕のメイン武器。

 精霊の棘。穿刺吸引、静脈投与など、簡単に言えば注射針、形態変化可能。

 あとは素敵ファンタジー素材で作られた薬とか素材の数々。

 ある意味科学的な道具より、優れていて、ある意味劣っている。

 イメージとしては漢方薬とかハーブとかそういった感じで、抗生物質やステロイドとかのようにピンポイントでガツンと作用するような薬は無い。

 正直、ポーションとかそういう便利薬が有れば楽勝なのに、このゲーム、甘くありません。

 でも、何事も使い方であることは、幾度も繰り返したチュートリアルで身体に刻み込んでいる。

 さらには、獣医師としてのスキル、経験知識も注ぎ込んでいるいせいしゃガチ勢を舐めんなよー!


「よし、随分とバイタルも改善してきた。

 骨折がないのは凄いな、頑丈なんだなぁ。

 あとはとにかく安静にしてもらわないと……

 拠点を作ろう」


 全身包帯に巻かれた犬っぽい子供がゆっくりと身体を休める場所を作らなければいけない。

 あの猿たちは木々を利用していたから、周囲の木々は危険が危ない。


「仕方ない……」


 風を起こして周囲の木々を伐採して、少し開けた場所を作り、一気に病室を作り上げる。

 台を作って周囲の伐採した木々から葉を集めてベッドを作る。

 

「よく考えれば、布とか持ってるじゃんね僕」


 治療に使う布やら包帯やらを利用して、中に草を詰めてフカフカのベッドになる。

 縫合針と縫合糸で包帯や布をちくちくと縫い合わせて布団やらかばんやらを作り上げる。

 コボルトの子を寝かせてから、思いついたことをいろいろと形にしていく。

 白衣はチュートリアルで手に入れた様々な報酬を出すことが出来るけど、しまうことは出来ない。

 あの繰り返したチュートリアルの報酬だから、恐ろしい量が入っているだろうけど、この世界で補充出来るかわからないから、あまり無駄遣いはできない。

 外に存在するもので代用が効くのであれば、そうしたほうがいい。

 

 間伐材の木々も色々と利用する。

 いや、本当は荷車を作りたかったんだけど、複雑な構造は難しい。

 車輪と言うか円盤とかを組み合わせて、とても……ぼろい荷車は作ったんだけど、とても山中で使えるものじゃなくて、薪にした……道に戻ったら改めて考えよう。少し考えればわかるだろ、自分……

 

 コボルトの子は翌日になっても意識が戻らないので、鼻からチューブを入れて食道へ流動食を与えていく。植物由来の成分だけでは弱いので、周囲で狩りを行った。おかげで僕も鶏肉を頂きました。香草焼き、とても美味しいです。小狐ちゃんにもおすそ分けしてみたら美味しそうに食べてくれて、すっかり一緒に眠ってくれるようにななりました。小狐ちゃんもコボルトの様子をよく見てくれて、少し狩りに出ている間のお留守番もしてくれました。いい子だ。そんなこんなで、このコボルトの子が意識を取り戻すまで、この地で3日ほど過ごすことになった。



 

 



毎週金曜日の午後18時に投稿していきます。








よろしくお願いいたします。
















もし、次が来るまでお暇でしたら、他の作品もお楽しみいただけると幸いです。

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