借金のかたにされた伯爵令嬢 〜ざまぁとかしないでこっそり幸せになります〜
はじめちょっと辛そうですけどそう言うんじゃないっぽいです
分かりにくいようだったので説明を増やした増量版を別で投稿しました。
執務室のドアをノックする。
「来たか。入れ」
グスタフ = ゼネジー伯爵の、入室を許可する声が聞こえてミラベルはドアを開け執務室に入った。
「お父様、何か御用ですか?」
グスタフは仕事人間でこれまで日中に娘を執務室に呼ぶなどと言うことは無かった。
ミラベルは嫌な予感しかしない。
「お前にはダンデニヤ商会に行ってもらう」
「商会に行く、ですか?」
ダンデニヤ商会はゼネジー伯爵家に援助してくれている大商会だ。ゼネジー伯爵領は後妻でありミラベルにとっては義理の母であるジーウの浪費癖のせいで財政が傾いている。ジーウの実家は侯爵で、要はめんどうな娘を押し付けられた形だ。
「ダンデニヤ商会は今他家との繋がりを得るために娘が欲しいそうだ」
「娘が?…」
「そうだ。養女としてダンデニヤに入ってくれ」
「………、かし、こ、まり、ました…」
あまりの事にミラベルは呆然としていた。
父の再婚からあまり良い扱いはされなくなっていたが流石にこんな事になるとは思ってもいなかったのだ。
ミラベルにも一応、婚約者も居た。相手のスティーブ = ライヘンベルガーは格下の子爵家長男だ。財政的に逼迫している現状ではあまり美味しい相手ではないと言う判断だろうか。ゼネジー家には男児が居ないにも関わらず長男と言うのはそもそもミラベルに家を継がせたくないジーウ伯爵夫人の策略だったのだろうに。
「今日これから迎えがくる」
「きょ、今日…、いえ、では早速支度を…」
「その必要はない。お前に持たせられるのはそれだけだ」
伯爵はミラベルの横にはじめから置かれていたスーツケースを指差した。
「え?」
「それだけ持っていけ」
「は、はい…」
ミラベルが蒼白になっているとドアをノックする音が後ろから聞こえてきた。
「来たようだな。まあ、達者でな」
「は、はい」
「大丈夫ですか? お嬢様」
知らせに来たメイドのカーリンがそのまま付き添ってくれるらしい。
スーツケースを持つのと反対の手でミラベルを支えるようにして馬車に乗り込んだ。
開いたままのドアから屋敷を見ると、義母や義理の妹たちが楽しそうにこちらを見ている。見送りというより借金のかたに荷物も持たずに売られていくミラベルを見て楽しんでいるのだろう。
ドアが閉まり、馬車が動き出す。住み慣れた屋敷がだんだんと遠くなっていく。
今は亡き母との思い出も、祖母との思い出も全て置いて。
婚約者のスティーブとは親同士が決めた仲だったが、それなりに良い関係を築いてきたつもりだった。それももう終わりだろう。
「なんだか疲れてしまったわ…」
「私が支えますので、少し眠ってください」
「そうね、そうさせてもらうわ…」
馬車はダンデニヤ商会の本店がある領に向けて走った。
無理のないペースで移動したこともあって二日とちょっとの道のりだった。
商会の本店に着くと、そこは貴族のそれと変わらない屋敷だった。
すでにミラベルの部屋が用意されており、そこに案内された。
着のみ着のまま、何も持たずに来たミラベルに、衣装は用意してあるから着替えてきてくれと言う。
「な、に、これ…」
お風呂で綺麗になった後、ウォークインクローゼットに入るとギッシリと服が詰め込まれていた。見覚えがあるデザインの服が半分くらいを占めているところを見ると、普段利用している店から取り寄せたのだろう。サイズもピッタリだった。
「どう言う事なのかしら…」
カーリンに身支度を整えてもらうと、ミラベルは会長たち、つまり新しい家族の元へと向かった。
カーリンに確認してもらい、開いたドアを潜ると思いもよらぬ相手が待っていた。
スティーブ = ライヘンベルガー子爵令息だった。
いや、彼と共に会長やその家族らも席についていた。
驚きを隠せなかったが、挨拶を済ませ席につく。
「私は商会長ではあるが、男爵位も持っているんですよ」
ダンデニヤ商会の会長、新しく義理の父になった男が笑った。ちょうど良いでしょう? と。
どの家から嫁ぐか変わるだけですよ、と。
それなら何故、そう言ってくれなかったのか、それは結婚式も済んでしばらくしてから判明した。
父に持たされたスーツケースの中にはいくつかの書類と、祖母や母の形見が入れられていた。
形見の品のほとんどは義理の家族に奪われていた物だった。
出入りの業者に売り払われそうになっていた物をこっそり回収したらしい。
そして、書類はゼネジー伯爵家の土地建物の権利書だった。
土地に関して言えば屋敷の、ではなく領地の権利書だ。
ジーウ伯爵夫人やその娘たちの浪費によって既に借金のかたになっていると言う事にしたらしい。
一旦名義がダンデニヤ商会にされた後、ミラベルに戻されていた。
そう、ゼネジー伯爵家は没落したのだ。
元伯爵夫人たちは離縁の後、実家へと帰り、グスタフ元伯爵は隠居と言うていで元ゼネジー伯爵領の片隅にある別荘を貰い受けた。
伯爵位に関してはジーウらの横槍が入ると困るので熱りを覚ます意味もありミラベルが女伯爵、つまり息子が生まれるまでの中継ぎ、と言う形で済ませた。
「何も、変わらない、のですよね」
「ええ。ただ後ろ盾が変わっただけで、貴方も、私の貴方への愛も、当初のままですよ」
「あうっ…。私も…ずっとお慕いしております」
ミラベルは新たにライヘンベルガー子爵となったスティーブと共にダンデニヤ商会の後ろ盾もあり、豊かで幸せな人生を送るのだった。
ちょっと貴族の云々は間違ってるかもしれないですけど、フィクションって事で。ええ。
追記
名前間違えてましたね。やらかしました。
ミラベルで統一しました。
ミランダって何のキャラだったかな(オ
父は主家の娘を押し付けられてお金を搾り取られていたので、娘に破産した家の娘と言う汚点を残さないために全部背負い込んだ形ですね。もうちょっと説明が必要だったかな
貴族の当主が爵位を譲って隠居するのも普通なので、隠居がちょっと早くなっただけ、くらいに考えてもらえれば(適当
別れた奥さんは領地も何も無くなったと信じて、娘を連れて出て行ってしまいました
本来の形で爵位を継承するとお城でうんぬんあるので、暫定継承にして誤魔化してます。