56 お部屋へご招待
ショッピングモールで我々はマリモを買った。それからハンバーガーショップでバーガーを食べてから、帰宅した。ちゃんとブツもアジトに届けることが出来ている為、また報酬がもらえた。
折角貰っているお金は、全然使わないので貯まる一方だ。でもこれからはマリモちゃんに愛情を注いでいける。リビングのテーブルに置いた水槽に、私とレイヴの大きなマリモが二つ入っていて、それを三人で眺めていた。
「ねえ」エミリが何かを思い出した。「そういえば、イオリは撃たれたんだって?」
私が答えた。
「かすり傷みたい。すぐに良くなる。」
「それなら良かった」と、エミリはまた水槽をじっと見つめた。
マリモは何十年も生きる。だから私はレイヴに頼んだ。
「レイヴ、私が消えたら、マリモのことよろしくね。」
「え?消えるの?」
レイヴが驚いた顔をしている。エミリもだ。私は二人に説明した。
「私はこの世に未練があるからここに残っていられるみたい。私の未練は犯人はティーカップの中の放送を見終わってないこと。だから最終回を見終わったら、消える。」
「えええええーぇぇぇー。」レイヴが頭を抱えた。「じゃああと半年ちょっとじゃん……そんなぁ……。」
「だからきっとイオリも、それを知ってるから、私と楽しんでるだけ。サラの方がずっと一緒にいられる。私はそれが正しい判断だと思う。」
「違うよそんなの。」レイヴがテーブルに肘をついてダルそうにした。「じゃあ逆にリアちゃんのこと必死こいて幸せにしないとダメじゃん。時間が少ないんだからさ。ってかそうなのーあー……そうなんだー……ずっといるのかと思ってた。」
「そうでしょ?ごめんね。」
レイヴとエミリは目を合わせてため息をついた。そういえばずっと消したままだったノアフォンの電源をつけた。するとイオリからの着信が十件ほど溜まっていた。
……あと、恐ろしいことにサラからの着信も三十件ほど溜まっていた。思わず震えた。やばい。私何かしたかな、分かんない。やばい。
これって返した方がいいの?多分返した方がいいんだろうけど……ああもう仕方ない。私は窓際に行って、サラに電話してみた。もう既に全身が泥のように重い。呼び出し音を聞きながら深いため息をした時に、彼女の不機嫌な声が聞こえた。
『あんたさぁ、』
「えっ。」
『もしもし?聞いてるリア。あんたさぁ、全然電話出ないけど、どうなってるの?一日中その辺プラプラしてて暇でしょ?すぐに出でよ、とろいんだから。』
「切るよ?」
『待って。話したいことがあるんだけど。』
やっぱ電話しなきゃ良かった。無視したら良かった。
『最近イオリと会ってる?』
「……そんな会ってない。ってか別々の部屋だし。」
これでいいだろうか。
『あーそう。まぁ、別に隠れて会っててもいいんだけど。どうせあんたゴーストだし。彼にもお友達が必要でしょ?彼にとって他に友達と呼べるのはシードロヴァぐらいだもんね。あとダニー?だっけ。そんな話をしたいんじゃないの。あのね、実はイオリの部屋に変な祭壇があるんだけど、あんた何か知ってる?』
「祭壇?イオリは宗教でもやってるの?」
『あ、知らないんだー。いやそう言うのはやってないと思うんだけど、彼、最近変なの。あ、そうだ!今夜、私達の部屋に来てくれない?』
「え?今夜……?」
『レイヴも連れてくればいいでしょ?話すより見てもらった方が早いから、絶対に来て。「あ」
私が何かを言う前にブチッと切れた。選択肢なしかよ……。レイヴとエミリがこちらを見ていたので、今の会話の内容を話すと、レイヴは今夜は暇だからいいよーと優しいことを言ってくれた。
何かお土産を持って行った方がいいだろうかと少し考えたけど、やっぱりやめた。サラの好みはあまりよく分からないから変な安物持ってったら逆に怒られると思った。
あと別にお土産持って行って喜ばせたくもなかった。
その日の夜になると、レイヴとエレベーターに乗って、イオリの住んでいるフロアに着いた。廊下からして銅像とか絵画とか美術館みたいで、やはり下層階のそれとは雰囲気が違った。
ほえーと言う顔をした私とレイヴは、イオリ達の住んでる部屋のドアの前に着いた。レイヴがチャイムを押すと、ドアが開いてサラが「どうぞ」と入れてくれた。
サラは大きな白いハットを被っていて、室内なのに夜なのに、大きなサングラスをしている。タイトなゼブラ柄のワンピースに、首にも手首にも金銀のブレスレットがついていて……あとまた太った気がする。
リビングは大きく広くて、オリオン様の部屋に近かった。アイランドキッチンには何も置いていなくて、大きなソファやモニター、それから中央にはホットタブがあった。
一面が窓で、その先にはバルコニーがあった。空しか見えない綺麗な景色だ。窓の前にはイオリの私物と思われる天体望遠鏡が置いてあった。それだけでどきっとした。
コーヒーテーブルにはイオリのオフィスで見たような小さい時計が置いてあった。きっとここで誰かの相談に乗ったりするんだと思った。
サラが向かって右の方を指差した。
「あっちが私の部屋、と言うか私のエリア。寝室とかバスタブとか、私のものがあるの。一部屋余ったからそこはクローゼットにして、コレクションが置いてある。見たい?ふふ、見せないけどね。」
「ああそう……。」
サラは反対側を指差した。
「あっちがイオリのエリア。彼のベッドルームと、机にPCしかない部屋と、あと……例の祭壇がある。このホテル何だかちょっと部屋の趣味が悪い気がして、私は結構壁紙をカスタマイズして変えたけど、彼はそのままホテルの部屋を使ってる。」
するとレイヴが聞いた。
「お前、随分と羽振りいいけど、働いてんの?」
サラがサングラスを取って、その辺に放り投げて、レイヴを見下す視線で睨んだ。
「あんたさぁ、誰に対してそれ聞いてんの?イオリは今やあんたの上司でしょ?私の一声で、あんたなんか組織から出ていくことになるよ?」
「はあ?そんな訳ないだろ。」
「あんたの仕事なんか替がいくらでも利くんだけど。見て欲しいのはこっちにあるから付いて来て。でも汚い手でその辺触らないでよね。」
サラはイオリのエリアの方へ歩いていった。私とレイヴは目を合わせた。するとレイヴがサイレントで手を舐めるフリをしてから、ソファをベタベタ触ったので、私は笑いを堪えた。
確かに、サラのエリアは遠目から見ても壁紙が派手だったり、照明がピンクだったりするけど、イオリの方はホテルの部屋そのままって感じだった。
大きめのリビングから繋がるように部屋があって、ホテルっぽいキングサイズのベッドがあった。ベッド脇の大きなクローゼットは少し扉が開いていて、中にはハンガーにかけられたワインレッドのテロテロのシャツが見えた。
あの時私が買ってあげた服だ。サイドテーブルには心理療法の辞典が置いてあって、本の上部どころか横側にも下側にもはみ出るぐらいに、めちゃくちゃ付箋がしてある。
「ね?質素でしょ?」
サラの言葉に、レイヴが首を傾げた。
「別に普通じゃね?」
「以前は違ったの。一軒家に住んでた時は、彼、インテリアにもこだわりがあって、高級家具しか置かなかった。買い物だってよくしてた。でも最近は何買ったの?って聞いても天体望遠鏡だとか、本だとか。つまらないものばっかり。」
「お前が無駄遣いばっかしてるからじゃねえの?」
「はあ!?私がいくら使ってもあまりあるぐらいにイオリは高級取りなの!ノアズにいたのが馬鹿らしいぐらいに今は貰ってる。私なんか、なんであんな所で受付してたんだろって本当に思うし、まだモリーはあの受付で毎日働いて、あれしかもらえてないのかなって思うと、ホント笑っちゃう。」
そりゃすごいことだ。彼のベッドの布団が少し乱れていたので、サラとレイヴが言い合っているその隙に、布団を直してあげた。……ここで毎日寝てるんだ。一緒に寝てみたい。寝れないけど。




