54 月夜の情熱
折角なので、私も彼の身体にしがみついた。彼の襟に私の頬が当たっていて、布越しに彼の体温を感じる。彼の肌が間近に迫っている。あといつものいい匂いがした。彼の香水の匂いだ。
「あまり、嗅ぐな……ばか。」
「いい匂いがする。初めて会った時も、このいい匂いがした。」
「……。」
更にぎゅうと抱き締められた。どくん、どくん、と彼の胸が鳴っている。彼は生きている。私の胸の中も鳴ってるけど、これは何なんだろう。偽りの血潮だ。
安心する。くっついていると癒される。いい匂いがして、どんどん嗅ぎたくなる。ずっとこのままでいたくなる。ここでサラの顔が頭を過ぎる。私は彼に言った。
「もうおやすみしよう?」
「解放してほしいか?」
「うん。」
「ならば、キスをしろ。」
「なんで……。」
「じゃあずっとこのままだ。」
「じゃあ透けて「それは禁止だ!」
急に大声を出したので慌ててシーッとやった。イオリもわかったわかったと何度も頷いて、二人でクスッと笑った。
それから見つめ合った。イオリの黒い瞳には、微かに紺色のラメみたいなのが入ってる。闇属性の影響でそうなっているのだろう。それが星空みたいだった。
「どうした?」
「イオリの瞳も星空みたいだよ。すごく綺麗。」
「そ、そうか……お前の青い瞳も、藍色のスジが入っていて綺麗だ。」
「どう、も。」
こんな至近距離で見つめ合って、とてもドキドキしているのに、彼が私の唇に意味ありげに視線を落とした。この雰囲気にもう耐えられなくなった私は、抱きつくフリをして、彼の首筋にカプッと軽く噛み付いた。
「うぁっ……貴様ぁ……!」
とてもいい声が聞けた。もう一度噛みつこうとしたら、イオリに頭をガシッと掴まれて、力強いキスを受けた。
唇の間から、舌が入ってきて、とても熱く絡まった。ぞくぞくする。彼はキスが上手だ。腰が砕けそうになって、もう解放してほしい私は後ずさった。
でも彼がそのまま私を押してきて、キスしたままどんどん後ろに下がって、遂に壁際の木製のキャビネットに腰をぶつけた。彼は私の腰を持ち上げると、その上に私を座らせて、私の足の間から入ってきて、激しいキスをくれた。
押されて、壁に頭がグリグリされる。こんなに激しく誰かに求められた経験は無かった。声が出そうになる。それが恥ずかしくて、つい手で私の口を押さえると、彼が少し微笑んでから私の首筋に軽く噛み付いた。そして舐めてくれた。
「腰、揺れるー……」
「もっと揺らしてやる。」
「ばかー……」
首に鋭い痛みが走った。彼が思いっきり吸ってきたからだ。そしてそれも、優しく舐められた。もうとろけそうになる。ちなみに今、私の股に、彼の硬いものがガウン越しに当たっている。
荒い吐息が首筋に当たってる。私は彼のツヤツヤウェーブの髪の毛を撫でた。気持ち良かったのか、彼の動きが止まったので、私は何度も撫でてみた。
「頭撫でられるの好き?」
「……あまりされたことない。お前は、これは好きか?」
うおお!驚いた時にはもう既に、私のパジャマがビリっと音を立てていた。イオリが私のパジャマを力づくて引き剥がして、ボタンが床に転がる音がした。
「なんで破く……!?」
「それほど求めてるということだ。ここも。」
イオリは私のパジャマのズボンの股の部分も引き裂いて穴を開けた。すごい力だ。穴から私の下着が見えてる。それはいけない!
「それは破いちゃダメ!代えがあまりない……!」
「……わ、わかった。ではこうする。」
イオリはガウンの腰の紐を解いて、私の下着をずらしてその隙間から、熱いものを入れてきた。こんな服を破られて、激しく求められるとは思ってなかった。
彼が私に覆いかぶさるように抱き締めてきて、ゆっくりと打ちつけ始めた。声が、出る。我慢するけど、でる。彼が耳にキスしてくれる。私は彼にしがみついた。
「……こ、こんなに破くの?いつも。」
「ん……彼女の服は、破いたことがない……はぁ、これは、お前だけにしか……!」
「破けばいいのに……!」
イオリが動くのをやめて、私の頬を掴んで私を見つめた。ぎゅうぎゅうに詰まってる感覚が、体を支配してる。
「……こんなに熱く燃える行為が出来るのは、アリシアだけだ。もっと激しくしたい。激しく、服を破いて、嬲るような口付けで、獣のように愛したい。時には時間をかけて、とろけるような愛撫で、一晩中繋がりたい。そういうことは、彼女とは出来ない。こうして激情に流れるままするのも、夜空の下でゆっくりとしたのも、俺の記憶から簡単には無くならない。……俺は、アリシアが好きだ。」
「え?」
イオリがちゅっとキスをしてくれた。下の方がピクッと動いた。また見つめて、彼は言った。
「……縛りたい。」
「え?え?」
聴き間違えたのかな?でも彼は真剣な表情で、続けた。
「目隠しとか、吊し上げとか、してみたい。鞭で叩くのは……「そうだよね、それは痛そう」少しだけしたい。」
「したいのかぁ……イオリってちょっとSなんだ。どうしてそうなっちゃったのか。」
「多くの加虐性愛は、周囲からの疎外や残酷な扱いに対して、自己の力の保証のために他者を残酷に扱うことに満足を得た結果、サディズムを得る。」
「なんかすごい専門的なこと言ってきた……。」
「ふふ、俺は専門としている。違う違う、そうじゃない。アリシアは、俺のことを好きか?」
「……。」
好きって言えば、どうなるの?分からない。イオリは私のことを好きって言ってくれてるけど、同時にサラのことを愛してる。それは知ってる。
「別に、イオリとサラの関係を壊そうなんて思ってない。」
「分かってる。」
「だから、答えたくない。」
イオリが私のこめかみにキスをして、そのままいきなり激しく動き始めた。私は彼の肩をガッチリ掴んで、甘い感覚に耐えた。ガタンガタンとキャビネットが壁に当たってる。
「……アリシアっ……縛ったら、俺の命令に全て従ったら、こうしてご褒美を与えたい……んっ」
「ウアアア。」
「もっと、可愛くその、出来ないのか?ははっ」
「よゆーないからぁぁ!」
二人の吐息が混ざってる。イオリは私にキスをした。舌を絡めたかったけど、彼が離れてしまった。彼のとろけるような視線が、とても色っぽい。私は聞いた。
「縛りたいの?私を。」
「ああ。とても。そしてご褒美に、快感を与えたい。だから、戻ってきてくれ。俺は」と、彼は私の頭にキスをした。「お前が離れてから、ずっと寂しい思いをしていた。メッセージだって中々……貴様ァァ!」
「あああああー!」
いきなり強烈にドカドカ突いてきたので叫んじゃった。慌てて私の口を押さえたのはイオリだった。「ごめんごめん」と小声で謝った。二人で固まって周囲を警戒して、誰も起きてこないことを確認してから、イオリが私のことを睨んだ。
「返信が早いだと!?二日後に返事をする人間のセリフではない!」
「忙しかったからだよ……レイヴのお仕事は朝から晩までぎっちりなんだもん。イオリは意外と返事が早いね。」
「……おい、」と彼が動き出した。私はぎゅっと目を閉じだ。「お仕置きが必要じゃないか?だから戻ってこい。」
「戻ったらおしおきされるのー?ああああ」
「ああ、たっぷりとしてやる。その分、ご褒美もな。」
「いいってば、いいってば、サラと同居はやだーああああ!」
「んんん……ならばマリモを買ってやる。」
「いらないってばっ……」
やばい、飛びそう。イオリもそうなのか、今までにないくらい激しくなった。
「買ってやるから今すぐ帰ってこい……あっ、はあっ!すま、ない……っ!」
「…………わかった、わかったか……ら。」
うあぁぁ、イオリとまたキスをした。視界の端の窓から星空が見えた。ぐったりしていると、彼が私を抱き締めてくれた。
「なんか、今日は、新しいイオリを見た気がする。」
「ははっ……お前だけだ、本当の俺を理解しているのは。さあやるか、リア。俺についてこい。」
「やだ。」
「え?」
死んだような目をしたイオリと目が合った。
「だって、今すぐにはレイヴが可哀想。仕事だって私ありきのものもあるし、今は彼ととても仲がいいから急に私が消えたら絶対に悲しむもん。だから来月帰る。まだ犯ティーは続くから大丈夫。それならいいでしょ?」
「しかし……」と彼の目が泳いだ。「その間にレイヴがアリシアに迫ったらどうする?」
「私はイオリの彼女じゃない。それにその気がないのに迫ってきたら、姿を消すから大丈夫。」
「……。」
彼は少し不満げな顔で、私の頬にキスをした。
「分かった。なら来月、アリシアが戻ってくると、信じて……!」
その時だった。ガチャっとドアノブが回る音がした。やばいと思った我々はすぐに結合を解いて、私は姿を消して、イオリはしゃがんでソファの影に隠れた。
すぐに寝ぼけ顔のエミリが部屋から出てきた。歩いていく方向からして、トイレっぽかった。しかし彼女はふと立ち止まった。
「……あら?イオリの香水の匂い?イオリいるの?」と、彼女が振り返った。私は笑いを堪えた。イオリがソファの影に隠れながら静かにそっとガウンの紐を結んでいる、その必死さが面白かったのだ。
「気のせいね。ファー」と欠伸をしたままエミリはトイレに入っていった。それを確認してから私は姿を表して、彼を手招いた。
「今だよ!早く!」
「あ、ああ。それじゃあおやすみ!」
通り際に軽く頬にちゅっとキスされた。イオリは足早に部屋から出て行った。今日はすごかったなあと、ドアをじっと眺めていると、すぐに戻ってきたエミリに「わあ」と驚かれた。
「どうしたのリアちゃん!そのパジャマ!大丈夫!?」
「え!?」私は自分の姿を見た。確かに色々破れてた。「あーまあちょっと透けて遊んでたら無茶しちゃって、気付いたらこんな感じで……大丈夫!」
「あらそうなの……あまり無理しないでね、じゃあおやすみ。」
良かった。納得してくれた。再び一人になると、イオリがくれたブレスレットを眺めて、嬉しく思った。




