110 アルバレス!
倉庫の事務室で銃撃に応戦していると、我々三人のもとに、通信が入った。それはイルザ様からだった。彼女はノアズの本社に襲撃があると応援を要請してきたのだ。
イオリはイーグルにこの場を任せることに決めた。イーグルは「了解ボス」と答えてくれて頼もしかった。どうにか他の人たちの協力もあって、倉庫の外に出ると、我々三人の前に、何故か置いてきたワインレッドのスポーツカーが止まった。
運転してきたのはダニーだった。レイヴが「まじで最高!」とテンション上げて助手席に座ったけど、私も同感だった。まじでかっこよかった。
私とイオリが後部座席に座ると、車は倉庫地帯を一気に飛ばしてノアズ本社へと向かった。時々銃弾が飛んできた。もうこの辺りはボードンFOC兵と、ノアズFOC兵でかなり混戦になってる。
FOC戦闘員の中には、どれが味方でどれが敵か分からず、戦意を喪失している人もいた。
『おい、アルバレス!』
急に車のラジオから無線が聞こえた。この声は……!
イオリが聞いた。
「え?フォレスト大佐?」
『なんだ、お前にしては間の抜けた声だな!おい、色々とやってくれたようじゃないか!はっはっは!』
するとイオリはラジオに向かって叫んだ。
「どこから私の声を拾ってるかさっぱり分からない上に、あなたは俺の上司だが、この際は言わせてもらう!何が最重要手配だ!俺が人を、しかもこんな若い女性を手にかけると本気で思っていたのか!」
『……もう済んだ話じゃないか、ああ、そうだな、それは悪かった。しかしお前の自宅に血痕があったのが良くない。アリシアが幽霊になって血を垂らしたなど、何度イルザ様に説明を受けても今だに信じられない……だが!今は帰ってきてくれた!アルバレス、歓迎する!お前はノアズの星だ!』
「何が歓迎するだ!何が星だ!ここまで来るのにどれだけ苦労したか!」
『結果、あの極悪人バリーを仕留められた。なんであれ苦労はかけたし、感謝はしてる。これからは小鳥の雛のように大事にする。それでいいか?』
「それでいいです!」
イオリの回答に車内に笑いが広がった。フォレスト大佐も笑いながら『じゃあノアズ本社は任せた!』と彼女にしては上機嫌な声色で会話は終了した。
それが終わると、イオリが何故か腰からマグナムを抜いて、助手席のレイヴに渡した。レイヴは?という顔をしてそれを受け取った。するとイオリが彼に言った。
「引き出しにこのマグナムを入れておいてくれ。戦況によってはイルザ様を安全な場所へと運ばなくてはいけない。この車は速度があるし、頑丈だ。その時に銃が必要になるだろうから。」
「え?あーオッケー。」
レイヴは引き出しにイオリのマグナムを入れた。そしてイオリが私に手を差し出した。私が首を傾げると、彼は言った。
「お前のスナイパーを貸せ。」
「イオリに扱えるの?」
「扱えるから貸せ。」
「本当に?」
「本当だから貸せ!」
そこまで言うなら仕方ない。私は膝の上に乗せていたお気に入りのヘビースナイパーをイオリに渡した。予想以上に重量があったのか、イオリが「ぬうう」と力を入れてスナイパーを持ち、構える練習をし始めた。
……今から練習してるけど本当に大丈夫なんですかね。でも彼がそうしたいなら私は従うまでだ。一応、リュックからY字パチンコを取り出して、それを腰のベルトに挟んだ。
ダニーの運転でノアズが占拠しているエリアに入った。一度衛兵に車を止められたけど、我々の顔を見て、衛兵が通行を許可してくれた。
だんだんと白い大きな建物が迫ってくる。実際には向かってるんだろうけど。何だか、懐かしいような変な感じがした。ノアズの建物に対してそんなことを思うとは予想もしなかったけど。
車は倉庫エリアを抜けて、少しビジネス街を進み、それからノアズ本社の裏門から中に入った。エリアが変わるたびに検問されたけど、顔パスで全部スルー出来た。
「ああ……ここに戻ってくるまで、長かった。」
「お前なあ」レイヴが振り返った。「自分は懐かしい気持ちに浸れるだろうけど俺の気持ちを考えろよ。変に背中がゾクゾクして気持ち悪いんだけど。」
「怖いのか?」
「そりゃ怖いよ。本当に俺、捕まんないんだろうな?」
「俺が保証する。それがイルザ様との約束だ。」
「俺はまだ、あのクイーン様を信用してないからな。」
車はノアズ兵の案内で、地下にある駐車場へと向かった。地下も白い壁や地面だった。照明も割と明るいし、なんかこの雰囲気は天国みたいだった。
白い柱の横に停車した。近くには他の出入口があって、矢印にはノアズ正門と書かれていた。我々が来た入口とは反対方面の出入口だ。車から降りると、ノアズ兵が「さあこちらです」と案内を始めた。
我々とダニーの四人は彼に付いて行き、駐車場からエレベーターで最上階まで一気に上がった。エレベーターを出て、白い廊下を静かに歩いて、突き当たりを曲がると、私は「あっ」と声を出してしまった。
そのドアにはまだイオリ・アスバレスのプレートがつけられたままだった。イオリも意外だったのか、立ち止まって、プレートを人差し指で優しくなぞって、案内してくれている衛兵に聞いた。
「ここのオフィスは誰も使っていなかったのか?」
「ええ、他にも人材を探してみたようですが、いい人が見つからなかったようで、取り敢えずそのままみたいです。」
「てかさー、」レイヴが廊下の窓から各階を見渡しながら聞いた。「誰もいなくない?ここに敵襲あったらまずいんじゃないの?」
「実はイルザ様がノアズ本社を要塞化しました。タレットや緊急配備用のレーザーがありますから、人員を倉庫地帯に割くことが出来ています。ですからここには、イルザ様と我々近衛部隊のみ、待機をしております。街の方も防衛システムがあります。倉庫地帯には無いので、ボードンFOC連合はそこから攻めてきていますが、こちらの予測範囲内の行動ですね。」
「そーなんだ、じゃあ余裕なんだー。」
「どうでしょう、意外とボードンFOCの人数が多い。イオリ様がバリーを撃ったことと、FOCを中から裂いたことは、こちらにとっては有難いものです。今、現地の職員が、こちらにくる予定のFOCをID登録しています。そうすれば誤射がありませんから、もっと積極的に戦えると、先程フォレスト大佐から連絡がありました。」
「そーなんだ、で、クイーン様はどこにいるの?」
「ここです。」
その少し掠れた女性の声を聞いて、ハッとして振り返った。驚いたことに、私の真後ろにイルザ様がいた。思ったよりも背が高いので、見上げる形になった。




