一番令嬢決定戦・王子の本気
王子、激白!熱弁!
@短編その83
「私のレイナが一番だ」
「何を言う。我がディルスが一番に決まっている」
「ははは!!俺のエイーネが一番だよ」
祝賀パーティーに呼ばれた来賓の中に、とある三国の王子が呼ばれ、出席していました。
彼らの傍には婚約者である令嬢が寄り添っています。
ミーナミィ国の王子、ドラグス王子の婚約者、レイナ公爵令嬢。
ヒーガッシィ国の王子、ワイバン王子の婚約者、ディルス公爵令嬢。
キッタァ国の王子、ニーグ王子の婚約者、エイーネ公爵令嬢。
え、ええ・・・?と、内心おろおろするレイナ嬢。
何言い始めたのよ、と無表情になるディルス嬢。
何故に私達の品評を始めた?と、目がクワッと見開くエイーネ嬢。
そして3令嬢は、お互いの顔を見合わせた。
突然始まった婚約者バトル・・・というか、王子が戦うのでなく、婚約令嬢が代理。
彼らとしては『俺の婚約者、お前らのよりも素晴らしいんだぜ』、と言いたいのだ。
まあカンタンに言えば『婚約者自慢』だったのですが、言われた婚約令嬢には、そうとは聞こえませんでした。
そう。見栄の張り合いだ。まず言い方がなっていない。
『い・・一番って』
3令嬢はなんだか憂鬱な気分になってしまいました。
折角この国の王族の方々のご好意で呼んでいただいたのに。
先ほどまでは楽しかったのです。
国を出て道中も楽しく会話も弾んで、ドレスや宝飾品もサプライズで贈ってもらい、それを身に纏いパーティーでダンスをしたり、素晴らしい料理を二人で分け合ったり、食べさせやっこをしたり。
近いうちに婚姻を結ぶのが彼で良かった・・・なんて思っていたのだ。
それが何故にこうなった・・・?
王子達の様子に気付いた招待側の王子が、こちらにやって来るではありませんか。
これはいけない。
即座に令嬢達はアイコンタクトで意思を交わします。
『このひと(達)、なんとかしよう!』
「レイナは乗馬で金メダルを取るほどの腕前なんだ!颯爽と駆ける姿はもう、美しい!」
「ディルスは今話題の煎茶道をマスターし、師範級なんだ。我が国の煎茶の先駆者なのだ」
「エイーネは歴史学者で、最近すごい発見をしたのだ。歴史が変わるほどの発見をしたのだからな」
なんとかする前に、3王子が婚約令嬢達を褒めちぎります。
あまり会話にしたことがなかった彼女らの功績を、王子達がいつの間にやら知っていて、しかも大いに褒めてくれるのは恥ずかしいがとても嬉しかったのです。
そしてさらに褒め合戦は続きます。そして王子達はだんだんとエキサイト。
「レイナは他にも料理のセンスがあって、この間は私にディナーを振る舞ってくれたのだ!ローストビーフが絶品で、サラダは彼女の自家栽培だったのだ」
「ディルスは煎茶を使ったスイーツを多彩に作ることが出来るんだ。焼き菓子、氷菓、和菓子なんでもござれだ」
「エイーネは家庭料理を作ってくれる。肉、魚、野菜を多彩に使う栄養満点の料理で、しかも美味い!」
令嬢方、頬がぽっと赤くなってきました。
こんなに褒めてもらったのは初めてです。
もう止めることも忘れ、婚約者達のほめ殺しを聞いています。
「レイナはいつも私のために、刺繍を縫ってくれるんだ。ほら、このクラバットに家紋を刺繍してくれたのだ」
「ディルスは皮で本の装丁をしてくれるんだ。皮に細工も細かく入れてくれてね、素晴らしいんだ」
「エイーネは花が好きで、庭園をデザインしてもらったんだ。四季折々の花が見ることが出来るんだ」
『まあ・・・そんなところも気付いてくれていたのね』
婚約令嬢達、もうハートがきゅんきゅんです。
「君達、なにをもめているんだい?」
「あ・・王子様」
招待側の王子様が来ちゃいました。
今さっき、婚約者王子達を抑えようと思っていたのに、一瞬で忘れていました、この王子の事。
しかし3王子、どうやら彼に気付いていないようです。
「私はそんなレイナを、心から愛おしいと思っているんだ!私の一番星だからな!!」
「何を言う!ディルスの素晴らしさに我の心は満ち足りて、何よりも彼女が一番大事だ!!」
「そんなものか。俺はエイーネの存在そのもの全てにぞっこんだ!!一番は彼女を置いて他はない!!」
『ひえええええ・・・』
3王子の激白に、隣で聞かされる令嬢達は遂に・・・頭の中が熱で茹だり、くたっとなった。
「レイナ?」
「おい、ディルス」
「エイーネ!」
くたっとした婚約者を、王子達はひょいと抱きかかえ、
「申し訳ない!婚約者の具合が悪い様子なので!」
ぺこりと一礼をし、大急ぎで割り当てられた控室に駆け込んだ。
そしてそれぞれの王子達は、大きく溜息を吐いてぼそっと漏らす。
「やれやれ、参った・・・これであの王子様は諦めるかな?」
どうしてこのような珍事になってしまったかと言うと・・・
彼ら婚約王子達も、パーティー途中までは楽しんでいたのだ。婚約令嬢達もそれは嬉しそうだった。
ところが・・3人は聞いてしまったのだ。
ドリンクが置かれているテーブルに、婚約令嬢のドリンクを取りに行くと、この国の誰かが話していて・・
よく見ると宰相と侍従長だ。なかなかの美形だったから覚えていたのだ。
さすがは大国、顔で選んでいるのかな、なんて3人で冗談を言っていたのだが・・
耳に入った二人の話の内容に仰天した。
この国の王子が、最近彼ら3国に外遊で立ち寄った。その時に彼らも王子と挨拶をした。
もちろん、婚約令嬢も一緒に挨拶をした・・・
なんと王子、彼らの婚約者が気に入ったのだと。
この国には良いと思える女性が見つからなかったとか。
3国の王子とその婚約令嬢を招待したのは、『どの娘がいいか』査定する為だったのだ。
あとは国力にものを言わせ、奪うつもりだった・・
「美しい令嬢ばかりですな。もう3人まとめて正妃、側室に」
ふたりの会話に、王子達は絶句しました。
慌てて婚約令嬢の方へ振り返ります。
今日のために彼らは素晴らしいドレスを贈りました。
彼女らが一番美しく見える色とデザイン・・・
そして王子に目を向けると、ニコニコ嬉しそうに令嬢達を見つめているのです。
ぞっ・・・
王子達は身体中から汗が噴き出し、体がぞくぞくと震えました。
彼女達を急にホールから連れ出したら拙い。
もしも彼女達が不機嫌になったら、しれっと王子が優しげに入り込んでくるだろう。
外遊で会った時に話をしたが、実にそつが無く談笑をして気を引くのが上手い。
手に入れる気になったら、本気で口説いて来るだろう。
大国の王子で、資産家で、美形で有能。
まあ政略結婚の相手としても、側室になっても家としては万々歳だろう。
3国は豊かではあるが、小国だ。
しかし、彼らは婚約令嬢とは小さな頃から一緒の幼馴染、彼女以外の女性との結婚など一度たりと考えたことはなかったのだ。
「・・・どうする」
「絶対に渡せないと意思表示をするべきでは」
「俺たちの方が、彼女を知っていると。愛していると。思いの丈を・・・言うんだよ」
「え」
「んなっ!」
「照れている場合ではないよ。呆れるほど本気で、大声で!そして本人にも聞かせて他の男なんか気にならなくなるようにするんだよ。照れるなよ。恥は一時の恥と言うだろう」
「ふふふ・・・旅の恥はかき捨てとも言いますしね」
「会稽の恥を雪ぐ・・・」
「かっこいい言葉だけど、意味違ってないか?」
「ははは、恥なだけに」
てな流れで、『婚約令嬢が一番だ!』を声高に叫んだワケだ。
ホールにいた賓客は目をぱちくりさせて聞いていましたとも。
「まあ、婚約者を熱愛しているのねぇ」
「ははは、若い者は熱いなぁ」
と、皆生暖かく見守っていましたとも。
婚約者争奪計画は頓挫、王子はしょんぼり・・・
と、思ったら!
海外で長く暮らしていた令嬢が帰国、久しぶりのパーティーに参加していて・・王子、彼女に一目惚れ!!
これがまた綺麗な箱入り娘で、王子の好みど真ん中。
あとで何か言われるかもしれないとビクビクしていた3国の王子達は、もう次の相手に迫っている彼を見てほっとしたのでした。
まあ何はともあれ。
令嬢とさらに愛が深まった3国王子は、国に戻ったら即刻結婚しようと決心したのでした。
思いつくまま、ペースは落ちたけど、2日に1作うp。
9月は『令嬢』がお題。
タイトル右のワシの名をクリックすると、どばーと話が出る。
マジ6時間潰せる。根性と暇があるときに、是非。