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私は目頭を押さえた。 深く息を吸って、呼吸を整えると、右手にもう一度力を込めた。 目を開くと暫く視界がぼやけていたが、何度かまばたきをすると、元に戻った。
「これだけは、完成させような」
天井の岩を削って作られた換気口から、ぬるい風が入ってきて、また蝋燭の火が揺れた。
灯りだけがゆったりと踊る静かな空間に、石の擦れる音だけが響いていた。
ある小さな町の広場。その中心に、二体の像が寄り添っていた。像の足元には、やわらかな陽の光を受けた、紫や白の花が、風に揺られている。
像の一体は、まだ男か女かも区別が付かないほど幼い赤子を抱いて、聖母のような微笑みを浮かべている女性。
もう一体は、気の弱そうな表情の中に優しさを滲ませた、ひょろりと細く、長身の男。髪の毛や靴などの細かいところに、若干の粗が見えた。
普段は空気に溶け込んでいるも同然なのに、心が落ち込んだ時、ふと現れて背中を押してくれるような三人の姿。
朝日を浴び、昇っていく太陽のぬくもりを背中に感じ、沈んでいく夕陽を見送り、藍色の静寂に包まれながら虫の声を聴く。
五月蠅いぐらいの蝉の合唱に耳を傾ける夏の日も、強い風に押し倒されそうになる日も、体に積もる雪にあたたかさを感じるのも、三人はいつも一緒に。
変わらない愛が、今もそこにある。
最後まで読んで下さってありがとうございました。
ちょっと難しく書こうとしましたが、中途半端なってしまいました。
離れ離れになってしまう家族愛の物語でした。
私自身、この物語を完結させることで少しは成長できたと思います。
次の物語は、方向性を180度変えた、学生のラブストーリーを製作中です。
クールなのに、くすっとした笑いを含んだ、ちょっとお洒落な物語を目指して頑張ります。
公開した時には、是非、目を通してみてください。
一言でもいいので、感想下さると感激です。
よろしくお願いします。