救済者の真似事
奇跡を起こせる力をくれ、と俺は願った。
この世界へ来る前の話だ。
するとそれは与えられた、何者とも知れない胡散臭い男に。
そして俺は神となって、救済者として生きて行く道を選んだ。
医術のないその世界で不治の病を触れるだけで治し、
目の見えない者には光を、老いて弱った者には活力を。
たちまち人は俺の元へと集い、そして俺を崇めるようになった。
俺が世界の理を変える。
俺の前では獣も道を譲り、イナゴの大群も避けて通った。
俺には全てが可能だった、だから全てを与えられた。
富も女も、国家でさえ俺には口出し出来なくなっていた
ある村で俺は子供の手を再生した。
いつもの奇跡だ、少しばかり飽きていた俺に村の住人は激しく歓喜した。
この村でも俺の信者が出来るだろう。
だが俺の見ている前でその子は自分の手を壁にぶつけた。
一度だけではない、何度も何度も。腕を破壊する勢いで。
余りの事に混乱する俺を置いて、その子は泣き叫びながら腕を壁へとぶつけ続けた。
子供は周囲の人間に取り押さえられた。
手足の自由を奪われそれでもわめき続けるその子を前に、俺はただ圧倒されて見ているだけだった。
村の者から聞いた話だと、その子は親を自分の手で殺してしまったらしい。
その罪の証が失った手だという。
手がない不自由さで少年は救われていた、それを俺は元に戻してしまった。
残念ながら何があったか聞き出す事が出来なかったが、その出来事は俺の中に大きな穴を作ってしまった。
俺の力は神の力だ、俺の手は神の手と違わない。
でも少年一人を救う事が出来なかった。
その後、何度も人を治療して回った。
世界の隅から隅まで、誰も俺を神として疑う者もない。
それでも俺の穴は埋まりはしない。
そして俺は神の力を捨てた。
それでも付きまとう信者は居たが、俺は力を使うのが怖くなっていた。
難病に冒された者、死の淵にある者、手足が動かない男に目の見えない女。
俺は彼らが居ない様に振舞った、それでも彼らはついて回って俺の世話をした。
ある日、俺は少年の居た村へと向かう。
そこには元気そうな少年の姿があった、片手はない。
俺は彼に問う、何か欲しい物はないかと。
すると彼は答えた、結婚相手が欲しいのだと。片手だと嫁に来る女が居ないらしい。
その声を聞いて目の見えない女が近付く。
すると彼らは直ぐに意気投合し、婚約へ話を進めるという。
俺は始めて神の力を感じた、俺の手など必要ない。
少年は笑った、奇跡は起こったと思った。