05
「色々聞きたい事は有ると思うけど、取り合えず他に人の居ない所で話しません?」
「あ、ああ、そうだな。その方が良い・・・・・」
バートさんに連れられて応接室に入り、勧められた席に着くとお茶を入れてくれたのでお茶請けにカロリーバーを出して勧めた。
「これは・・・小麦粉とドライフルーツに・・・ナッツが三種?蜂蜜も入っているような・・・・・」
眉を寄せ味を確かめるように食べながら呟くバートさんを見て、カロリーバーの入っていた袋の材料表を見ると殆んど当たっていて驚いた。食べた事の有る物の味を覚えていると言う事だろう。凄い能力だ。
「それで殆んど当たってますよ、凄いですね。実はそれ保存食で、一本で一日分の栄養が摂れるんですよ。作り方は知りませんが・・・無限に手に入れられると言ったら如何します?」
「そ、それが本当なら喉から手が出る程欲しいと言うのが本音ですが・・・止めておきます。商人としては間違っているかもしれませんが、そんな簡単に儲けてしまっては人として必要な・・・大切な物を失ってしまいそうですから」
「良かった・・・それじゃあ本題に入りますね。俺は今まで生まれた国を含めた沢山の人達に利用されそうになって旅を・・・いや、そういった奴等から逃げ続けてきました」
「それは、そのマジックバッグのせいなんじゃないですか?」
バートさんが俺の横に置いて有るバッグに視線を送った。
「いえ、これはこちらに来てから手に入れた物ですから関係有りません。それで、その・・・俺は武術家で・・・超人的な〝力〟を持っているんです。その気になれば国を滅ぼせる位の・・・です」
異世界から来た事は今は言わなくて良いだろう。
「正直言う気は無かったです。でも、知らなかったとは言え会ったばかりの俺を本気で心配してくれて仕事の世話まで親身になって考えてくれた貴方には知っておいて欲しかった・・・・・この国に来て直ぐに皇女様に知られてしまったので何時居なくなるかも解りませんが、それまで貴方の力になりたいと、そう思って話しました。面倒事に巻き込まれて迷惑を掛けるかもしれません。最悪貴方の身に危険が及ぶかもしれません。だから、これから如何するかは貴方が決めて下さい」
バートさんは真剣な目で見つめていた俺から視線を外し溜息を付いた。
「ハァ・・・・・如何もこうも有りませんよ。私にとって貴方は狩人で数ある出入りの業者の一人でしょう?貴方の事を誰かが調査に来ても私は何も知りませんから話しようが有りません。それで良いじゃないですか。それに、大きな図体して今にも泣きそうな顔をした人に「二度と来るな」なんて言える訳無いでしょうに・・・良いんですよ、うちの事なんて気にしないで。いざとなったら何処へでも逃げちゃって下さい」
頭の中は冷静だったが、涙が零れた。嬉しくて心が震えたのは生まれて初めてだった。
バートさんが何も言わずに立ち上がり新しくお茶を入れてくれて、袖で涙を拭ってお茶をゆっくりと飲み干し、一息ついてから取引の話に移った。
「さて、リザードマンですが一匹当たり大銀貨五枚、五十万メルで引き取らせて頂きますが、如何でしょうか」
「えっ?・・・って事は五匹で二百五十万メルって事ですか?!幾ら何でも多過ぎじゃ・・・・・」
「ハァ・・・ジン君は物を知らな過ぎです。あれ一匹で鎧一式作れるんですよ、軽くて丈夫な奴がです。それに肉も旨いし、牙や爪に骨も使い道が有って捨てる所なんて殆んど無いんです。良いですか、普通リザードマンの討伐は五人以上のパーティで行くものなんですよ。大盾を地面に刺して体当たりを受け止めつつ長槍で刺し殺すんです。だから鱗が欠けたり皮は穴だらけが普通で、あんな綺麗な状態で入荷するなんて有り得ないんです。それと、運ぶのに馬車も要りますからその分も金額に乗せてますが、けして高く買い取った訳じゃ有りませんから。寧ろもっと渡しても良い位ですよ」
武器や防具なんて必要なかったから見てなかったし、魔物なんて日本にゃ居なかったから利用価値が高いとかの判別も出来なかった。
「すみません。あまりお金の必要な生活をしてなかったもんで・・・・・」
呆れ顔のバートさんから代金を受け取り会員証の裏を見た。行き成り小金持ちに為っても使い道が殆んど無いんだよなぁ。魔導具でも買っておくか。
バートさんが懇意にしている鍛冶師に紹介状を書いて貰い鍛冶屋に向かった。着脱式のスパイクが作れるのか、靴ごと変えた方が良いのか相談する為だ。
南門近くに有る工業地区へと入りお目当ての店を探した。「ライアン修理工房」と書かれた看板が掛けられた建物の扉を開き中へと入り声を掛ける。
「すみませ~ん。誰か居ませんか~」
店の中は狭くて棚も無く、奥に有るカウンターには誰も居らず静かだった。鍵も開いてたし居ないって事は無いと思うけど、無用心だな・・・盗まれる物も無いから良いのか?
何にしてもこのままって訳にもいかないので、更に呼び続けていると奥から欠伸をしながらひょろっとした男性、およそ鍛治師には見えない人が出てきた。
「いらっしゃい・・・・・お客さんで良いんだよね?それとも何処かの商会のお使いとかかな?まぁどっちでも良いや・・・ふあああぁぁ・・・で、何の用かな?」
「俺はバートさんに紹介されて来たジンって言います。作って貰いたい物が有るんだけど・・・・・」
「あ~、見て解ると思うけど僕は力が無いから余り大きな物や重い物は作れないよ。鍛冶師と言うより細工師に近いかな。看板に書いて有るように普段は日用品の修理で糧を得ているんだけど、先ずはどんな物か話を聞いてからかな」
俺はライアンさんに紹介状を渡しスパイクの説明をした。スニーカーを脱いで見せて、取り付けられないなら湿地専用の靴を作って貰えないかと。
「へぇ・・・湿地で戦う為にね。出来なくは無いよ、でもこの靴に取り付けるのは無理かな。激しい動きに耐えられなくて外れるか壊れてしまうと思う。軍用のブーツで悪路用の物が有るけど、それじゃダメなのかい?」
「ブーツだと硬いし足首の動きが制限されてしまうのと、中途半端に食いつかれても困るんです。軸足になる左足の親指付近だけで良いんです。何とかなりませんか?」
「靴の内側から鋲を打ち込むのがてっとり早いんだけど、そう言う訳にはいかないんだよね?この靴軽いし凄く柔軟だ。どんな素材で作られているのかも解らないから再現も出来ない・・・けど面白そうだ。鋲の部分が爪先だけで良いなら遣り様は有ると思う。可能な限りこの靴に近づけて見せるから少し時間をくれ。靴屋とも相談しないといけないしね」
俺は「宜しくお願いします」と言って頭を下げ、足型を取って貰いライアンさんの店を出て薄暗くなった道を宿屋へと向かった。
ここまで読んで頂き有難う御座います。