03
商業組合に着いて登録用紙に名前を書いて、何やら宝石の填まった金属製の台の上に手を置くと宝石が紅く光った。
「あら?御名前の方に誤りは御座いませんか?」
受付のおば・・・お姉様にそう聞かれ、フルネームで書かなかった事が不味かったのかと思い『ジン・マキシマ』と書き直して提出したら問題無く登録出来て驚いた。謎システム過ぎる。
受け取った会員証の表には名前と登録番号が書かれており、裏側には最終取引残高が記載されている。キャッシュカードとしても使えるとか便利過ぎだろ。
バート商会に戻り、ケビンからブラウンボアの代金を受け取る為に早速使ってみた。
金属の箱の上に会員証を差す所が二つ有り、その横に取引金額を決めるダイヤルと右手の人差し指を置く所が付いた取引用の魔道具だ。指紋認証ならぬ魔力認証で他人には使えない様になっている。
魔力の無い地球から来た俺には使えないんじゃないかと思ったが、問題無く使えてほっとした。良く考えてみれば登録出来たんだから使えねぇ訳無いよな。ははははは・・・・・
「二、三ヶ月に一度は組合に行って取引内容の公開をして下さい。でないと脱税になってしまいますので」
ようするに組合が代わりに納税の手続き等をしてくれるから、その分を組合に払いに行けと言う事らしい。上手い事出来てるな。
通貨単位はメル。硬貨の種類は銅貨、大銅貨、小銀貨、銀貨、大銀貨、小金貨、金貨、大金貨とそれぞれ十枚毎に繰り上がり銅貨が十メルだ。
昔は一メルの小銅貨も有ったそうだが、現在は使え無い事も無いが滅多に見る事は無いそうだ。
会員証の裏を見ると二万メルと記載されていた。銀貨二枚分か、これがどれ程の価値なのかさっぱり解らないが、ケビンの事だ大目に渡してくれたんだと思う。有り難く受け取っておこう。
そして家に泊まって行けと言うケビンに、数日振りの家族の団欒を邪魔する訳にはいかないと言って断り、信用出来る宿屋を紹介して貰って宿屋に向かった。と言ってもバート商会の直ぐ斜め向かいだったけど。
宿屋に入ってチェックインを済ませて部屋に入り一息付いた。宿代は一泊二食付きで三千五百メル。高いのか安いのかは解らん。
夕食は肉野菜炒めと野菜スープにパンが二つだった。予想通り味が薄いのは調味料関係が高いからだろう。パンも固いし。
無限に増えると思われる塩と胡椒に砂糖を売ったら幾らになるのだろう、そして面倒に巻き込まれるのだろうなと頭を抱えた。
夕食後ベッドに横になり、これからの事を考えていた。
明日は取り合えず観光がてら街中を回って物価の調査をしておこう。だが、その後は?特に何かしたい事が有る訳でもないし、何かしろとも言われていない。神託を受けたアンジェリカとか言うお姫さんにも迎に来たとしか言われなかった。まぁ、付いて行ったら戦にでも巻き込まれたんだろうけど。
そもそも俺は唯平穏に暮らしたいだけだ。日本では師匠と二人、山奥で修行の日々を過ごしていたが、それ以外を知らなかったからそうしていただけで、それが俺の普通だったんだ。あの日、全てを失い山を降りて世界を知るまでは。
こちらならやり直せるだろうか。俺の力を知る者が居るこの国を出れば普通に、平穏に暮らせるだろうか。それともこちらに送られた時点で手遅れなのだろうか。ウォーズンとか言う奴が俺を送ったのだとしたら何か目的が有る筈だが、それも解らない。
取り敢えずは狩でもしてお金を稼いで様子見かなと、目を瞑り眠りに付いた。
日の出と共に目が覚めた。修行時代の習慣は何年経っても治らない。
宿屋の裏の井戸で水を汲み、タオルを水に浸して身体を拭い朝食へ。風呂の習慣は無いみたいだ。朝食はソーセージとサラダとパンでドレッシングも無いようだ。
適当に街中を見て回る。神殿の手前が広場になっていて、噴水とその周辺に屋台が並んでいたので覗いてみた。
野菜や果物を見た限りではメル=円と見て間違いないだろう。但し金属製品や調味料関係はやはり高めだ。南と西に海が有るのに塩が高く感じるのは日本人だからだろう。
色々見て回ったが、興味深いのは魔導具だ。旅をするならランプやライターにコンロのような物は欲しい所だ。まぁどれも大銀貨からと高価で、暫くはバート商会のお世話に為りそうだが。
一通り露店を冷やかした後、神殿も覗いてみた。建物自体は定番のいかにもな感じだ。
入って正面の奥に祭壇が有り、そこに七体の神像が並んでいた。中央が創造主の主神ウォーズンで、その左手側に光、火、風の神。右手側が闇、水、土の神だと近くに居た神官に聞いた。
宗教に係わる気は無いが、おそらくは敵であろう相手の顔は覚えておかないとな。まぁこいつ等が直接何かをしてくるとも思えないけど。
屋台で適当に昼食を摂りバート商会へ向かった。狩りをするにも獲物は何が良いのか、近場で取れるのかを聞く為だ。
「そうですね・・・ブラウンボアが狩れるのですし、北西の山の麓が良いかもしれませんね。聖都の堀に引き込んでいる水の水源が有りますから、川沿いに進んでいけば着きますし」
「もっと大きな獲物でも大丈夫だぞ。狩り難いが価値のある奴とか、誰でも狩れる奴じゃなくてバートさんが必要としている物の方が良いだろ。単体で言うなら熊とか虎とかはどうだ?群れを作る野犬や狼でもいけるぞ」
「えっ!?あ、いや・・・しかし・・・・・」
「遠慮なんていらねぇよ。俺は何時までもここに居るとは限らねぇし、俺一人居なくなってもあんたは今まで通りだろ。無理を承知で言ってくれ」
「じゃ、じゃぁ・・・その、南西に有る湿地帯は如何です?リザードマンと奥の方にはサラマンダーが出るとも言われてますが・・・・・」
「おう、解った。片道どれ位だ?数日掛かるなら最低限の用意はしないとだしな」
「徒歩ですと片道三日程ですが・・・本当に行く気ですか?無理せずとも、うちはブラウンボアでも十分なのですが・・・・・」
「大丈夫、無理はしないと約束するよ。ま、十日程で帰ってくるから心配しないで待っててよ」
本気で心配するバートさんの下を笑顔で辞去して南門へと向かった。準備なんて必要ない。あれはバートさんに心配させない為に言っただけだ。無駄だったけど。
南門を出て街道を西へと向かった。ケビンに続きバートさんと、良い人達に会えたのが嬉しかった。バートさんはお人好し過ぎてこっちが心配になる位だし。
彼が俺の力を見ても変わらないのなら、このままお世話になるのも良いなと、日が暮れるまで歩き続けた。
ここまで読んで頂き有難う御座います。




