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連載五作品目となります。
遅筆な為、投稿は不定期になりますがご容赦下さい。
俺には幼少時の記憶が殆んど無い。
覚えている中で一番古い記憶は、森の中を歩く大柄な男に背負われて泣いていた事だ。
何故泣いていたのか理由は覚えていない。唯悲しくて悔しかった・・・の、だと思う。
そして、その大柄な男が俺に何かを聞いてきて・・・俺は唯『はい』と鼻声で答えたんだ。
それが何を聞かれたのか思い出せなくて・・・でも、とても大切な事だった筈で・・・多分その時に全てが決まってしまったんだと思うんだ―――
* * * * *
とある山岳地帯の森の中を一人の男が歩いていた。
歳は二十歳前後で身長は180cm程。中肉中背で髪は短く逆立てていて、何処にでも居る普通の青年と言った感じだ。
服装は黒のジーンズにグレーのTシャツと黒地に金の縁取りが付いたボタンの無い学ランの様な形の上着、黒地に赤のラインが入ったハイカットのスニーカーと中位のバックパック、登山をするには軽装過ぎてまるで近所に買い物にでも行くかの様な出で立ちだった。
男が道無き道を進んで行くと、山の中腹辺りに木で出来た塀が見えてくる。苔生して一部壊れかけた塀にある入り口を抜けると一周100mのトラックが入る位開けていた。そして中央には一抱えも有る岩があり、その先には倒壊した建物の残骸と小川が見えた。
男は広場の中央にある岩の前にしゃがみ「今綺麗にするので待って居て下さい」と言って荷を降ろすと、周囲の草を毟り小川から汲んできた水で岩を綺麗にした後、岩の前に正座をして一つ頭を下げ語りかけた。
「お久しぶりです師匠。あれから七年間、自分なりに上手くやって来たつもりだったんですけど・・・・・ダメでした・・・師匠が此処に篭ってた理由もなんとなく解りましたよ、相容れないって言うか何と言うか・・・・・それにしたって少しは一般常識位教えてくれても良かったでしょ・・・お金の事とか、身分証明書も無くて苦労しましたよ・・・・・」
そう言って溜息を付き俯いた後、男は黙ったまま岩を眺め続け、辺りが薄暗くなってきた所で立ち上がると「ちょっと魚捕って来ます」と言って小川へと向かって行った。
男は夜の闇の中、焚き火の向こう側にある岩をじっと見つめていたが溜息を付き呟いた。
「はぁ・・・屋敷壊すんじゃなかったなぁ・・・あ~七年も放置してたら住める状態じゃ無かったか・・・・・これからどうすっかなぁ・・・・・」
男が諦め顔で横になろうとした瞬間、男を中心に地面に光を放つ巨大な円が広がり円の中に幾何学模様が描かれていく。
男は荷物を手に取って駆け出そうとしたが、光が空へと立ち上がり周囲を白く染め上げ、やがて光の消えた後には誰も居らず、周囲には風が揺らす木々の摺れる音と焚き火の爆ぜる音だけが響いていた。
気が付くと目の前には青空が広がっていて、身体を起こすと激しい頭痛と目眩に襲われた。
「・・・・・ぅ・・・ぁ・・・・・ぐっ!・・・おえええぇぇええぇぇぇ・・・・・」
俺は寝転がっていた石の床の様な場所を這い蹲って移動し、床の切れた先の草叢の中に嘔吐した。
「ハァ・・・ハァ・・・・・ぁあ~生まれて初めて吐いちまったぜ・・・くそっ!一体何だってんだ・・・・・」
周囲を見渡すと5m四方の石造りの床の四隅に装飾の施された石柱が立っていて、その周りは草原と離れた所には木々が立ち並び森の中の遺跡の様な場所だった。
「・・・・・何処だか知らねぇが、態々あんな真似して日本・・・いや、地球って事はねぇよな・・・・・変な言語とか覚えさせられたし」
魔法陣なんて初めて見た。当たり前だ、あんな物は空想の中だけの物だったのだから。何処へ飛ばされたのかは解らないが、魔法の存在する世界、所謂異世界に転移だか召還されたと言う事らしい。
何故解ったのかと言えば、この世界の言語と有る程度の知識を頭の中に植え付けられたからだ。
助かると言えば助かるのだが、そのせいで盛大に吐く事になったのが気に入らない。
取り敢えずは人里か水場を探さなくてはと立ち上がろうとしたが、目眩が治まらず床の上を這ってバッグの所へと戻った。
「・・・あ~・・・くそっ・・・・・身体の制御が・・・落ち着け・・・何時も通りやるんだ・・・先ずは呼吸から・・・・・・・」
言う事の聞かない身体に苛立つ心を抑え、目を閉じて呼吸を整え、五感を通じて身体の隅々まで精神力で制御下に置いて行く。
「・・・・・ふぅ・・・よし。多少違和感が有るが直ぐに戻るだろ。さて、荷物の確認して移動すっか」
手にしたバッグを開けて中を見ると、内側が真っ黒で何も入ってない様に見えて焦った。
「おいおい、俺の全財産だぞ!着がえは兎も角、水と塩だけでも・・・・・って何だこりゃ?頭の中に中身が浮かんで・・・・・収納鞄とか言う奴になってんのか」
慌ててバッグに手を入れると何も入ってない様に見えるのに、入れておいた物が頭の中に浮かんできた。
タオルに毛布に着替え、包丁と鍋やコップに砂糖と塩にコショウとペットボトルの水とスポーツドリンクに非常食のカロリーバー五本と、何一つ無くなってはいなかった。
試しに水の入ったペットボトルを取り出し、一口飲んでからバッグに戻してまた取り出したが問題なさそうだ。いや、飲んだ分が戻ってるよな、これ?
「何もんか知らねぇが気を利かせたつもりか?こんな真似する位なら端からやるんじゃねぇよ・・・ったく」
悪態をついてもう一口水を飲み、砂糖と塩と胡椒の入った密閉出来るプラスティックケースを取り出し、中身が戻るのを確認した。
スポーツドリンクも元に戻ったが、カロリーバーは・・・・・中身を出して空の袋をバッグに入れると元に戻ったので飲み放題、食べ放題らしい。
これは定番の売って資金にすると言う奴だろうか?その辺は追々考えるとしよう。
取り合えず水と食料の心配はなくなった。先ずは森を出て町か村を目指そうと、広げた荷物をバッグに戻していると人の気配を感じた。
森の中からこちらへやって来る三十人程の集団が見える。その殆んどは鎧姿で槍を持った騎士の様だ。その中に白いローブを来た女性と侍女らしきメイド服を着た女性が二名確認できた。
こりゃまた定番のイベントだなと嘆息しながら立ち上がり、一応話だけは聞いてやるかと集団の方へと歩き始めたのだった。
ここまで読んで頂き有難う御座います。




