第4話 クエストの日々
「ハァ……! ハァ……! ス……スライム……狩ってきたぞ…………げほっ! げほっ! げほっ! か、金……金くれよ……」
俺は麻袋に詰め込んだみたらしスライムをギルドのお姉さんに献上した。
「何でたかだかスライム五匹狩るぐらいでそんなにヘトヘトになってるんですか……。それで本当に勇者なんですか? 私、あなたの冒険者カードに『勇者(笑)』って書いていいですか?」
「いいから金をくれ……。今日はもう宿をとって、飯食って、そんで爆睡するぞ……。全力でスヤァしてやる……。はぁ……」
「分かりました。ちょっと待っててくださいね。すぐに換金してきますので」
お姉さんはバックヤードの奥へと消えていくと、それから一分と立たずに再び受付まで戻ってきた。
「それでは、みたらしスライムの捕獲クエストを達成した報酬として千ゴールドのお支払いとなります」
―――――――――――― は? ――――――――――――
「千ゴールド…………? 何、千ゴールドって?」
「あなたへの報酬ですが?」
「たったこれだけ……?」
「はい。そうです」
「少ないよっ! こんなんじゃ今夜は野宿だよ!」
「そ、そう言われましても……。これでも難易度に比べたら報酬は良い方なんですよ? Fランク冒険者はまだまだ駆け出しでお金もあまり持っていないだろうということで、ギルドの方針上、報酬には少し色をつけさせていただいているんです。もし、Dランク冒険者が同じクエストを受けたとしても五百ゴールドしかもらえないんですよ?」
「やっす! そんなのアイス一個買ったらなくなっちゃうじゃん!」
「アイス一個で五百ゴールド使うなんてあなたどんな金銭感覚してるんですか? 冒険者は宵越しのお金は持たずその日暮らしのイメージが強いかも知れませんが、実際に長く活躍している冒険者はとても堅実で計画的にお金を使っている人が多いんですよ?」
堅実で計画的なヤツが冒険者なんてやるわけねーだろ、とツッコんだら負けだろうか?
「あなた……もしかして自分の力でお金を稼いだのは初めてなんじゃないですか?」
「だったら何だよ?」
「すごいじゃないですか! これは普通の人にとってはほんのささやかなお金かも知れませんが、あなたにとってはとても大きな意味を持つお金です。あなたは大人への一歩を踏み出したんです。とても誇れることだと思いますよ? そのお金、是非とも大事に使ってくださいね」
「………………」
◇ ◇ ◇
その翌日――。
昨夜は人生初の野宿となった。なんと屈辱的な一夜だろうか。俺、勇者なのに。勇者の名門一族に生まれたのに。それに、あの千ゴールドの報酬にしてもそうだ。なんだか受付のお姉さんに上手いこと言いくるめられた感がハンパない。
おまけに川で身体を洗っていたら近くを通りかかった若いカップルからホームレスだのなんだのヒソヒソ言われる始末だ。苛立ちを込めてその辺の石ころを全力投球してやったわ。
「ああ、しんどいよぉ……」
俺は昨日に引き続き再びスライム狩りを行うべく街の近くの草原へと出張っていた。
他にも上級者向けの儲かるクエストがあるにはあるのだが、Fランク冒険者に関しては受けられるクエストに制限があるようで、Eランクに昇格するまではFランク専用のクエストしか受けられないらしい。故に本日のお仕事もスライム狩りだ。正確に言えば『こしあんスライム』という白い身体の上にあんこを乗っけたスライムだという。この国の生態系はよく分からん。
麻袋を手にした俺は先日と同様に草むらをぐーるぐる歩き回る。すると――突然、眼の前の背の高い草むらがカサカサと小さく揺れた。もしやと思いつつ足元の石ころを何個か手のひらに収める。狙いを定めてそれをシュッと勢いよく投げてみると……
ガササッ!
「お、当たりじゃん」
お目当てのヤツが目の前に現れた。
頭の上にちょんまげみたいなあんこが乗っている。
間違いない。『こしあんスライム』だ。
「よーし。俺の生活費になってもらうぞ」
俺はギルドからお情けで貸してもらったボロい剣を構えると、勢いをつけて獲物に斬りかかった――!
◇ ◇ ◇
「これ、こしあんスライムじゃないですよ?」
満身創痍でギルドまで戻ってきた俺に対しお姉さんが訳の分からないことを言い出した。
「ええっ!? どう見てもこしあんスライムだろ!?」
「いいえ。よく見てください。これは『粒あんスライム』です。よく間違えるんですよね。初心者の方は」
「どっちでもいいじゃん! そんなの変わんねぇよ!」
「いいえ、変わりますよ。結構好みが分かれるんですよ。『粒あん派』と『こしあん派』って。ちなみに私はこしあん派です」
「どっちでもいいわっ!!」
「でも、これだとクエストは失敗になりますね」
「っ…………!」
それからというものの――
「もうっ! どうしてみたらしスライムを他のスライムと一緒にするんですか! 見てくださいよ、これ! 他のスライムがタレでべちゃべちゃじゃないですか!! これじゃあ買取りできませんよ!」
俺のスライム狩りは続いていく――
「違います! ちゃんとピンクと白と緑の三色セットで狩ってきてくださいって言ってるじゃないですか! ここ! 白のスライムがダブってますよ!」
お姉さんの指導も続いていく――
「ただの自家製団子を紛れ込ませないでください! 罰として報酬は抜きです!」
ああ……
おっパブ行きてぇ……
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