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第3話 勇者?


 お次は冒険者としての登録手続きだ。


 今、俺の目の前には大きな水晶玉が置いてあり、時折、ぼんやりと怪しげな光を放っている。


「え、えーと……これは『鑑定石』と言いまして、個人の素性を明らかにするものです。これを使って個人の登録を行います」


 説明役は引き続き受付の美人お姉さんだ。途中でその役目を顔面偏差値五十三ぐらいの微妙な受付嬢にパスしようとしたため俺は全力でそれを阻止した。受付の前で「指名料払うから! また指名するから!」と大声で訴えたところなんとかこちらの要望を受け入れてくれた形となった。何事もガッツあるのみだ。


「この鑑定石で分かる情報は氏名、性別、年齢、種族、職業の五つとなります」

「取得できる情報ってそれだけなの?」

「はい、こちらですべてですが?」

「そっか。そうなんだ」

「……? それでは個人情報のご提供に同意していただけるのでしたらこちらの書面にサインをお願いします」


 お姉さんの提示した同意書にはプライバシー・ポリシーやら個人情報の利用目的だの小難しいことが小さな文字でびっしりと書かれていた。俺は適当に斜め読みして署名欄にペンを走らせる。


「はい、それではこの鑑定石に触れてください。すぐに情報の読み取りが完了しますので」

「あいよ」


 俺が鑑定石に触れた途端――石はまばゆい光を放った!


「うわっ!?」


 だが、それも一瞬のこと。光はすぐに収束してしまった。


 するとその直後に鑑定石のすぐ隣に置いてあった名刺サイズのカードにすうっと文字が浮かび上がってきた。なるほど。あれが『冒険者カード』だな。ああやって鑑定石で読み取った情報をカードに書き写しているんだろう。今日からあれが俺の身分証になるわけだ。


「はい、終わりました。えーと……名前は『ユリウス・アストレア』さん。十七歳で職業は……………………え?」

「どうしたんだ?」

「ゆ…………勇者!? えっ……でも、勇者って……。いや、そんなまさか……。えっ!? 勇者!? 勇者なんですか!?」


 なんかお姉さんの様子がおかしい。

 冒険者カードと俺の顔に忙しなく視線を移しながら驚愕の表情を浮かべている。


「勇者ですけど、何か?」

「き……虚偽の申告は罰則を受けることだってあるんですよ?」

「まじで勇者だっつーのに。ほら、有名だろ? 勇者の一族。アストレア家って。俺、そこの長男なんだよ。正真正銘の勇者だよ」

「アストレアなんてそこそこメジャーな名字ですからその程度じゃまったく信用できませんよ。そ、それにしてもおかしいですね……。冒険者カードには高度な偽造防止技術が導入されているはずなのに……。もしかしたら鑑定石の故障でしょうか……?」


 このお姉さん、信用する気ゼロだよ。俺のこと完全にホラ吹き野郎だと思ってるよ。


「疑り深いなぁ。何でもいいから早くそれ渡してくれよ? それがないとクエスト受けられないんだろ?」


 俺はお姉さんの手にしていた冒険者カードをひょいと摘み取る。


「あっ! ちょっと! まだ確認が――」


 これで晴れて冒険者になったってわけだ。なんだかんだでけっこう嬉しいじゃん。これが食っちゃ寝ニートライフの第一歩だ。これからガッツリ稼ぎまくるぞ。


 ――だが、その時だ。


 俺の視線が冒険者カードの“ある部分”で止まった。

 その内容というのが、


「職業…………『勇者?』」


 何故か職業に『?』がついていた。


 何で疑問系なんだよ。そこは強く断言しろよ。まごうことなき勇者だよ。間違ってないんだからもっと自身持てよ。他でもない公文書の記載なんだぞ。


「その『?』の件も含めてこのカードは一度こちらでお預かりさせていただきます。正式なものと判明するまではこちらの仮カードを使ってください。クエストを受ける分には何ら問題ありませんので」

「まあ……いいけどさ」


 釈然としないが、俺は渋々ながら冒険者カードをお姉さんに返却した。クエストが受けられるのならまあ良しとしよう。


「ただし、また今度、再鑑定を行わせていただきますのでこのときは協力してください。それが正式な冒険者カードの交付条件となります。いいですね? くれぐれも悪さなんてしないようにしてくださいよ? 何かあったら憲兵を呼びますからね?」


 結局、最後までお姉さんは俺が勇者だってことを信じてくれなかった。



◇ ◇ ◇



 ギルドで冒険者登録を終えてから一時間後のことだ――。


 俺は街から数キロ離れた草原へとやって来た。目的はもちろんクエストだ。俺はさっそくお姉さんからFランク冒険者向けのクエストを引き受けたのだ。


 その内容は『みたらしスライム』とやらを五匹捕獲してこいというものだった。


 スライムならもちろん知っている。俺の住んでる里にもちょくちょく現れてた。

 だが、『みたらし』と名の付くスライムなんて聞いたことがない。聞くところによると黄金色に光る蜜に包まれたスライムなんだとか。


 お姉さんによるとみたらしスライムは草むらを歩いていればすぐに見つかるだろうとのことだった。俺はその情報を頼りにそのへんの草むらをぐーるぐーると歩き回る。


 そして、五分も経つ頃には……



「だりぃ」



 正直言って勇者として生まれた俺に今更スライム倒せとかテンション下がるわ。

 グリズリー・ジョーならしゃーないよ? あいつは流石にヤバい。あれを倒すんなら相応の準備がいる。昔は俺も一発で倒せたけど今は無理だ。最近、運動不足だからちゃんとストレッチとかして調子を取り戻さないといけないな。あいつには近いうちにリベンジかまそう。近日中には熊鍋の刑だ。


「そう言えば……」


 さっきお姉さんが気になることを言っていたな。

 鑑定石で分かる情報は、氏名、性別、年齢、種族、職業の五つだとか……


「よし、久しぶりに《鑑定》やってみっか」


 実は《鑑定》は俺の扱えるスキルの一つだったりする。


 しかも、あのギルドに置いてあった鑑定石とはものが違う。もっと詳細な情報を入手することができる強化版なのだ。


 昔、ストレス発散のためのヤンキー狩りに大いに役立ったスキルだ。自分と相手のステータスを見極めながら絶対に勝てそうな時にのみケンカをふっかけるという実にスマートな戦術だ。

 勇者としての能力に目覚めてからはぐんぐんとステータスが伸びていったため使う機会はなくなったけど。

 かれこれもう五年以上はご無沙汰だろうか。あれからキツい修行をいくつもこなしてきて勇者としてのカリキュラムもすべて修了したからな。今じゃあの頃とは比較にならないくらいの超ハイスペック仕様に生まれ変わってることだろう。


 ではさっそく……


 《鑑定》


 ………………。


 《鑑定》!


 ………………。


 《鑑定》! 《鑑定》!! 《鑑定》!!! 《鑑定》!!!! 《鑑定》っ!!!!!


 ………………。


 あれ……? なんかおかしいぞ。

 記憶している限りだとステータス画面が視界の端にポンッと出てくるのに。


 まさか……

 いや……もしかして……






 俺、《鑑定》使えなくなってんじゃん……

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