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「終わったみたいですね」
いつの間にかやってきたのか、二宮瑠樺が近づいてくる。
「これは? どうなったんだ? あの子は消えたのか?」
「大丈夫です。妖かしとしては消えていません。ただ、彼女が持っていた強すぎる呪いを取り除き、その力が極限まで小さくなっただけです」
そう言って響に向かって手を伸ばす。その小さな炎が瑠樺の手の中に意思を持つかのように移動していく。穏やかな顔で瑠樺がその小さな炎となった妖かしを見つめている。
(ああ、そうか)
響はその瑠樺の表情を見て理解した。
彼女たちはもともと妖かしを消し去ってしまうなどと考えてなどいなかったのだ。ただ、自分の決意を試しただけなのだ。
「良かった」
心から響はホッとしていた。
「この子はあなたのために恨みをもった妖かしになったわけじゃありませんよ」
「じゃあ、どうして?」
「妖かしは生まれる時にその周囲の影響を強く受けることになります。
「だから、それはボクがーー」
「いえ、あなたの影響だとは思えません。あなたのその力、強いけれど色を感じられない。もっと他の影響を受けたのだと思います」
「まさかーー」
その瞬間、誰かの顔がパッと頭の中をよぎった気がした。だが、それはハッキリとした形にならずにすぐに消えていった。
「何か思い当たることでも?」
「いや、何も」
そう、何も憶えてはいない。
だが、今、一瞬、思い出しそうになったのは何だったのだろう?
* * *
新しい生活がはじまったような気がしていた。
自らの力を知り、それを活かすことを学ぶ。
それが今の自分のやらなければいけないことだと、響は自分に言い聞かせた。
ここならばきっとそれは出来るだろう。
瑠樺たちと知り合えたことは、自分を見つめ直すきっかけとなった。
彼女が大怪我をした蓮華たちを連れてきた時も、迷うことなく自分の力を使って彼女たちを助けることが出来た。
この力を活かすことが出来る。それは響にとって小さな自信になった。
きっと彼女たちとの関係は、さらに自分の道を見つけることが出来るだろう。
そんな充実感のある日々が、これからは続いていくように思えた。
そんな時に彼らは現れた。
深夜になって、玄関のチャイムが鳴った。
妙な胸騒ぎにかられてドアを開ける。
そこに彼らがいた。
漆黒の目を持つ少女、そして、背後には羽織袴姿の茶髪の男。
「やあ、久しぶりです。草薙さん」
その声を聞いた瞬間、今まで切られていた記憶のスイッチが入った。
「キミは……双葉伽音」
自然に口からその名前が漏れた。
「はい、嬉しいです。憶えていてくれたのですね」と言って微笑む。だが、以前、会った時と同じようにその黒い瞳は笑っていない。
彼女が動くたび、彼女が何かを話すたび、何か黒いものが飛び散り響へと降りそそぐ。
「どうして?」
「私を助けていただきたいのです。あなたの力を貸してほしいのです」
漆黒の闇が自らを包み込もうとしている気配を響は感じていた。
了