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その制服の少女を目にした時、響は一瞬、別の少女を思い出しそうになった。
闇を纏ったような黒々しい少女。
正確には思い出せないが、最近、そんな少女と出会った気がする。それなのに顔も名前もハッキリと思い出すことが出来ない。ただ、ボンヤリとそんな少女と会ったような気がしている。
彼女も響と同じ年齢で、同じ高校生だと話していたのではなかったろうか。同じ高校だと話していたので、ひょっとしたら顔を合わせることもあるかと思っていたが、新学期以後、まだ彼女の姿は見ていない。そもそも再会出来ても、顔も憶えていない状態でわかるだろうか。
今、そこにいる少女はその真逆に位置づいているような印象を受けた。まるで薄い光のベールに包まれたような純粋な白さを感じさせる。
「見えるのですか?」
もう一度、制服の少女は驚いたように響に聞き返した。
「あ、ああ……見えるよ」
今更誤魔化しようもない。躊躇いながらも響は答えた。制服の少女の隣にいるそれは普通の人には見えない存在だということを、既に響も理解していた。響にとっても、こういうことは初めての経験ではなかったからだ。
「どうしましょうか?」
「どうって?」
「助けてあげたいのですけど、どうすればいいものか。私が触れると浄化してしまいますし」
「浄化?」
「はい。浄化してしまったら、この子はそのまま消えてしまいます」
「浄化してあげたらいいんじゃないの?」
その『浄化』という言葉には、物を清くするような前向きな意味が感じられた。
「ダメですよ」
少女はすぐに大きく首を振った。「本人が望んでいないのに、全てを消し去ってしまうなんて正しいことじゃありません」
「本人が望んでいないっていうのは?」
「こういうことです」
その右手をそっと透き通る少女へと伸ばす。すると少女はふわりと風船が風に揺れるかのように2,3歩退いた。
「それってどういうこと?」
「普通、命を失えばその魂も肉体も浄化されるものです。しかし、想いの残る人はこのようにしてさまよいます。この子たちは存在すらしていない。でも、強い命の力を持つものに触れることによって存在を取り戻せるんです。でも、私じゃダメなんです。それがこの子にはわかっているんです」
訴えるように少女は言った。
「じゃあ、なぜこの子はここにいるんだ? キミに触れられてはいけないのなら、キミの傍にいてもしかたないじゃないか?」
「誰かに助けてほしいんです。だから、ついつい自分の姿が見える人の前に現れるものなんです。あなたにはこの子が見えているんですよね? あなたなら助けてあげられるのかもしれません。お願いです。助けてあげてもらえませんか?」
困惑していた。先日のことが思い出される。
「助けるっていうのはどういうこと?」
念のために訊いてみる。
「あなたにはこの子が見えます」
「ああ」
「あなたには強い命の力が感じられます」
「……力?」
「はい、あなたのその生命をわけることが出来るんじゃないでしょうか?」
どう答えればいいかわからなかった。
この少女は、会ったばかりだというのに自分の力のことを見抜いている。
もし、この少女の言うように、この子を助けるようなことをしたらいったいどうなってしまうのだろう? 先日のようなことになってしまうのではないだろうか。
「一つ、聞いてもいいかな?」
「何でしょうか?」
「この子はどうして死んだの? なぜ輪廻の輪にのらないんだ? その理由をキミは知っているの?」
「知っているわけではありません。ただ、感じ取ることは出来ます。この子は同級生にいじめられて自殺したんです」
「……自殺。じゃあ心残りっていうのは虐めた相手への復讐なのかな」
「復讐……に近い気持ちはあると思います。虐められるのは辛いですしね。でも、この子が心残りに思っているのはそれじゃないと思います」
「じゃあ他に何が?」
「友だちです。彼女、友だちも一緒に虐められていたみたいです。その友だちを残して死んでしまったことが心残りなのだと思います」
「ボクが助けると、この子はどうなるの?」
「たぶん妖かしになると思います」
「妖かしに? 妖かしになったその先は? まさか虐めていた同級生への復讐?」
「小さな仕返しくらいはあるかもしれませんね。でも、基本的には友だちを助けたいんだと思います。彼女は妖かしになることで、その友達を守りたいんです」
「どうしてそんなふうに言えるの?」
「そう感じるからです。それにもともと亡くなった人の魂というのは大らかなものです。強い恨みの念を持っていることほうが珍しいものです」
「それは本当にこの子のためになるの?」
少女はニッコリと微笑んだ。
「大丈夫です。助けてあげてもらえませんか?」
* * *
躊躇いながらも、響はゆっくりと手を伸ばす。
これが正しいことなのかどうかまだわからない。
それでも、この制服の少女が言うようにこれが魂を助けることになるのなら、それを迷う理由はないはずだ。
その霊となった少女は逃げようとはしなかった。
ジッと響のほうを見つめ、その時を待っているように見える。
響は覚悟を決めた。
その指が影に触れる。
暖かな感触。
それは響にとって初めての経験だった。
先日、同じように影に触れたときとはまるで違う感触だった。あの時は一瞬、ビリビリと電流が走るような痛みがあった。だが、今回は違う。
(そうか)
これは自分の力だけが理由ではない。制服の少女のほうから何か自分に向かって別の力が送られてくるのが感じられる。
彼女の暖かな力が、自分のただ強いだけの力に色をつけている。
少女の背に淡く透明な羽が見えた。
「ありがとう。これであの子は救われました」
制服の少女はニッコリと微笑んだ。




