表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/142

25 千秋楽

仮想通貨の取引は、様々なリスクを伴います。投資に際しては、リスクを承知したうえで、自己責任でお願いします。

 『劇団魔族』の主演女優の控室に島の有力者というか支配者が訪れてから数刻。


「うふ、今すぐは無理ですけど、数週間待っていただければ数多の障害を駆逐してあなた様の元にお伺いします、私の事を待って頂けますよね?」

「おう、そのくらい狂おしい血のたぎりすら抑えてみせましょう!マーメイ、貴女が望むなら」

「ああ、そのお気持ちありがたく受け取らせて頂きます。私の真の望みは、あなた様に全てを捧げること。今しばらくお待ちください、主の主命を果たすまでのあと数日の日々を!」


 魚人の姫を演じた『劇団魔族』の人気女優マーメイが示す親愛の情が、この島を治める男の心をくすぐる。これほどの美女に愛される、男としての名利を掴んだと確信した男は鷹揚に頷く。


「ああ、あなたが私の元に戻る日を一日千秋の思いで待ちましょう。私の心はあなたに捧げています、永久とわに」

「うふ、信じましょう、わたくしが愛するあなたの御心を。さあ、約束の口づけを、愛しきお方、あぁ」


 魚人の姫を演じただけあって、男心をくすぐるのが上手い、ましてその香しい息とともに交わされる口づけの威力は何に例えられようか。そして何よりも魔族の魅了の力がいかな海千山千の地方領主の精神を蕩けさせる。

 男は柳腰の麗人を抱きしめ口づけの官能にのめり込む、誰もが見惚れる美女に惚れられるという優越感とともに。


「では、くれぐれも明日は劇団の公演最終日、千秋楽ですのでぜひ貴方にもわたくしの演技をお目に掛けとうございます。このチケットをお持ちいただければ、わたくしの控室にもお通り頂けますのでお時間の都合がよろしければ来てくださいね」

「おお、万難を排して貴女の元に伺いましょう。私の名誉に賭けて!」

「うれしい!お待ちしていますわ、あ、な、た。きゃはっ」


 余りにもあざとい媚態の示し方にも気づかずに、いやがうえに燃え上がった恋心に突き動かされてマーメイの細い身体を抱きしめる領主だった。


『劇団魔族』の最終公演日、チケットは完売、満員御礼であふれる観客を収容するため、急遽大道具たちが造った簡易シートになんとか全ての客が詰め込まれた頃。


「ああ、うれしい!来てくれたのね、あ、な、たぁん」

「ああ、私がマーメイの頼みを聞かぬ訳がなかろう。今日は島民こぞって見に来てくれたようだな、私も皆に進めた甲斐があった」

「ほんとに、夢のよう。みんなにわたくしの演技を披露できるなんて。本当に感謝を言葉で言い表せられないくらい、貴方がいてくれて良かった。貴方がわたくしを選んでくださって本当に良かった」

「ふふ、そろそろ開演の時刻だろう?あそこに呼び出しの者が痺れを切らしている。名残惜しいが、特等席で貴女の演技を見届けよう」

「はい、あ、な、た」


 短い口づけを交わしたのち領主は、控室を去っていった。


「はあ、口直しのジャスミンティーだ。大至急だよ!」

「へい、こういうこともあろうかとここに」

「ふん、気が利くね。あの領主の臭い息を嗅がされてちゃ、わたくしの声に艶も乗らなくなろうってもんよ!あちっ、でもすーっとするね。ありがとよ」

「へい、千秋楽きばってくださいよ!」

「ああ、あたりまえだ!」


 主演女優マーメイは、第一幕嵐の難破船に向けて役作りに入るとすぐさま呼び出しから声が掛かった。


「マーメイさん、出番ですよ。お願いします」

「はい、わかりました」


「なんて、綺麗な人間、男の人なの?ああ、このままでは?たしか人間は、海の中では生きられないって前にお姉さまが言ってらしたわ。さっき沈んだ船に乗っていたのね、たぶん。私の息を吹き込めば、大丈夫かしら。ああ、素敵なお方。わたくしの真心を差し上げます、どうか息を受け取ってください!」


 魚人の姫は、嵐に巻き込まれて沈没した王子に口づけと共に空気を与えた。


「ふふ、皆が恋い焦がれて見る女優、マーメイの口づけは私のもの。所詮届かぬ身で、演劇の中に夢を見続けるがいい」


 特等席で演劇を鑑賞する領主の独りよがりは、誰にも聞こえていなかった。


「あーあ、あ。これでやっとこの島とおさらばね。島の主要人物には、劇団員が手ずからウィルスを撒いてやったし、無料の軽食にもたっぷり仕込んだから。仮想通貨EJのことはこの島中に浸透したはず。

 あと、いくつ島を廻るか知らないけど。帰ったらあの雌猫と竜はギタンギタンにしてやるんだから!」


 控室の奥で、状況を観察していた下僕一号は拳を握りしめるのであった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ