エピローグ
今日は二話投稿しています。
こちらは二話めです。ご注意ください。
あれから一週間が経った。
今日は大学はお休み。
私は家の家事を手伝いながらも、ぼんやりしていた。
「由香」
「……」
「由香!」
「え? なに?」
顔を上げると、母が呆れたようにこちらを見ていた。
「なに、じゃないわよ。さっきからずっと同じところを拭いているわよ」
「あ……」
「何があったのかは知らないけどね、いい加減しゃんとしなさい」
「……はい」
しゅん、と肩を落とすと、母は溜め息をつく。
「ここはもういいから、お茶を淹れてきてくれない?」
「うん、わかった」
私は素直にうなずくと、台所へと向かった。
歩きながらブローチをズボンのポケットから取り出し、眺める。
……今頃、サヴィはどうしているかなあ。
思い浮かぶのは、あの紫色の髪をした魔術師のことばかり。
翠の瞳を思い出すと、胸が締め付けられるように痛い。
「……会いたいなあ」
通り雨のような邂逅だったけど、芽生えた想いは今も胸に咲き続けている。
ーーでも、もう会えない。
浮かんだ涙を手の甲で拭って、私は台所に立った。
お茶を淹れれば、少しは気も紛れるかも知れない。
「よし、飛びっ切り美味しいお茶を淹れよう」
空元気を出して、そう宣言した時だ。
手に持ったままだったブローチが、光った。
「これ、もしかして……」
辺り一面光でまぶしい。
心臓が大きく鳴り響いている。
そして、聞きたくてたまらなかった声が私を呼んだ。
「ーーユカ」
「サヴィ!?」
しっとりと落ち着いた低い声。
サヴィ。
サヴィだ!
まだ辺りはまぶしくてよく見えないけど、私は紫色の影に向かって足を踏み出した。
しがみつくように抱きつくと、影も私を抱き締めてくれる。
「ーー今度は失敗じゃないぞ」
耳元でサヴィがささやく。
「会いたかった」
うん、と私はうなずいた。
会いたかった。
私も会いたかったよ、サヴィ。
たった半日だけの出会いだったけど、あなたへの想いはこんなにも大きい。
しばらくの間、私達はお互いを強く抱き締めあっていた。
そして、現在。
私とサヴィは我に返ると同時に離れて、背中越しに話している。
いや、だって。
まだ恋人ってわけじゃないし、サヴィが私をどう思っているのかはっきり聞いていないし、……照れるし。
ちらりと見たサヴィも顔が赤くて、ますます照れてしまう。
「……と、いうわけでだ」
こほん、とサヴィが咳払いしてこちらを向く。
この一週間、サヴィは私を召喚するためにいろいろ頑張っていたらしい。
「もう安定して喚べるようになった。これからは、いつでも、その、会える」
「……うん」
私も彼の方を向き、小さくうなずく。
顔が熱い。
きっとユデタコみたいに真っ赤だ。
「だから、その、あーー。契約、しないか?」
「……契約?」
「その、だな。ユカさえよければ時々ここに来て、家事をしてくれないか? もちろん、報酬はちゃんと払う」
「……」
「……駄目か?」
心配そうなサヴィに私は首を振る。
なんだか予想とはちょっと違うけど、私達はこれから始まるんだ。
「いいよ。その契約、受ける。でもね、一つだけ条件を付けてもいい?」
「なんだ? 俺に出来ることなら何でもいいぞ」
「えっと、あのねーー」
ーー時々は仕事じゃ無くてこっちに来たい。
あなたのことを、もっと知りたいから。
勇気を出してそう伝えると、サヴィはますます赤くなった。
そして、私に手を伸ばしてーー。
この後のことと、それから私達がどうなったのかは、秘密である。
これにてひとまず完結です。
なろうでは久しぶりの連載でした。さくっと読めるほのぼのストーリーを目指したのですが、如何でしたでしょうか?
評価、感想などいただけると嬉しいです。
この二人の後日談など、書けるようなら書きたいと思っています。
またの機会がありましたら、その時はよろしくお願いしますね。
それでは、閲覧ありがとうございました。