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お掃除と魔術書

 掃除の基本は上からだ。


 私は散らかっていた本やらなにやらを片づけた後、はたきを手に取った。

 巣立ったという弟子の手作りなのだろうか。

 木の棒に布をくくりつけただけのシンプルなものだ。


「俺は何をしたらいい?」


 サヴィは間違って召喚した私だけを働かせるのは悪いと言って、自主的に手伝ってくれている。


「えーと、はたきをかけた後、箒で掃いたら拭き掃除をするから、水を準備しておいてもらえる?」

「わかった。水だな。桶をとってくる」

「よろしくー」


 出ていくサヴィを見送って、私ははたきを握りしめる。


「さて、やりますか」


 

 弟子の人が出ていって、どのくらい経つのだろう。

 けっこう埃が溜まっていて、軽くはたいただけでも視界が白くなった。


「うわ、すごい」


 布を借りて、しっかり口をふさいでおいて良かった。

 しばらくぱたぱたと手を動かしていると、だんだん埃が取れて綺麗になっていく。

 壁一面に並んだ本棚には本がぎっしり詰まっていて、私は興味深く眺めた。


「何て書いてあるかはわからないけど、どれも分厚いなー」


 言葉は通じるけど、文字は読めないらしい。

 皮の装丁の本を眺めていると、ふと一冊の本が目に留まった。


 赤茶色の古ぼけた本は、他の物と違って絵本のように薄かった。

 なんの気なしに手に取り、表紙を見る。

 金色で書かれた文字は読めないけど、可愛い女の子らしき絵が描かれていて、やっぱり絵本のように思えた。


「ちょっとだけ、失礼します」


 異世界の絵本はどんなものなのか気になって、そっと開いてみる。

 だけど、それは絵本では無くて、想像とは違い真っ白な紙に漫画で見たような魔方陣が描かかれていた。


 あ、やばいかも。


 顔を引き攣らせた私の耳に、幼い少女の笑い声が響いた。


 ーーきゃははは!


 そして突然の突風。

 目を開けていられず、ぎゅっとまぶたを閉じて、身体を縮こませる。

 笑い声と突風は、数分間続いてから唐突に消えた。


「ユカ!」


 血相を変えたサヴィが駆け込んできたのは、そのすぐ後だった。



 あの本は、精霊を召喚する魔術書らしかった。


「まったく……低級な精霊だったからまだ良かったが、危険な物もあるんだぞ」


 はあ、と溜め息をつきながらサヴィは私に軟膏を塗る。

 先ほどの突風であちこちに切り傷が出来たのだ。

 どれもごく浅い傷だから良かったけど……。


「うう、ごめんなさい」


 せっかく片づけた部屋はまた散らかってしまったし、カーテンのも被害が出たし、とほほである。

 しょんぼりと肩を落としていると、軟膏の蓋を閉めながら、サヴィは苦笑した。


「いや、部屋はいい。それより、すまん。一人にした俺も悪かった」

「サヴィ……」


 サヴィ、良い奴!

 余計に申し訳なくなって、私はもう涙目だ。

 

「だ、だから泣くな! 部屋はまた片づければいい。そうだろう?」

「うん……そうだね」


 鼻をすすり、私はうろたえるサヴィに笑ってみせた。

 明らかにほっとするサヴィが可愛いくて、こんな時なのにドキッとしてしまう。

 ……いやいや、ないから。

 

「え、えーと。じゃあ、また頑張ろうか」

「ああ、そうだな」


 私は勢いよく立ち上げると、さりげなくサヴィから顔を背けた。

 サヴィが無駄に整った顔しているのが悪いんだよね、うん。


 再び掃除を始めても、なかなか心臓がゆっくり動いてくれなくて少し困ったけど、今度は何の問題もなく部屋は綺麗になったのだった。

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