二部〜部長倉科麻里〜
またお願いします!
会社編です。
それから2ヶ月が過ぎた。山野の家事は完璧で、雇ったことはないが本職のハウスキーパーよりできるのではないかと思う。
最近は、昼のお弁当が楽しみな毎日な倉科麻里がいる。「部長、今日も美味しそうですね。」なんて声が飛ぶオフィス。「あー幸せ!」と忙しい時間にハンバーガーとか、サンドイッチとか独りで牛丼とか、あの頃の自分に右ストレートをかましてやりたい。
仕事に生きるのは女を捨てる事じゃないよね。実質最近は毎日の食生活のおかげか体調は良すぎるほどいい。
そんな幸せなランチタイムを過ごしていると、「部長ちょっと宜しいですか?」その声は部下のそれではなくむしろ仲のいい友人を思わせる、そして今余り会いたくなかった友人の声だ。
「あ、あら大学の同期、そしてかつては私の仕事のライバルで妊娠結婚を機に会社を退社、だけど出産後旦那がリストラされて、復職して旦那を主夫にした小岩井美香さんじゃない?」
よどみなく説明口調で倉科が言った「誰に対してかわからないけど説明ありがとう。それが久しぶりに会った数年来の親友に対する挨拶かしら?」
この人こそが抱き枕をプレゼントしてくれた悪友だ。「で、なぁに?私、今食事中なんだけど。」
「いや、それよそれ!あんた私になんか隠してない?」ギクッとする倉科の反応を見て小岩井が続けた。
「やっぱり⁈あんた男できたでしょ?あんたが弁当作るのなんて、あれ(婚約破棄)以来だもんね最近綺麗になったって、課のみんなも言ってるよ。何で私に言わないの?」
綺麗になったと言われるのは嬉しいけどそれは栄養バランスのせいかなーと複雑な気分で思っていると追及の目が輝いて止まらない。
食事をしている場所にいるみんなの耳も大きく見える「出来てないよ。まぁ変わった事はあったかな。でも残念な事に彼氏はいない。」
じと目で倉科を見て「怪しい、最近残業も減ったよね。持ち帰って仕事してるよね?じゃあそんなに早く家に帰りたい理由は何?」
だから会いたくなかったんだ。いつも思うけどこの人は私のストーカーかエスパーか何かだろうか?でもまぎれもない私の悪友で親友だ。
「わかったよ話す、話すから。でもそんな大した話じゃ無いよ。あの・・」倉科が話そうとすると、「待った。どうせ明日休みだし、久々に深雪にも行きたいしそこで聞こうか。んであんたの家泊まる。」
うわ、更にめんどくさ‼︎「深雪は最近毎週行ってるから、駅前のワインバーにしようよ。何とか自宅から遠ざけようとするが、その頃には小岩井は、電話を持って「深雪ちゃん‼️久しぶり、今夜カナと2人で行くから予約ね^_^」というメッセージを打ち終えていた。
倉科は「今夜はご飯いりません、友達とご飯行きます貴方も好きにしてね。」というメッセージを送り、諦めた。仕事中も「ただの家政夫の話なんだからやましい事は無いし性的な事もして無いし大丈夫よ。」
倉科がブツブツと言っていると小岩井が迎えに来た。「さぁ行こう‼️日頃の鬱憤とか育児とか働く気の起こらない旦那とか結婚の地獄を教えてやるわ。」
なんか趣旨変わってない?かと思ったがそのまま変わってくれた方が都合いいので特に突っ込まず、帰り道を歩いた。
家を通り過ぎ深雪の方へ向かおうとすると、「あれ、着替えないの?私から誘ったし、ださいスウェットに着替える時間くらい待つよ。っていうか私のスウェットもまだ有るよね?」
小岩井がいつも使わない気を使ってきた。「今日はいいかなこのままで。たまにはスーツでビシッとね。」
「何言ってるの?スウェットに眼鏡、髪の毛くくらないと落ち着かないって言ってたじゃん。早く行こ‼︎それとも家に入れたく無い理由でもあるのかなー?」
からかうように言う小岩井に(あるのよ。大いに‼︎でも仕方ないか。説明めんどくさいし。)諦めて家に入ると、違和感を感じる。部屋はいつも通りチリ一つ落ちてないが、彼の靴も服も物が無いのだ。
(まさか出て行った?何も言わず?)内心焦っていると、携帯のメッセージが鳴った。「友達が男性とかだともし家に来た時僕の物とかあったら困ると思うんで、今日は職場の人に泊めてもらいますね。麻里さん良い週末を^_^」
(なんて、何て出来る子なんだろう。)
そうと決まればもう怖いものは無い。さぁ上がって上がってと、先ほどまでの焦った顔が嘘のように、はやくシャワー入って深雪いこー!となる倉科。
家に何もなくて、アテが外れた感はあるが、職場で言っていた最近の変化が気になるので2人とも高速シャワーで、倉科はすっぴんメガネ、
小岩井はナチョラルメイクで共にスウェットで、深雪に向かった。深雪に入ると、いつもの野太いハートマークな声ともう一つ爽やかないらっしゃいが聞こえてきた。
ふと見ると、ここ2ヶ月よく見慣れたまぁまぁ美形の男性が白衣を着て出迎えていた。
「なんで浩二がここにいるの!?」「麻里さんいらっしゃい!」何も無いようにニコッとする山野。うっかり若い店員の名前を呼んだ事にハッとした倉科は後ろを振り向くことができなかった。振り向かなくても後ろで笑っている小岩井の存在を感じたからだ。