勘違いは盛大に。愛と依存
電車も終わった時間。今日も今日とて深雪の看板の明かりは消えて、中では倉科と天使が飲んでいた。「今日は祝い酒なんだからもっと飲めー!」とご機嫌な倉科が言った。
「もう~主役もいないお祝いなんて意味ないじゃない!毎週毎週、私と飲んでばかりじゃない。」天使が毒づいた。
「いーの。どうせ今日は帰って来ないわよ最近はチームの女の子の話ばっかだし。今日あたりいくとこまでイっちゃうんじゃないの。」実際には同じくらい川田の話も出ていたのだが、耳に残るのは女の話しだけだ。
恋する少女 (30歳)はそういうもんだと思う。「何?妬いてるの?マジで笑えるんですけど。」いつもなら毒を返すか掴みかかる勢いのいわゆるお約束に天使は構えていたが来ない。
えっ?って思って、倉科を見ると半ベソ書いて睨んでた。(うわっ怖っ!)「えっとなんかゴメンね。ね、改めて乾杯しよう。こうちゃんの仕事の成功にかん・・・」あとは杯というだけのタイミングで勢いよく入り口が開いた。「良かった。まだいたー。」
山野が赤ら顔でしかし真剣な面持ちで入って来た。「あらこーちゃん。私に会いたくて来たの?」天使の言葉は華麗にスルーされた。「まぁ折角来たんだから飲もうよ。あんたのお祝いだしさ。」なんと、倉科の言葉も華麗にスルー。
そして山野は言った「まりさん、俺まりさんの家出て行きます。」稲妻が落ちたかのようだった。突然来て落ち着く間もなくの爆弾発言。いや実際にはただ居候で家政夫な会社の後輩がでていくだけなのだがもうそれだけの存在ではない。
放心しそうな倉科を横に「どうしたの急に?あっ!会社の先輩の告白とか?」驚いた感じで山野が「なんでわかったんですか?でもそれは出ていく件とは関係ありませんよ。」
倉科が絞り出した声で言う。
「うまく、いったの?付き合うの?」山野は満面の笑みで「そうですね。だから帰って来たんですよ。泊まるわけにもいかないし。」
「関係ないってことないでしょ?それが原因で出ていくんだから。」天使が突っ込んだ。
「関係ないですよ。(職場の先輩同士が付き合うのに)むしろなんの関係があるんですか?」
「私、こうちゃんとは仲良いと思ってたけど関係ないって言われるくらいの関係だったんだ。」あまりに他人行儀に聞こえる山野の発言に天使も凹んだ。?マークが頭の上に付いたような山野だったが、「話を戻しますね。あの、まりさんから電話来て出た時のこと覚えてます?」
山野の出て行く発言に落ちたままの倉科が「あーなんかいいとことか言ってたよね。あの時かー。邪魔してゴメンね。フフッ。」語尾に表情の笑ってない笑顔がつく。怖い。「何でそんな落ち混んでるんですか?それでまりさんって言って電話出ちゃってそこから、部長から直接電話の来る不自然さなどで尋問されて、一緒に住んでるってそのバレちゃいました。本当にすいません。それでまぁ2人は秘密にしてくれるって言ったんですけど、やっぱりまりさんに迷惑かかるかもなーって思って。本当にすみません。」
山野が深々と頭をさげると「はぁ?」天使と倉科が気の抜けたような声を出した。「えっ出ていく理由それ?それだけ?」倉科が聞き「(山野に)彼女が出来たから出ていくんじゃないの?」と天使も聞く。
「だから、何で先輩2人が付き合うのに僕が関係あるんですか?それもあって高いタクシー使って帰って来たんですよ。いつも泊めてもらってた先輩の家に今日は行くの悪いじゃないですか。」
山野が丁寧な説明をしたがまだ頭がついてこない。「じゃあ告白されたのは?」「海野さんが川田さんに。」「あんたは?」「おめでとうって言いましたけど?」と何とも間の抜けた会話が終わった。「そーかそーかそれも含めてね、お祝いの乾杯しよう。おねーさんが奢ってあげるから。」
さっき迄の落ちていた倉科は見事にいない。天使が横で酸素が必要なほど引き笑いしてる「お腹痛い。わかりやすい。」
「俺は真面目に言ってるんですよ。」山野がちょっと2人を見て少し怒った。そんな山野の顔をしっかりと見据え倉科が慈愛に満ちた笑顔になり「いいよ出て行かなくて。最初の頃なら追い出してたと思うけど、今はもう無理。私には浩二が必要だよ。出て行きたいなら別だけど。」
「いや僕だって出て行きたくないですよ。俺もカナさんの事大事だし。一緒にいて居心地いいし・・・けど・・」同じ「必要」なのに数ヶ月前に元彼女に使った必要って言葉とは比べようの無い程の暖かい言葉がそこにあった。迷ってる山野を見て
「あーもう、私が一緒にいたいって言ってるの。出て行かない理由があればいいんでしょ」と強引にいった。
「なにこれ人の店で?もう恋なんてしないとか言ってたよねあんたら。やだーやめてよ。えっ、むしろ今まで一緒にいて何もしてないの?」と天使がいい意味で気持ち悪そうにいった。「うるさい権田原しね。」お約束の絡みだが倉科の顔はニヤついてる。
少し2人がギャアギャア言っているうちに山野が考え事をして不安そうにいった。「でもこれってまた俺依存しちゃってるんですかね?ほら前の彼女?の時の話してる時に小岩井さんに言われたんですよね。共依存だって。」怖がる様な山野の頭を倉科が撫でながら。「いいよ依存でも浩二をを前の女の時みたいに不幸にはしないから。す・・・好きだよ。」
2人がいちゃついて?いると
「バカねえあんたら。2人が同じ様にお互いを必要とする事は依存じゃ無いわよ。ただの愛よ。愛だって依存みたいなもんなんだから。」サムズアップした天使がドヤ顔でいった。いいところは根こそぎおかまに持って行かれた「それ言ったのがあんたじゃなかったら泣いてたわ。」と倉科が言って会計を済ませ、2人はいつも通り一緒の家に帰った。
その日2人が家に帰ってからなにがあったかは割愛させて頂きます。そしてそれから時は立ち、出会ってから2年、都合同棲2年が過ぎた。




