酒と涙と男と女
あと4〜5話くらいで完結です。
みなさまお付き合いくだされば嬉しいです。
呆然とし今にも涙を流しかねない山野たちの横で、Cellarなんて興味が無いくらいのスタンスでいた2人組は胸を張っていた。そして目には山野達とは違う意味の涙を浮かべていた。自分たちが作ったものが評価されるのはやはり感慨深いものがあるのだろう。
倉科から総評があった「審査委員の倉科です。どの作品も素晴らしいものでしたが完成度や、今回のクライアントのコンセプトにあったものという点で選ばせていただきました。落選した方の中にも素晴らしいものはありましたし、注意点など他の審査員の方のコメントもありますので、各々見ておいてください。」
二人組が山野達に、話しかけてきた。「君らのプレゼン見た時正直負けたとおもったよ。今度は君達と一緒に仕事してみたいな。僕らはCellarを超える!通電のトップチームになる‼︎お互いに頑張ろう。」といって、握手を交わして去っていった。
結果の発表は終わり皆が会場を後にした。山野達も歩きながら「負けたねー」と海野が呟くと。「・・・飲み行くぞ残念会だ。」川田がガシッと山野の肩を掴む。3人は飲みに出た。最初はこうやれば、もっとうまくやれば勝てたとか、どうしても今日の話をしていたがやがて酒の進み具合とともに誰も仕事の話をしなくなった。
酔ってするには、そぐわしくない会話ってのはあるものだ。グダグダと話していると川田が「俺はなあ、俺は今日勝ってやることがあったんだよ。」と突然言いだした。「こんなしけた焼き鳥屋じゃなくていい店も予約して、海野に・・・」しけた発言に焼き鳥屋の主人は咳払いをし睨んでる。
そこまで言ってか咳払いでか我に返った様にハッとしてなんでも無いそぶりを見せるが山野たちも酔っていたので追求する。「何ですか川田さん〜?」
と山野が内容を察して言うと、
「わたしに何かあるならいってくださいよ。私が何か失敗したから負けたとでも言いたいんですか?」って海野は何か勘違いしてるのか怒り気味にいう。
そこで山野が自分の携帯が鳴っていることに気づく。画面を見ると着信、倉科麻里と出ていたが、心の中でゴメンと言いながら、いいとこなので無視した。「いいのか?電話?」川田が逃げ道を見つけて電話の事にふれると、「後でかけるんで大丈夫ですよ。」ここを離れない、見届けるという強烈な山野の意思が伝わってくる。
が、マナーモードにしてもかれこれ3分留守電で切れてはまた鳴り続ける電話に山野は部長に対して失礼にも電源を切ろうした。丁度電話のきれたところで、着信9件、メール3件と多目の倉科に気付く。なにこれ?って思っているとまた電話がかかって来た。
苛立ちを隠せない感じで山野は電話に出た。「あーもうまりさん今いいとこなのに。なんですか?」と電話に出た。「えっ、時代?蔵上げ?何?ちょっとざわざわしてて聞こえないからちょっと待って。」と2人にすいませんって言って店の外に出た。
「何ですか僕、今大事な場面だったんですよ。」
「山野くん?それは失礼しました。通電の部長としての用事だったのですが!」倉科の声が会議室の声だ。山野の背筋が凍る。酔いが少し冷める「ど、どういたしましたか部長?」倉科がクスッと笑って「ゴメンゴメンちょっとムカついたから。スイッチ入れた(笑)でも仕事の話はホントだから。今日のプレゼンの結果ですが予告の通り正式に優勝チームがCellarに入る事を辞退しました。繰り上げで次点のあなた方がということで上の他の審査員の方の承認も得ていますので。」と言った。
「え、え?はい!あの・・・」思考が付いていかない山野をおいて「明日全員に社内メールもいくんだけど早く伝えたくてね。じゃーねー。」と電話が切れた。
少し放心してから、山野は我に帰り急いで戻った。2人にも教えなきゃと急いで戻り「あの!」っと山野が言いかけるとある異変に気付く。(何か席変わってないか?海野さん俺の隣にいたよな、ってか2人近くない?)肩と肩がくっつかんばかりの距離の2人を見て(うわっ、もうイベント終わった?)山野は思った。
「おう、電話大丈夫だったかなんか切羽詰まってたけど、まなさんだっけ?女の名前呼んでたよな?」川田がニヤニヤしながら聞く?「まなさんなんかいってませんよ。それより、2人近く無いですか?」ニヤニヤしながら返した。
「ち、近くなんてねーよ。ちょっとした席替えしただけだよ。な?」何て慌てて言うと「もー、何で隠すんですか?私達付き合うことになりました。」と海野がキッパリ言った。「あー‼︎やっぱりさっきの川田さんのアレ?見逃したー‼︎電話のせいだ。」山野が後悔したように言う。「そういえばお前電話出た時もいいとことかなんか言ってたよな?」川田が笑いながら睨む。「いや、それはその、何ていうか・・」山野がしどろもどろしていると「まぁいい今は最高な気分だから見逃してやる。」満面な笑みで川田がいった。
「次は仕事も上手くいって予約してたいい店にも連れていって下さいね。」海野がからかう様に川田をいじると山野は仕事という言葉で電話の事を思い出した。「あーー!そう、仕事!」「何だよあー!ってさっきからうるせえな。」「あの、さっきの電話で、プレゼンの、優勝チームがcellar入り辞退したので僕等が繰り上げで入れるって。」
興奮しながら山野が言うと、他の2人は目を丸くして「ホントかそれ?」「山野くん嘘だったら殺しますよ。」海野は少々物騒な確認表現までしてきた。「ちゃんと部長に聞いたんで大丈夫ですよ。明日みんなにメールも届くそうです。」やったーと言いながら思わず海野が川田に抱きつく。川田も嬉しそうだ色んな意味で。
そして最高の夜は更けていった・・・で終われば良いのだが川田は気付いてしまった。「ちょっと待て、何でお前だけに直接電話来たんだ?って言うかお前電話出た時名前呼んでたよな?・・・まなさんじゃない?確か部長は・・倉科麻里?・・お前まりさんって呼んだのか⁈」
「あっ・・・」山野はリアクションしてしまった。抱きついていた海野も離れ「山野くん部長を下の名前で呼んでるんですか?詳しく聞きたいな〜。」座った目で真っ直ぐに山野を見てきた。お酒の失敗失言は判断力と警戒心の低下にあると思う。「それはそのあの、それより2人の告白の話とか聞きたいなーなんて。」下手くそに話をそらそうとしたが2人の目は完璧に山野に向いている。こうして夜は更けていった。
時折「同棲!」「逆ナン?拾われた?」なんて海野の言葉が狭い店内に響いていた。




