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死にたくないから普通になります  作者: 春波流音
第一章
2/3

01

 西暦2482年3月28日午前2時32分。

 1人の神子は5歳の誕生日を迎えた。



............痛い...痛い..痛い.痛い.痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いッ!?

 

 神子は既に寝ていたが突然の頭痛に目を覚ました。だが、目を覚ましても頭痛が治まることは無く、逆に激しくなっていった。

 そして神子は、その日魔王シーカの記憶を取り戻した。



 シーカは剣と魔法が交わる異世界【アラルシア】の魔王であった。数多の魔物を従え世界を手に入れようとした典型的な魔王だった。

 紅の髪に鋭く尖った角。そして、立派な尻尾。体格は身長142㎝体重38㎏と小柄だったが魔王シーカは、その圧倒的な力から【赤い悪魔】と恐れられていた。

 魔王シーカにとって人間とは家畜同然の存在。

 何故、人間こんなによわいせいぶつが存在しているのか常に疑問に思っていた。

 だから、ある日突然【勇者】を名乗る人間かちくを筆頭に人間共かちくどもが魔王城へ攻めてきたと報告を受けたときも、直ぐに鎮圧することが出来るだろうと思い自らは決して動こうとしなかった。

 しかし、事態は悪化していった。【勇者】と名乗る人間達は次々と魔王城を攻略していった。

 これには流石の魔王シーカも焦ったが『ヤバイ』と思ったときには、もう時遅し。勇者達は手下の魔物共を全て倒していた。

 ガァンッ!!


 王室の扉が強引に開けられた。そして、魔王シーカは、あっという間に1000は軽く越えるだろう数の人間に周りを囲まれてしまった。

 魔王シーカは悟った。敵は多分全員2級以上の冒険者だと。もう逃げられない、と。もっとも魔王としてのプライドが逃げるという選択肢を与えなかったが。

 人間と魔王の対決が始まった。

 前半は魔王シーカが人間を圧していた。しかし、やはり魔王シーカにも疲れがある。人間を400人くらい殺したところで魔王シーカの動きは段々と落ちていった。

 やがて初めの方は当たらなかったような魔法も当たるようになっていった。それでも、魔王シーカは屈しなかった。

 遂に勇者の剣が魔王シーカの胸を貫いた。そして、魔王シーカは絶命した。


「で、ここは何処どこなんだ?」

 空気中の魔素の量から、シーカはここが【アラルシア】ではないことは分かっていた。

 だからといっても、ここが何処なのかは見当がつかなかった。


「って、あ、あれ?私は何でこんなところにいるんだ?」

 魔王だった頃の記憶を取り戻したシーカは首を傾げた。あのとき私は確かに絶命したはずである。

 なのに何故生きているんだ?


 はっ!?とシーカは自分の身体を触り始めた。


(よ、よかった。実体はあるみたいだな。ということは私は幽霊ゴーストでは無いってことだな...)

 

 ホッとしたシーカは再度確認するように腕、脚、そして頭に手を伸ばし......驚愕した。


「なっ、無いッ。う、嘘だろ......何で角が無いんだ!?」

 シーカの頭には魔王の象徴ともいえる角が生えていなかった。


「も、もしかして......」

 シーカは咄嗟に自分のお尻に手を当てた。

「うっ、嘘っ!?何で尻尾も無いのだ!?」

 シーカは目に涙を浮かべながら必死にお尻から出ているはずの尻尾を探した。

 しかし、いくら自分のお尻を撫でまわして見ても尻尾が見つかる気配はなかった。


(ど、どうして?...あれ?そういえば昔こんな感じの物語を読んだことがあるような...)

 と、シーカは異世界で流行っていた書物の内容を思い出した。

 書物の内容は『ある日突然事故で亡くなった村人が異世界で勇者に転生して世界を手に入れる』という話だった。


「も、もしかして、私は転生したのかっ!?転生したとしたらわ、私は一体何に転生したのだ!??」

 シーカには腕も脚もある。そして音を発することが出来る。ということは............

 まさか、まさかな......。

 

 嫌な予感がしたシーカは一旦考えるのを止め、周りを見渡した。 初めは午前2時とだけあって真っ暗で周りが良く見えなかったが時間が経つに連れ、目が暗闇に慣れたのか段々と周りが見えるようになってきた。


(...ん?何かいるな?)

 何かの気配を感じたシーカはその気配がした所へ視線を動かした。

 そこには銀色の髪を肩まで下げたパジャマ姿の幼い人間の女の子の姿が見えた。


 えっ?に、人間!?

 人間に殺られたことにより、人間を恐れるようになったシーカは、慌ててその場から離れようとした。

 あまりにも慌てていたのでシーカは床に落ちていた玩具に躓き転んでしまった。

(ヤバイ...殺られる!)

 シーカは咄嗟に少女が居た方向を見た。何故か少女も転んでいた。

 そして気づいた。目の前の少女は鏡に映った自分だということに。


「ッ!?!?」

 触ったときには気がつかなかったが、シーカの自慢の紅髪は銀髪へと変わっていた。


魔王シーカは魔王としての象徴を全て無くし、人間かちくへと転生していた。


 しばらくしてシーカは魔王じぶんの記憶が流れ込む前の記憶を思い出した。いや、思い出したという表現は正しくない。『元からあった記憶を振り返った』というのが正しい表現だろう。

 シーカは少女じぶんの記憶を遡りまくって情報を得ることにした。

 少女わたしの名前はアルネ。カザキリアルネ。昨日5歳の誕生日を迎えた小さな農村の娘。父親は神子で元2級ハンター。母親も父親と同じく神子だったが2年前に亡くなった。現在は、お父さんと二人暮らし。

(...っと、少女の個人情報を調べてる場合じゃない。今はこの世界のことについて調べなくては。)

 

 こうしてシーカは少女アルネの記憶から神子や魔物、ステータスカード、魔物図鑑、ギルド、剣魔育成学校についての知識を手に入れた。

 まあ、少女アルネは5歳だったため、あまり詳しくは知ることが出来なかったが。



 ......う、嘘だろ...。

 だが、少女じぶんの記憶はシーカを驚愕させた。

 彼女シーカは知ってしまったのだ。この世界【アース】の神子は子供でも【アラルシア】の2級冒険者と同等の力を持っていることを。そして、神子は、この国【ニホン】だけで約5000人居ることを。

 シーカの力は魔王なだけあって相当強かった。

 だが、いくら強かったといっても2級冒険者5000人を相手に勝てるか?と聞かれたら『無理』と即答するレベルだ。

(実際1000人にも負けたし......)

 死は怖い。シーカは殺されてかけて初めてその事を知った。

 もうあんな思いはしたくない。死にたくない。

 1度死を経験したシーカは死に対して臆病になっていた。

  力有るものは狙われる。それは魔王をやっていたからこそ分かったことだった。なら、力が無いものは狙われないのか?というと、そうでもない。世の中には自分より強い者とは戦おうとせず自分よりも弱い者ばかりを倒す奴もいる。

 では狙われないためにはどうすればいい?

 簡単だ。普通になればいい。


(私は普通になるっ!なってみせる!)

 と、かつて世界を支配しようとしていた魔王シーカは決意した。

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