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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

死神

作者: 宇野鯨

「ーー線。ーー線は14時40頃 ーー駅での人身事故の影響で上下運転を見合わせています。」



「続いて速報です。ーー駅で14時40頃、人身事故が起こりました。この事故により”高橋ヒロヤ”さん23歳が意識不明の重体。その後病院に運ばれましたが死亡しました。死因は衝突時の脳震盪と思われます。」



「続いてニュースです。ーー駅で14時40頃、人身事故により無職の高橋ヒロヤさん23歳が死亡しました。検察側は事件性がないか調査する見通しです。これによりーー線は上下運転を見合わせています。」



そんな、言葉が聞こえた。

饒舌なアナウンサーたちは冷静な口調で「人が死にました」と言っている。


そんな様子を見て、俺はテレビではないモニターから目を背けた。



「どうした?」



モニターを見ないのを不思議に思ったのか、黒装束を纏った【死神】は聞いた。



「いや、もういい。自分で申し訳なるわこんなの」



俺はそう皮肉を漏らすと、【死神】の問いかけに答える。


俺はついさっき、事故を起こした。

それも電車に轢かれた。

その時のことはよく覚えてない。

ただ、その時が14時40分きっかりだったのはわかる。


そしてもう1つわかることがある。


俺の名は、高橋ヒロヤ。


そう、今アナウンサーたちが口を揃えて言ったように、俺はこの人身事故を起こした張本人だ。



つまり、俺は死んだ。




いいや、まだか。


俺の命は今目の前にいる【死神】が預かっている。


【死神】は俺の命をどうするか?

遊ぶんだよ。



今俺には【死神】と”ゲーム”をしている。

内容はなんだと思う?最悪だぞ?



「まぁ気軽に選べや」



そう言うと【死神】はモニターを置く。

そして、3個のボタンが付いた玩具のようなリモコンを渡される。



「ん?これはなんだ?」



【死神】は狂気に満ちた笑みで答える。



「それはお前が今必要としているモノだぜ」

「30分だけ待ってやる。せいぜい考えな」



そう言うと死神はどこかへ消え去った。



「はぁ……」



俺は渡されたリモコンを呆れた目で見つめる。これは、ただのリモコンではないのは分かっている。


俺は、まず1つ目のリモコンを押す。

すると画面に「親」と不吉な赤い文字で表示される。



「なんでこんなことしなきゃいけねえんだよ……」



俺はため息を漏らす。

今俺はゲームをしている。


ただ、内容は最悪だ。




【 俺は今、人を選んでいる。駅のホームから落ちて電車に轢かれた俺の代わりに殺す奴を選んでいる。俺の代わりに、その時駅のホームから落ちる人間を今、選ばされている。 】



「ーーーーー」



「なんだって?聞こえないわ」



そう考えていると、画面が動き出した。

声が聞こえず、音量を徐々に上げていく。



『ヒロヤは……小さい頃から負けず嫌いで……』



母ちゃんの声だ。

そして、画面にはその母ちゃんが泣き顔を晒して映り込んでいる。



『そんなヒロヤがなんで……』



「母ちゃん……」



母ちゃんは俺が死んだことに未だ納得がいっていなかった。


くしゃくしゃになった泣き顔を見せて、俺が死んだことを全力を持って悼んでいる。


そんな姿に俺の涙腺が緩んでいく。


これだよ。これが死んだ人に対する態度だ。

俺がそんな母に感心していると、次は低く怖い声が聞こえた。親父だ。



『あいつは……バカで親のスネばっかかじってたヤツだったが……最近は勉強するようになってきてたな……』



いつもは威厳のある父。

だが、そんな父の恐ろしく深く刻まれたシワが、この時は寂しく見えた。



「親父……ごめんな…」



俺はまたしても目頭が熱くなってしまい、溢れそうな涙で前が見えない。


そして申し訳ない気持ちと、最後まで親孝行ができなかった自分に腹が立った。



「……親はダメだな」



そう言うと、俺は「親」が映るモニターを切り替える。

次は「2」と書いてあるボタンを押す。


すると今度は、ピンク色の文字で「彼女」と映し出された。


モニターが彼女を映し出すと、彼女は自分の家らしきところのソファに座ってテレビを見ていた。


そして、速報として俺の死亡があっけなく伝えられる。



「えっ……うそでしょ」



こんな俺でも彼女がいた。

それも今年で4年になる。

俺は二年間ニートで、引きこもり。

親父が言う通り、親の金で暮らしていた。


そんな時、彼女と出会った。

始めたあったのはどこだったか?

忘れたが、その時の彼女は、当時の俺の絶望した心を正すように刺激をもらった。


だから俺は、ニートをやめて就職活動に励むようになった。


そのために必死に勉強して、面接を受けて、ついに中小企業の内定をもらった。


その波に乗って思い切って彼女に告白したところ、見事付き合うことになった。


夢のようだった。だって、彼女はこんな俺みたいなブサイクなんて気にかけないほどに美人な人だったからだ。


だが、そんな彼女がなんで俺に振り向いてくれたのか、実は彼女は俺のことを知っていたらしい。

そして、振り向いて欲しくて俺が一策二策講じようとしていたことにも気づいていたらしい。


そんな俺の一途さが好きになったんじゃないかと思う。自分で言うのも何だが。



そんな彼女はモニターの向こうで焦っていた。多分俺に電話をかけたのだろうか、何回も着信をかけている。


そして目には涙が浮かんでいた。



「お前……ありがとな」



そう言うと文句なしにモニターを切り替える。


一番端にある「3」のボタンを押す。

これが最後のボタンだ。


特に気にかけないようにしていたが、この3つあるボタンの中で、他は赤色なのに対し、このボタンだけが青色だった。


よく意味がわからないが俺はその青いボタンを押すことにする。


すると今度は真っ白な字で「犯人」の文字が見えた。



「は、犯人?」



驚愕した。犯人とは誰だ?



モニターには一人称視点になった誰かの視界が映り込んでいる。


その人は駅のホームの後ろに立っている。


ハァハァ、と息切れした声が聞こえる。

男だ。直感的に思う。そして、その男が人を掻き分け、前に進んでいくのも分かった。


駅のホームの近く。

右を見て、左を見て、まるで警戒するようにして前に進む。


そしてその視界の先に見覚えのある背中が見えた。



「あ」



その背中を男は押し、そのすぐ後で電車が通過し、そこで俺は映像を止めた。



「こいつは」



落とされた背中の服の色は黒だった。

そして奇遇にも、俺の今着ている服と全く同じだった。


そして思い出す。

あることに。



「こいつは俺を殺したヤツだ」



俺は殺された。

今思い出した。



確か彼女の家に向かおうと電車を乗り継ぐのに急いでいたな。

そして、ホームの最前列で電車が1秒でも早く来て欲しかったのを覚えている。


ーー実際は、もっと遅く来てほしかったところだったが。



そして、俺が死ぬ前、後ろから何かに押されたんだ。それで確信した。


俺を殺したヤツがいると。



「だが何でだ?」



モニターの奥でまたしても人混みの中に紛れ、犯人が姿をくらましているのが見えた。


誰も知らないとは犯人も中々やるな。


俺は汗だくで足がふらつきながらも懸命に繁華街の狭い道を進んでいく犯人を見る。


犯人は全身真っ黒で、いかにも犯人ぽかった。なんでこんな怪しいヤツを他の奴らはあたかも見てないかのようにしているんだ?


まるで初めからセッティングされたかのように、、、いや、考えすぎか。



「まぁいいや。殺すのはこいつにしよう」



そう確信した。

だって、俺を殺したヤツだ。

殺せるのなら殺したい。


そして今、殺せる。

殺すか。



そんな時、【死神】が現れた。

買い物に行ったのか、右手を見るとコンビニのレジ袋の中にアイスバーが2本入っている。



「ヒロヤ?」



「なんだ?」



「食うか?」



「いや要らん」



気を利かせたつもりだが、今この状況でアイスなんか食わねえよ。


【死神】は眉をひそめると、渡そうとしていたアイスを食べ始める。



ガリガリガリと食べる音が聞こえる。


ーー本当にこいつは【死神】なのか?

明らかに脱力した様子の【死神】を見つめ、俺は疑心暗鬼になる。



【死神】が2つ目のアイスを食べ始めると、俺はようやく口を開く。



「なぁ。決まったぞ」



シャリッと、【死神】の手が止まる。



「ほぅ?」

「そんで、誰だ?何番目だ?」



「あぁ。3番ーー」



ーーいや、待てよ。

まだ決めてはいけない。



「なんだ?3か?」



「いや待ってくれ」



「あと3分な」そう【死神】は言うと、溶け始めているアイスを慎重に食べていく。



俺はその様子を一瞥したのち、残された3分で考察をする。



「なぁ、死神。質問していいか?」


「あぁ、いいぜ」



そのあと、質問をしたのだが、俺は答えを見つけ出すことができなかった。

殺すヤツは決まっているが、何かーー。



「3分経ったぞ」



「分かった」



そして俺の口から飛び出した言葉はーー



「3番の犯人で頼む」



当たり前だろ。だって俺を殺したヤツだ。

俺の人生を狂わせたんだから、当然だ。

当然の報いだ。



【死神】はニィッと口角を上げる。

その言葉をまるで待ち望んでいたかのように異様に歯並びのいい白い歯が訴えかける。



「なぁヒロヤ。俺はなんでお前に生きるチャンスをあげたかわかるか?」


「は?」



【死神】の言っていることはつまり、

こんな平凡な俺をなぜ生かそうとしたのか、

だ。


確かに言える。

俺はどちらかというと社会的貢献が出来ていない人間だったし、今回の事故も他のどの場所でもたくさん起こっていることで、俺を選ぶ必要がないからだ。


そんな俺はなぜ選ばれた?



「俺はなんで選ばれた?」


「さっきも言ったろ?遊びだよ遊び」



ケタケタ笑う【死神】に少し腹が立った。



「じゃあ聞きたい。俺はどうしてそんなに面白い?」



好みのゲームをするのと同じで、暇な時はそれ相応のチョイスをするはずだ。


つまり、他の人間が一般的なゲームだとしたら、俺は何か変わった仕様でもあったのか?


それが退屈する【死神】が今楽しめることの一つだろう。



【死神】は両手を合掌させる。



「なんだそれ」



「復活の儀式さ、お前をあの世界の、あの時の、あの人間を代わりにして、お前が生きるように復活させるんだよ」



「なんだいいヤツじゃねえか」


「ハハハ、礼には及ばん。せいぜい与えられた命を次に活かすんだな」



そういうと景色が暗転した。

真っ暗な世界に、【死神】の姿も見えない。



しばらくすると、何かが見えた。

駅のホームだ。


あの、俺が死んだ駅のホームだ。



「……やったか?……?」



【死神】の言う通りだった。

生き返っている。


だが、あの世とこの世では少し呼吸が違うらしく、少し呼吸が苦しい。

ハァハァと荒れた息が俺の口から漏れる。



「よし、彼女に会いに行くか」



そういうと俺は人混みを掻き分け、前に進む。


度々人とぶつかってしまうほど、この世とあの世では運動が違うらしい。

フラフラと足がおぼつかない。



もうすぐで駅のホームの最前列に出る。

とはいっても、今度普通に死んだら元も子もない。


俺は左右の確認をしっかりとする。

左を見て、右を見て、入念にチェックする。


そして黄色の点字ブロックのすぐ後ろに立つと、足がこれまでの中で1番よろめく。



「うぉっーー」



足首をくじき、線路に落ちそうなくらい危なかった。

駅内アナウンスが線の内側に下がるよう勧告する。


俺はその言葉をしっかり聞き、バランスを後ろに戻そうと何かに掴まる。


しかし、その何かの力が弱く、押し倒してしまう。



俺もバランスを崩したが、その何かは勢いよく線路に飛び出す。



その瞬間、脳裏に焼きついたあの電車がすぐ前を突っ切っていく。



そういや快速電車で止まらなかった。

その電車はその何かを取り巻き、駅を過ぎていった。



「ふぅ、危ないな」



次の電車が俺の乗るやつだ。

そう俺は立ち上がる。



「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ」



女性の悲鳴が聞こえた。

何やら駅が騒がしい。


人混みは何かを見るようにして、線路を見ている。車掌が下がってください、と口々に注意を促している。


そして車掌に下がって、と言われた俺は素直に後ろに下がる。



駅は封鎖したらしい。

しばらく運転見合わせと書いてある。



俺は仕方なく、徒歩で行くことにした。

駅の外に出ると、繁華街の小道が近道だったことを思い出す。


俺はその道を通る。

まだあの世の感覚が残っており、足がフラフラする。



「なんか、おかしい」



それに俺が来ていた服はこんな黒くてローブみたいな服じゃない。

まるで【死神】が着ていた黒装束のようだ。



俺はそう呟きながら、狭い道を進む。


段々に暗くーー、そして寒くなってきていた。次第に足もしっかり歩けるようになり、息も整うようになっていた。


ようやく狭い道を抜け、表へ出る。

その際にアイスが食べたくなり、2本ほど買う。



「なんでアイスを買ったんだろうか」



「てか、こんなとこにコンビニあったか?」



周りを見る。

知らない場所だ。



そして分かったことが、まだ狭い道の中にいたということだ。


視線を戻すとコンビニはなく、だが俺の手にはアイスの入ったレジ袋がある。



なぜか懐かしい匂いもした。

俺は、目をしっかりと瞑り、考えた。


既視感はなんだと、この既視感は。



「おい。久しぶりだな、すっかり有名人になっちまってよ」



聞いたことのある声が聞こえ、その者の名前もわかる。



「死神か?」



「いかにも。お疲れ様。どうだったか?」



「散々だな。ただ駅から繁華街の小さい道にはいっただけだったし」



「まぁそんなとこだよな、出来ることなんて」



そんな【死神】の口調はどこか寂しそうだった。そして小声で「がんばれよ」と言う。



「死神?」



不覚にもその様子のおかしさに心配してしまう。



「なぁヒロヤ。お前はまだ分からないかもしれないが。30分もすれば”ゲーム”の内容がわかる。つまり、お前もこれでゲームマスターだな」



「なんだそれ、語彙が古臭いんだよ」



だが、マスターと言われ、内心嬉しかったりもする。俺は【死神】を見つめる。



「なぁ、死神。お前どっかで会ったか?」



答えは間をおいて返ってくる。



「さぁな。俺はもう死ぬし」



「死ぬ?笑えるな、死神なのに」



「なぁヒロヤ」



【死神】の言う通り、【死神】は死んだ。

だが、その前に遺言として残した【死神】の言葉で俺は何かに目覚める。



「なにも、死を操るっていうことが死神ってわけじゃないんだぜ?」



そして【死神】はその場所に倒れて、しばらくしてから動かなくなった。



「マジで死んだのかよ」



数秒後には【死神】の姿がなく、あったのは死神がつけていた天狗の仮面だった。



「にしても、天狗の仮面って、お前センスないな」



自嘲する。

暗い暗闇の中でただ1人。


少し好奇心があったため、死神がつけていたお面を被る。


すると意外にも暗視ができるそうだ。


俺は部屋の隅にある扉をゆっくりと開ける。

すると、誰かがいた。


相手は見えていないのだろうか、その部屋に置いてあったモニターを凝視している。


そのモニターを俺も見てみる。


すると、その画面に映し出された文字が「犯人」。



「……?」



見覚えのある白い字だった。

そして、懐かしい雰囲気もした。


見覚えのあるホームで、一人称視点の画面だ。



人混みを掻き分け、左右を見渡し、そして

誰かを線路に突き飛ばした。


そして、その時部屋にいたもう1人のが男がようやく口を開く。



「こいつは俺を殺したヤツだ」



俺はその男の顔に見覚えがあり、そして仮面の中で涙する。【死神】の言う通り、ゲームの内容が分かった。


俺は嚙みしめる思いで、絞り出すような声で、その者の名前を口にする。





「ヒロヤ?」

解説(自分の語彙力では表現できないので)


つまり、【死神】の正体は、俺。つまりヒロヤ自身だったのです。以下無限ループって感じですね。


言いたいことは、何も殺すだけが死神じゃない。

死神は「死」の「神」と書くため、死の最上級=輪廻かな、と思っただけです。

拝読ありがとうございました。


(死神自身を殺せばいいかもしれません。ちなみに、駅で間違って落とした際に誰も気付かなかったかというと、それはもう犯人が死神だったからです。死神は普通の人には見えません)

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