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俺の人生今日からニューゲーム  作者: やわか
俺の人生今日からニューゲーム
9/120

    ストーリーモード Lv3

 「ダメです!そっちは今立ち入り禁止です」

 「何でですか!?」


 組合ギルドの倉庫に向かう途中で、避難誘導をしていた組合の制服を着た職員に止められた。


 「盗賊が主に襲っているのは組合の倉庫なんです!冒険家が到着するのを待ってください!」

 「……わかりました。行こう、ソウタ」


 そういうと彼女はきびすを返す。走って家に戻っていく。

 こうしている間にも、盗賊の一部が村の男たちと戦闘をしている。戦闘、といっても相手をしている村人は農具を手にして戦っている。刀のようなものを持っている盗賊相手にどれほど持つかはわからない。弓矢や杖を手にしているのもいる。魔法を使えるのか、光を纏った矢や火の玉が飛び交っている。途中襲い掛かってくる盗賊たちをコトリは軽々と躱している。戦場と化した村の中を走り抜けながら俺は前を走るコトリに声をかける。


 「あきらめるのか?」

 「違うよ」


 そう返事をすると、コトリは自分の家の倉庫に入っていく。少しして、両手に何かを持ったコトリが出てきた。


 「私はこれで戦う」


 手には木の枝のようなものを持っている。なんでも彼女の祖父が旅から持って帰ってきた神樹の枝らしい。

 もう片方の手にはパチンコを手にしている。こちらはカエデに使ってもらうつもりらしい。


 「ごめん。剣の代わりになりそうなものは見つからなかったの」


 彼女がそう言った時、コトリの家の扉が開いて女性が出てくる。


 「これを持ってきな!」


 コトリの母親が放ったものをキャッチすると、ズシリという重みが手に伝わってくる。

 フライパンだ。こんなものでもないよりはましだろう。


 「ありがとうございます!」


 俺は頭を下げて、戦場に向き直る。

 これは訓練とは違う。下手をすれば死ぬかもな。魔法を使えるようになってその日に実践とは鬼畜にもほどがある。


 「行こうぜ、コトリ」


 無理に唇の端を釣り上げて笑顔を作る。


 「せっかく始まった新しい生活で、いきなり住む場所をなくすわけにもいかねぇしな!」


 武器を手にした俺たちはまず初めにカエデの家に向かった。

 家の前では彼女がおろおろとした様子で家の前に立っている。


 「何してる!?家の中に入ってな!」


 農具を手に戦う男がカエデに向かって叫ぶ。


 「で、でも……っ」


 拘泥するカエデにコトリがパチンコを投げ渡す。


 「カエデ、これを使って!」

 「あ、ありがとう、コトリっ」


 カエデがそれを手に持った瞬間後ろの扉が開きカエデの母親が現れる。


 「カエデ、こんなところで何してるの!?早く家の中にっ!」

 「私、みんなと戦うの!」

 「何言ってるのっ?」


 俺たちは言い争いを始めた彼女たちを守るために戦いに参加する。

 襲い掛かる刃をフライパンで受け止め、はじき返す。次の一撃が、出ない。

 盗賊とはいえ相手は人間だ。HPでダメージが肩代わりされるとは言っても痛みは感じるらしいし、平和ボケした俺は……要するに怖気づいていた。


 「ッ……!くそっ」


 パキン、と男が手にしていた農具が破壊される。そこに追い打ちをかけるように盗賊が刀を振り下ろす。


 「強化斬撃スラッシュっ!」


 気付けば俺は飛び出していた。農民を襲う盗賊を、思い切り殴りつける。人を思い切り殴ったのなんて、記憶にある限りでは初めてだ。


 「いってぇな!魔法だあ!?ガキが調子に乗ってんじゃねぇぞ!」


 刀を構えなおす前にフライパンでたたき落とす。


 「すまねぇ、助かった」

 「いえ、ここは任せて、下がっていてください」


 魔法を使う相手に農具で対抗するのにも限度がある。

 いい加減、覚悟を決めないといけない。俺はもう一度フライパンを構え、先ほどの盗賊を見据える。あちらも刀を拾い、こちらを睨んでいる。

 そして、再度魔法を叩き込む。しかし、圧倒的に攻撃力が足りない。HPを削り切れない。


 「火球魔法フレア!」


 横合いから襲い掛かる盗賊に火の玉がぶち当たる。ひるんだところに俺の強化斬撃を食らわせる。


 「強化斬撃!」


 続いて盗賊を斬りつけた俺を背後から飛び越えて顔面へドロップキックを浴びせ、盗賊の意識を刈り取る。コトリはまるでワイヤーでも使っているような身軽さで着地する。

 一安心している間にまた一人の盗賊が右手前方からこちらに向かってくる。コトリの方にももう一人、向かっていくのが見える。


 「きゃあああっ」


 と、背後から叫び声。カエデのものだ。あちらにも盗賊が襲い掛かっているのが見えた。コトリもほかの盗賊の相手をしている。


 「危ないっ」


 母親が彼女に覆いかぶさるように抱きしめる。


 「くっそ……っ!強化斬撃っ!」


 俺はこちらに向かっていた盗賊に向かってハンマー投げのようにフライパンを投げつけ退けると、遠心力を利用してカエデの前に走り出る。

 間一髪、俺の腕が盗賊の振り下ろした刃物を受け止める。

 焼けつくような痛み。刀身が食い込んだ傷口からは赤い光が漏れ出ている。じりじりとHPが削られているのを感じる。

 痛い。痛い痛い痛い。

 叫び出しそうになるのを、歯を食いしばって呑み込んだ。

 痛みに耐えながら背中に向かって語り掛ける。



 「大丈夫ですよ、お母さん。お嬢さんは、カエデは、俺が死んでも守ります」



 カエデが息をのむのがわかる。


 「……もう、いいよ。ソウタ」


 やっと『さん』がとれた。そんなことを思いながら、俺はカエデの発言を言及する。


 「何、言ってんだよ?」

 「だって、私のために、ソウタが苦しむなんて……おかしいよ。私なんかの、ために……っ」


 彼女は続けて声を発する。


 「私、守られて、ばっかりで……っやっぱり、私に、魔王を倒すなんて、無理……」


 こうしている間にもギリギリと刃が腕に食い込んできている。俺は息を吸い込んで、 



 「ふざっけんじゃねぇぞっ!」



 カエデの弱音を断ち切るように思い切り叫んだ。背後にいても、カエデがびくりと震えたのが感じ取れた。


 「カエデ、お前には目標があるんだろっ?どうしても叶えたい夢があるんだろ!親の反対を押し切ってまで成し遂げたいことがっ!」


 カエデは言っていた。両親を、村の人たちを助けるために、冒険家になって魔王を倒す。……倒さなければならない、と。


 「その夢は、そんなに簡単に諦められるようなもんなのかよ!?その程度の覚悟だったのかよ……っ?」

 「ッ……違う……!」

 「だったら!」


 俺は腕に刺さる刃を跳ねける。


 「もっと誇りを持て!私『なんか』なんて言うなよっ!俺が守りたいと思ったお前自身のことをっ、お前の夢のことを!!」


 け反った男の腹に蹴りを食らわせる。


 「ママ、もう、大丈夫だから。……ソウタ、ごめんね」


 カエデは母親から離れると、足元の小石を拾い上げる。


 「私が、間違ってた」


 パチンコに小石を添え、構える。


 「強化射撃(シュート)!」


 顎に魔法がヒットした盗賊は、そのまま地に伏す。

 俺はカエデに笑いかけ、


 「やるじゃねーか」

 「さっすがカエデっ」


 コトリの方も盗賊をKOしてから俺の放ったフライパンを拾い上げてカエデの横に立つ。


 「もちろん、私もカエデを守るからねっ。カエデも、私たちのこと、よろしくね!」

 「うん!」


 笑顔でうなずくと、もう一度小石を拾いパチンコに装填そうてんする。


 「あんま調子に乗んなよ?ガキども」


 見ると、気絶していた盗賊たちが起き上がり始めている。ほかのところを襲っていた盗賊たちも集まってきている。


 「はい、ソウタ」

 「サンキュっ」


投げ渡されたフライパンを構え直す。さっき刃が食い込んでいたはずの腕には傷ひとつない。魔法、か、便利なもんだ。などと感心している暇はない。

 ……これでは、多勢に無勢だ。

 彼らのうちの一人が、向かってくる。


 「おーおー、やっちまえ!」

 「やられんじゃねーぞっ!」


 などと、残った盗賊が野次を飛ばす。

 完全に楽しんでいる。遊ばれている。それがわかっていて、どうすることもできない。

 今はただ、相手がこちらをめていること、それ故に、まとめてかかってこないことに不本意ながら感謝するしかない。


 「くそっ」


 舌打ちを一つ、俺は向かってきた一人の相手を買って出る。


 「おりゃあああっ」


 フライパンに魔法を込めて振り下ろす。

 ガギン、と金属音が響く。


 「ソウタ、伏せてっ」

 カエデの声に、姿勢をかがめると頭の上を光を纏った石が通り過ぎ、盗賊に向かう。

 辛うじてその一撃を防いだが、盗賊の正面ががら空きだ。


 「強化斬撃!」

 「ぐはああっ」


 みぞおちに直撃した一撃に顔をゆがめる。


 「めんなぁあああ!」


 もう一度刀を振りかぶった盗賊だが、頭上から振ってきたコトリのかかと落としに再び(うめ)き声をあげる。

 体制を立て直そうとした彼はしかし、仲間の叫び声に動きを止める。

 声の方を見た盗賊につられて、俺もそちらに目をやると、赤い鎧を身に着けた赤い髪の女性が魔法を放ちながらこちらに歩いてくるのが見えた。一撃を放つたびに数人の盗賊が青白い光の粒へと変じていく。まるで燃えるような彼女の後ろからは、他にも数人の人たちが魔法を放ちながら向かってくる。


 「チィッ!組合の奴らか。引き上げるぞ、目的はもう達成してるんだ、ここに用はねえ!」


 その号令がかかるかかからないかのうちに、俺たちを囲んでいた盗賊たちは散り散りに逃げ出していた。そうしている間にも、逃げ遅れた盗賊たちが光の粒に帰されていく。


 

 そして、全ての盗賊が逃げるか光の粒になったあと、先頭を歩いていた赤い剣士が俺たちのもとにやってきた。近くで見ると彼女の鎧は防具、というには多少心もとない露出度だ。


 「いやあ、遅くなってごめんね」

 「いえ、助けてくれてありがとうございました」


 案外軽いノリで話しかけられたことに少し拍子抜けになりながらも俺は返答した。今の彼女からは先ほどの気迫のようなものは既に感じない。

 真っ赤な女性は少し、うーん、と唸ってからこう述べる。


 「お礼を言うのはこっちの方かな」

 「え……?」

 「だって、君たちが頑張ってくれなかったら、被害はもっと大きくなっていただろうからね」


 だから、ありがとう、と。

 その言葉に俺はなんだかうれしくなって、自然に笑みがこぼれた。

 俺の行動が、誰かの役に立ったことが、無性にうれしかった。


 「コトリちゃんもカエデちゃんも冒険家になったんだね。君は見ない顔だけど、とにかくよろしくね。期待の新人さんたち」


 期待の、なんて言われるとなんだか照れてしまう。


 「何で遅れたんですか?」


 あのな、コトリ、もう少し気を遣えよ。


 「ごめんね。救援要請があって向かってたんだけど、そこには誰もいなくて代わりに大量の魔物にお出迎えされてたんだよ。私たち以外も同じく出払わされてたってわけ」


 つまり、罠ってことか。この村から冒険家を追い出すための。


 「あ、あの」

 「ん?どうしたの?」


 おずおずと声をかけたカエデに、赤髪の女性は問いかける。


 「さっきの盗賊さんたちは、どうなっちゃたんですか?死ん……じゃったん、ですか……?」


 つい先ほどまで自分を襲っていた相手を心配するとは、ずいぶん優しいものだ。とはいえ、俺もその点は多少気になる。流石に、殺されたというのはやり過ぎな感があるような気がする。


 「優しいんだね。大丈夫、死んではないよ。拠点アジトにもどっただけ」

 「どういう仕組みなんですか?」


 コトリの質問に彼女は嫌な顔もせずに答える。


 「冒険者は緊急退避術式リスポーンシステムっていう魔法でHPが0になったら少ししてから近くの安全な街に転移されるんだけど、盗賊はその魔法を改竄して転移場所を変更して、待機時間も無効化してるの」

 「待機時間っていうのは?」


 今度は俺の質問だ。


 「緊急退避術式を使うと、お金と経験、記憶って言ってもいいけど、を少しだけどなくしちゃうから、できれば使いたくない。だから魔法やアイテムで蘇生するための猶予時間が与えられるの。でも、盗賊は改竄した術式から拠点を割り出されるのを防ぐために、戦闘不能になったらすぐに転移されるの」


 盗賊が死んでいないということに安心したらしいカエデはほっと胸をなでおろしている。そのときどこかから声が飛んできた。


 「ルビィさん、こっち手伝ってください!」

 「はーい、今行く!」


 その声に応じて、彼女はこちらに向き直る。どうやら名前はルビィというらしい。


 「じゃあ、仕方ないから私は行くね」

 「あ、はい。忙しいのに、ありがとうございました」


 コトリが頭を下げるのを見送って、ルビィさんは走っていった。『仕方ない』とか言ってたけど、もしかして、仕事をしたくないから俺たちに付き合ってたのか……?

 と、コトリが緊張感もなく大きな欠伸をする。


 「ふああああああ」

 「眠いのか?」

 「わたし、早起きは苦手なんだよ。安心したら急に眠くなってきた」


 まだ夜中だし、早起きとかいうレベルでもないが。確かに、さっきまでは目が冴えていたが、彼女の大欠伸に感化されたのか、俺まで眠くなってきてしまった。

 そんなことを考える俺に、カエデの母親が神妙な顔つきで話しかける。その横には父親らしき男性もいた。盗賊と交戦していたのだろう、手にはくわを持っている。


 「さっきの言葉、信じていいのね?」

 「え?」

 「だから、カエデのこと、死んでも守るって言ったこと、本気なのね?」


 苛立った様子で繰り返す彼女に、俺は慌てて「もちろんです!」と返す。

 カエデは少し驚いた様子で、


 「ママ、もしかして、冒険に行くこと、許してくれるの?」

 「ええ、あなたと、あの子たちの覚悟は見せて見せてもらったもの」


 その言葉に、隣の男性が顔をしかめる。


 「本気なのか、モミジ?」

 「本気よ。私たちのためにこの子が危険を冒すのはもちろんいやだけど、この子たちになら、カエデを任せてもいいって思ったの」

 「……そうか」


 妻の言葉に、カエデの父親は少し寂しそうにつぶやいた。……いや、待てよ。カエデのお母さん、今なんて言った?『私たちのためにこの子が危険を冒す』……?

 カエデも同じことに気付いたらしく、母親に問いかける。


 「ママ、私が魔王を倒したい理由……知ってたの?」

 「当たり前でしょ、娘なんだから。だからこそ、行かせたくなかった。でも、今のあなたなら、きっと、大丈夫よね」


 だって、と。

 彼女は今晩の件で気付かされた事実を述べる。


 

 「今のあなたには心強い仲間がついてるものね」



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