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俺の人生今日からニューゲーム  作者: やわか
俺の人生次は海底をマッピング
76/120

    おや!?モンスターの様子が…! Lv3

 「お迎え……ではなさそうだな」


 こちらをじっと眺める人影は少女のような姿だ。何枚かの青く透けた平面を組み合わせて作ったような髪型に、それと同じような素材で覆われた豊満な胸。腰あたりからスカートのように柔らかそうな触手をまとっている。


 「ソウタ、気を付けて。魔物だよ」


 彼女の言葉を証明するように、近づいてきた少女の傍らにステータスバーが現れる。

 名称は、ミミックオクトパス。

 イカの次はタコかよ……。

 まったく、次から次へ飽きさせないな。


 「少し下がってて」


 二人を守るために前に出ると、後ろで悲鳴が聞こえた。


 「わっ!」

 「きゃ……っ」


 しまった、後ろにもいたのか。

 慌てて戻ろうとするとその行く手を阻むかのように俺の目の前にも影が現れる。

 一瞬、『彼女』を斬ることを躊躇ためらったのがあだとなった。

 その『両手』が俺の顔に伸ばされる。何も知らない子供のように、真っ白な、空っぽな『瞳』が俺の目を覗き込む。

 そして。


 「ソウ……タ」


 「な……っ」


 名前を呼ばれた。そう思った次の瞬間にはとても見覚えのある顔がそこにあった。


 「コトリ……!?」


 俺のよく知る、知らない笑顔で『彼女』が口を開く。



 「どうしたの、ソウタ?」



 首を傾げながら顔を近付けてくる少女。

 その体から、触手が伸びた。


 「……強力斬撃メガスラッシュ


 最後に驚いたような表情と小さな悲鳴を残して、少女は泡と消えた。ミミックオクトパス……こういう事か。背後からゆっくりと迫っていたもう一人も姿を変える前に切り捨てる。


 「ったく。胸糞悪い事させやがって」


 二人の少女に目を向けると、彼女たちは魔物の触手に捕らわれていた。

 絡みつかれたコトリは顔に水風船のような胸を押し付けられ、呪文を唱えることも出来ないでいる。

 カエデの方も馬乗りになるような形で『脚』で胴に抱き付かれ、腰から生える六本の触手に縛られて首筋の辺りを『舌』で舐められていた。


 「ふぅ……んっ」


 「やぁっ……あん……!」


 吸盤の並んだ脚が二人の少女の体を這いまわる。


 「お、おい!大丈夫かっ?」


 その状況に目を奪われていた俺は我に返って口を開く。

 だが、その少しの迷いがあったせいか、俺もすでに複数のタコ少女に囲まれていた。


 「くそっ!」


 次々に纏わり付こうとしてくる少女たちを斬り捨てながら、捕らわれの仲間に視線を向ける。


 「ソ……タぁ……っ」


 顔を赤らめながらカエデが助けを求める声を発する。

 魔力を吸われているのか、コトリもカエデもじわじわとHP、MPが減少している。


 「頼む、退いてくれ!!」


 いくら剣を振るっても敵の数は減るどころか、どんどん集まってくる。コトリにも2、3人のタコ少女がたかっている。


 「う……ん……!あ……っ」


 コトリが苦しそうに喘ぐ。


 「起動ブートっ!」


 低いうなりを上げながら暗い海の底で翼が輝く。


 「退けえええええぇっ!一刀両断バスターブレード!!」


 輝翼(フェアリーウィング)の推進力で身体をひねって円形に剣を振り、水平方向の敵を散らしてから彼女に向かう。

 もう少し、と言うところでコトリの口を塞ぐ魔物の身体がビクンと跳ねる。


 「ッ………………!」


 本能的に身の危険を感じて直前で急停止すると、ミミックオクトパスは少女の身体を離れる。虚ろなその目は他のタコ少女たちと違い、赤い光を放っている。

 これはヤバい。

 そう思った次の瞬間に、目にも止まらぬ速さで触手が動く。伸ばされた腕は周辺にいた仲間を貫くと、自らのにえとする。残ったモンスターたちもこれには流石に散り散りになって逃げだした。


 「二人とも、大丈夫か?」


 ひとまず魔物の魔の手から逃れた二人の少女に声を投げる。

 彼女らは隣にやってきながら答えた。


 「だ、いじょうぶ」

 「それより、あれっ」

 「……ああ。何だって言うんだ?」


 眼前の少女は先ほどまでとは違い、禍々しいオーラを放っている。腰から生える腕は本数を増やし、飴細工のような透き通った髪もグネグネとうごめきながら触手へと形を変えて行く。


 「様子がおかしい。下手に相手しない方がいいかもな」


 ゆっくりと後ずさる中、苦し気にもがく少女は動きを止めて、天を仰ぐように身体を開いて悲痛な叫びを海中に撒き散らした。


 「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 その声は、思わず塞いだ俺たちの耳をつんざき、心を貫いた。

 直感的に、本能的に語りかけるように伝わる。痛いほどにわかる。

 彼女が苦しんでいることが。


 「「……ソウタ」」


 二人も同じことを考えている。それが何だか嬉しくて、場違いながら失笑を漏らす。


 「わかったよ」


 目の前の女の子をまっすぐ睨み付け、


 「待ってろ」


 理由はわからないが、手の届くところでで苦しんでいる少女を放っておくわけにはいかない。

 迷うまでもなく、そうに決まっている。

 なんせ、俺たちは世界を救おうとしてるんだからな。


 「お前ひとりくらい、すぐに助けてやる!」


 二人の少女も笑顔を浮かべた。


 「よぉしっ、やろうっ」

 「絶対…助けるから……!」


 まずは相手の動きを見たいところだが、動きづらい水中ではさっきのように近づかれたら終わり。

 空間移動を使えるコトリはまだしも、カエデからはなるべく引き離しておきたい。俺なら羽を使って水の中でもある程度動ける。

 二人の少女に下がっているように言って、俺は飛行装置を動かして前へ。


 「麻痺付与パラライズアローっ」

 「氷柱射出アイスニードル!!」


 近づく敵を排除しようとする触手を、二人の攻撃が阻むが、麻痺は効いていないようだ。少し厄介かもしれない。何とかタコ少女に肉薄するが、腕が多すぎる。為す術なく触手に捕まってしまう。小さな体の割に力が強い。

 空間移動で助け出され、コトリに説教される。


 「もうっ。いっつも取り敢えず突っ込んでみるのは止めようよっ」

 「悪い。つい、な」


 安心して背中を預けられる仲間がいるからな、と冗談交じりに付け足すと、もう一度「もうっ」と怒られた。


 「あぶ、ないっ」


 背後から伸ばされていた腕をカエデが打ち落とす。


 「ごめんっ。ありがとっ」


 増えた足のせいか、機動力も高くなっている。しかもどういう訳かHPが多い。魔力を吸収したからだろうか。今のところ勝ち目は無いに等しい。

 こちらが次の行動を起こすよりも先に、向こうが動く。

 素早く距離を詰めて触手を伸ばす。それを盾で受けて、左腕を引っ張られながらも剣で魔法を撃つ。俺の攻撃を華麗に躱して追撃。


 「起動っ」


 慌てて左手を離して退しりぞき、奪われた盾を手元に呼び寄せる。


 「ソウタ。私がやるよ」

 「待て!」


 止めるのも聞かず、コトリが我を失った魔物に空間移動で近づく。相手の攻撃より先に魔法を放つ。


 「雷撃射撃エレキバレットっ!」


 苦しむ少女に絡め捕られるのも構わず続けて唱える。


 「雷撃射撃っ。雷撃射撃っ!!」


 そうしている間にもHPとMPが見る間に減っていく。

 あいつ、人にあんなこと言っておいて……っ!


 「ダメ……っ。魔力が……!」

 「コトリ!!」


 カエデが弓を構えて矢を撃ち出す。


 「流星射撃アーカスレイっ……衝撃魔弾アローストライク!」


 わずかに力が緩んだすきにコトリの腕を掴んで救い出す。


 「一閃重撃ブランディッシュっ!」


 叩き込んだ攻撃が魔物の意識を一時的に奪う。


 「あはは。ありがと」

 「何であんな無理したんだよ!!作戦があるなら言え。勝算も何もないならあんなことすんなっ!」


 確かに俺は仲間を信頼することに決めた。でもそれは、心配をしないって事じゃない。

 無謀に、無闇に身を投げうつような事はさせない。


 「……ごめん」


 珍しく憂いを含んだ表情を見せる。


 「あの子が、凄く苦しんでるから」


 そんな彼女の頭に、そっと手をのせる。


 「大丈夫、絶対に助けよう。三人で」

 「ッ……!うんっ」


 顔を上げたコトリは、いつもの笑顔でうなずいた。

 少女は俺の手を掴むと転移して、振り回されるタコ足を回避する。


 「ごめんね。なんか私、あの子の声が聞こえる気がして。苦しみや悲しみが自分の物みたいに思えちゃって。色々見失ってたよ」

 「お前が何を見失っても、俺たちはちゃんとお前を見てるよ」


 カエデとアイコンタクトを取ると、彼女も頷いて肯定を示す。


 「二人とも、ありがとうっ!」


 もう一度、自分自身と周りを見渡して、コトリは助けを求める少女へ視線を移した。

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