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俺の人生今日からニューゲーム  作者: やわか
俺の人生次は海底をマッピング
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四章 おや!?モンスターの様子が…! Lv1

 向かい合う白と黒、一対の巨大烏賊いかがその間に浮かぶ俺を睨み付けている。


 「強力斬撃メガスラッシュっ!」


 白い烏賊が伸ばした触腕をはじいて、反動で一旦渦中から逃れる。追いすがる二体の烏賊から、輝翼フェアリーウィングの推進力を使って後方に下がる。上の方に浮上してきた分、さっきより空間も開けて動きやすくはなったが、今度は遮蔽物が少ない。何とか場所を変えたいが……。

 そう思いながら後退を続けていると、背中が壁に当たるような感覚があった。振り返るが、そこには青い海が広がっているばかり。


 「逃がすと思いましたかな?」


 聞いたことがある声だ。その主は俺たちをここに連れてきた張本人、バシル。

 なんだ、まだいたのか。

 大方、水流で壁を作って俺たちがここから逃げられないようにしているのだろう。この戦場を丸々囲んでいるのだとしたら、結構すごい人なのかもしれない。『壁』の外からこちらを眺めて言葉を紡ぐ。


 「何故ワシを助けたのかは知りませぬが、それで見逃して貰えるなどとは思わないことです」

 「別に、そんなつもりで助けたんじゃ…ねーよ」


 泳ぎながら放たれる四本の触腕をいなしながら言葉を返した。とにかく壁際じゃ余計に不利なだけだ。老人はくつくつと笑うと、「それでは、ご武運を」と言い残して泳いでいった。

 こちらとしては、いちいち気にしていられるほどの余裕はない。

 攻撃の合間を見て2体の間を通り抜けると真ん中へと引き返す。


 『二人は黒い方を頼む!』


 あっちは墨で作った分身のようなものだろう。所詮は不定形の物質。先に向こうを倒した方が楽かもしれない。

 黒い烏賊の背後からコトリとカエデが魔法を撃つと、そちらを振り向きもせずに脚で弾く。構わず攻撃を続けて分身の気を引く。

 俺は二人の邪魔にならないよう高度を下げて本体を海底へおびき寄せた。岩を使って攻撃を防ぎながら応戦する。向こうが片付くまでは俺が囮をしておく。

 コトリが黒い腕を防ぎ、カエデが撃ち抜く。


 「断層防壁ディメンションシールド!」

 「流星射撃アーカスレイ……っ」


 続けてコトリが空間移動テレポートで影との距離を詰めて、その体に杖を突きさす。

 俺の眼前の白い烏賊がコトリたちの方へと向かおうとする。二体のヘイトは共通してるのか?


 「お前の相手はこっちだ!!自己犠牲アーンヘイトっ!」


 本体がそれでこちらに向き直るが、今度は分身が俺の方へと引き寄せられる。やっぱりどちらかのヘイトを貰うと両方から狙われるようだ。


 「ちょっと待ってっ!氷結束縛フリーズっ!」


 烏賊の体に刺さったままの杖から発動された魔法で墨の塊を内側から凍り付かせたところに、カエデのとどめ。


 「……一石多鳥マルチキリング爆裂射撃ダイナマイトショットっ」


 突き立った複数の矢が次々に爆発を起こし、黒い烏賊を散り散りにした。

 見事な連携に、一瞬目の前のことも忘れてつぶやく。


 「さすがだな、二人とも」


 しかし。


 「え、嘘っ!?」


 四散した影の残骸はそのまま小さな烏賊となって動き出す。攻撃して破壊しても形を取り戻しコトリたちを襲っている。


 「あーっもうっ!」

 「こない、でぇ……っ」


 少女たちを翻弄しながら小さな影たちは1か所に集まると、再び元の分身の姿を取り戻した。


 『ソウタっ。あの黒いの、倒しても復活しちゃうっ』

 『多分…本体を倒さないと、駄目』


 なるほど、めんどくさいな。本体だけの相手でも大変なのに、分身に邪魔されながらとなると尚のこと厄介だ。


 『わかった、白いのを先に倒そう。手伝ってくれ!』

 『『了解っ!』』


 引き続き本体の気を引きながら、分身にも自己犠牲を使ってターゲットを奪う。フリーになったコトリとカエデが背後から白い烏賊に魔法を撃つ。その攻撃で優先度が上がったらしく、白い腕が二人の少女に伸びる。


 「空間移動ッ」


 コトリはギリギリでそれから逃れたが、もう一人は触手に絡めとられる。


 「きゃ……!」

 「きゃあっ」


 烏賊の腕を避けたと思われたコトリも影の腕に捕らわれる。


 「カエデっ!」


 俺はとげを食い込ませて縛り上げられる茶髪の少女に向かう。


 「一閃重撃ブランディッシュ!!」


 攻撃を受けた魔物はカエデを放すと一旦遠ざかる。


 「ありがとう、ソウタ」


 もう一度攻撃を仕掛けてきたモンスターの脚を弾きながら、HPを回復するカエデを守っていると、


 「酷いよー、ソウタっ」


 隣にやってきたコトリが不平を述べるのに、彼女が引き連れてきた黒い烏賊からの攻撃も受け流しながら答える。


 「お前は空間移動で抜け出せると思ったから」

 「それにしても見捨てるのに迷いが無さすぎるよっ」


 コトリも振り回される腕を防ぎながら反論する。

 確かに、少し前の俺ならどちらを助けるべきかを悩んで動けなかったかもしれない。

 それでも、今迷わずに動けたのは……。 


 「コトリを信じてるからな」

 「っ……」

 「悪い、一度任せる!」

 「あ、う、うんっ」


 海底に逃れて消費した魔力を補給する。

 上の二人はコトリの転移で包囲を抜けて、白い烏賊の攻撃を受ける断層防壁の後ろからカエデが魔法で攻撃を与える。回り込んできたもう一体が腕を伸ばし、コトリがカエデを連れてさらに遠くへ転移ぶ。

 追いかけてきたところに、今度は逆に単身空間移動で飛び込み、ゼロ距離で戦闘魔法スキルをぶつける。


 「雷撃射撃エレキバレットっ!」


 彼女を捕まえようと動いた腕に、複製された麻痺矢が突き刺さり動きを鈍らせる。さらに再度同じ魔法を食らわせてから、麻痺が切れる前に離脱する。


 「強力斬撃メガスラッシュっ!!」


 カエデの背後から迫っていた黒い腕を、復帰した俺が弾く。


 「ありがとう、代わってくれ!」


 再び俺が前線に立って二人が別地点へ消える。


 『ねえ、ソウタ。気づいてる?』


 視界外の少女から念話が送られてくる。

 俺は前後からの攻撃をいなしながら応じる。


 『……何に?』

 『あの烏賊、さっきよりも動きが鈍ってる』


 確かに、言われてみればそうかもしれない。さっき、烏賊が穴に引きこもっていた時、空間移動で懐に飛び込んだ俺は魔法を発動する前に叩きのめされた。だが、つい今しがたのコトリはしっかり魔法をヒットさせている。


 『それって、分身したせいか?』

 『多分。黒いのと感覚を共有しているからだと思う』

 『感覚を、共有?』


 二対一の状況で防戦一方に回ってはほぼ勝ち目はない。取り敢えず上昇して攻撃から逃れる。追ってくる腕をコトリとカエデの射撃が防いでくれた。


 「自己犠牲!!」


 そちらに向きかけた敵意をつなぎとめる。


 『さっき……分身に後ろから、攻撃した時……見ないで防がれた。それに、片方の……標的になると…別の方にも、狙われる』

 『分身のほうは独立で動いてるんじゃなくて、本体の一部としてあるんだよっ』


 つまり、何か与えられた命令で動いてるわけではなく、手足の延長のようなものと言うことか。人間で言えば腕を四本に増やしているようなイメージだろうか。

 それゆえに一度に処理する情報が増えて動きが鈍くなっている。


 『今なら押し切れると思うんだっ!』


 コトリの言う通り、単純に相手の反応が鈍くなっただけならこちらのチャンスだ。だが、そうじゃない。あれは素早さを犠牲に手数を増やしている。


 『大丈夫。分身を動けなくするから』

 『考えがあるのか?』

 『ソウタ……任せて』


 そういうのなら、任せることにしよう。俺は仲間を信じると決めた。

 一対の烏賊から逃げていた俺はUターンで引き返し、本体へと直行する。


 「強力斬撃っ!」


 俺の背中に黒い烏賊の攻撃が迫る。


 「麻痺付与パラライズアロー

 「空間移動っ!」


 動きの鈍った分身の腕は俺に届くことはなく、続けて白い烏賊の腕を躱しながら剣を叩き込む。

 なるほど。麻痺矢を直接分身の胴体に転移させたのか。本体は魔物だから直接体内に空間移動させることは出来ないが、分身の方は墨の塊。杖を突き刺し内部から凍らせる、なんて芸当ができたのもそのためだ。


 「一刀両断バスターブレード!!」


 もう一体が動きを止めている間に畳みかける。


 「氷柱射撃アイスニードルっ!!」

 「流星射撃……!」


 苦し気にもがきながら、海水を搔き乱して必死に遠ざかる。突然の動きにバランスを崩していると、分身が身の自由を取り戻す。

 かと思うと、怪しく体が揺らめく。


 「何だ……?」


 巨大だった分身は、コトリとカエデに倒された時のようにバラバラに分裂した。

 小さな影はこちらを翻弄するように上下左右から突進してくる。


 「おいおい、マジか?」


 苦笑交じりに呟いたところに声が飛んでくる。


 「大丈夫だよっ!」

 「……コトリ?」

 「私も、ソウタを信じてるからっ」

 「し、信じてる……私も……!」


 思わず笑みを漏らしながら二人に言葉を返す。


 「わかってるよ」


 信頼できる仲間がいることも。

 信頼してくれる仲間がいることも。

 そのことがどれだけ俺の力になっているのかも。

 だから、状況が苦しいときほど笑って挑んでやらないとな。



 「……諦めるつもりなんか、更々さらさらねぇっての!!」



 不敵に口の端を吊り上げて、俺たちの周りを泳ぎまわる小さな影と大きな怪物に意識を向ける。

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