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俺の人生今日からニューゲーム  作者: やわか
俺の人生今日からニューゲーム
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三章 ストーリーモード Lv1

 初期説明チュートリアルを終え、腕時計を見るとすでに12時を回っていたので一度コトリの家に帰って昼ごはんにすることになった。後で気付いたのだけど、機能参照メニュー画面の端にも時間が表示されていた。

 多少、俺の腕時計とずれていたので合わせておいた。

 ところで、コトリの親には俺のことをどう説明するつもりなのだろうか。さすがに『遠くの村の知り合い』では通らないだろう。


 「ただいまーっ」


 コトリは俺が召喚された倉庫の横の建物の扉を開け、そう中に声を放った。


 「ああ、お帰り、コトリ」


 その声を受けて、奥から茶髪に近いくらいの金髪の女性が出てきた。この人がコトリの母親なのだろう。彼女は俺たちのほうを一瞥すると、


 「カエデちゃんも一緒か。あれ、そっちの人は?」


 『そっちの人』とはもちろん俺のことだ。下手なことを言うわけにもいかないので、コトリに任せることにする。


 「その人はソウタ。異世界人なの」

 「へ?異世界人?」


 ……普通にバラしやがった。

 コトリの母親は驚いた様子で質問を重ねる。


 「まさか、本当に異世界からしたの?」

 「そうだよ、私が召喚したの!」


 娘の返答を聞いて母親は頭を抑える。そして俺のほうを見ると、こう言った。


 「ごめんね、うちの娘が迷惑をかけて。悪いけど、私にはどうしようもないの。しばらくの間、付き合ってあげてね」


 そういう彼女の言葉は、異世界人を目の前にしているにしては驚いている様子がうかがえない。


 「あんまり、驚かないんですね」


 不思議に思って、俺はそんなことを口にする。


 「そりゃ、驚いてるよ。日頃から『魔王を倒す』とか『異世界人の力を借りる』とか言っていたけど、まさかほんとにそんなことやるなんて思ってなかったからね」


 驚いている、といっても俺が思っているように異世界人の存在自体に驚いているのではなく、娘のしたことに対して驚いている、といった様子のようだ。魔法やらなんやらが当たり前に存在している世界の住人と、そうでない人間とでは価値観が全く違うらしい。


 「とにかく、立ち話もなんだから上がりな」


 金髪の女性がそう言ったのに従って中に入るコトリに続いてカエデと俺が上がりこんでいく。西洋風の見た目に反して、中は土足厳禁らしい。靴は脱いで上がった。

 リビングに通され、四人掛けのテーブルに腰を掛けた俺たちに、コトリの母親が言った。


 「お腹すいてるでしょ。いまお昼ごはん作ってあげるからちょっと待ってな」

 「あ、あの。わ、たしも、手伝います」


 彼女の申し出に対して、カエデがそう返答して立ち上がる。


 「あら、いいのに。ありがとうね、カエデちゃん」

 「い、いえ」


 二人は台所のほうに引っ込んでいった。カエデは、もしかすると俺とあまり一緒にいたくないのかもしれない。

 そんなことを考えていると、隣に座った少女が「ソウタ」と声をかけてきた。


 「カエデのことなら、あまり気にしないでね」


 どういう意味だろうか、と思っている間に、コトリは続ける。


 「カエデは今日会ったばかりのソウタに慣れてないだけなの。嫌ってるわけじゃないから」


 ああ、そういう意味か。俺がカエデに避けられているのを気にしていることを感じ取ったらしい。

 そういえばコトリはさっきも倉庫でカエデのことを人見知りだと言っていた。まぁ、俺も相当のものだが。


 「ありがとう、でも大丈夫だよ。少しずつ仲良くなっていけば」


 そのためにはこっちからも歩み寄らないとな。コトリは積極的に話しかけてきてくれるから、少しはやりやすいけど、こっちから話しかけるのはやっぱりハードルが高いなぁ。とはいえ、これからともに魔王を倒すために戦う仲間になるわけだし、このままってわけにもいかない。俺も頑張らないと。

 少しして、カエデが大きな皿を持ってリビングに帰ってきた。テーブルに置かれた皿にはおいしそうなサンドイッチが並べられている。


 「はい、お待たせ。異世界人さんの口に合うかわからないけど、召し上がれ」


 そんなセリフとともに、カエデの後ろから同じく皿を持ったコトリの母親が現れた。


 「ありがとうございます」


 全員が席に着いたタイミングで、カエデの母親が両手を合わせる。


 「いただきます」


 それに続いて俺たちも手を合わせて「いただきます」と唱和する。日本語を使っているだけあって、この文化はこちらの世界にもあるらしい。

 俺は近くにあるサンドイッチを口にする。


 「どうだい?」

 「おいしいです」

 「それ、カエデちゃんが作ったんだよ」


 へぇ、と俺が斜め前に座ったカエデのほうに目をやると、彼女は顔を俯かせる。

……これは先が遠そうだ。


 「あ、そうだ。ソウタ、せっかく魔法が使えるようになったんだし、私と友達フレンド登録しない?」

 「なんだ、それ?」

 「ちょっと待って、今からやってみるから」


 そういうとコトリは「機能参照メニュー」と呟いて、何やら顔の前で操作をし始めた。すると、唐突に俺の顔の前に画面が表示される。そこには『コトリ さんから友達申請が届いています。許可しますか?』とあり、その下に『拒否』と『許可』の二つの選択肢が表示されていた。


 「目の前に画面が出てこなかった?その画面の『許可』のほうをタッチすると、友達登録が完了するよ。友達になると、お互いの場所がある程度わかったり、離れていてもお話ができたりするの」


 言われた通り、『許可』を選択する。


 「あ、いいね。私ともしてよ」


 コトリの母親がそう言って同じように操作を始める。そして現れたコマンドに対して俺は『許可』を選択する。


 「登録された友達の情報は機能参照画面の『友達』タグから確認できるよ」


 隣の少女にそういわれて試してみることにする。機能参照画面の上に現れたウィンドウには二人の名前が記されている。コトリのものと、おそらくもう一人は母親のものだろう。コトリの名前が書かれたほうに触れてみると、『個人情報プロフィール』と『遠隔会話テレフォン』という二つの選択肢がポップアップした。


 「『個人情報』っていうほうを選ぶと、さっき見たような私の情報が見られて、『遠隔会話』っていうほうを選ぶと、その場にいなくても私と話せるんだよ」


 コトリはまるで俺の現在している作業が見えているかのようにタイミングよく説明を加える。本当に勘が鋭い奴だ。


 「遠隔会話は『遠隔会話』って唱えた後にIDを続けて言えば直接発動することもできるよ」

 「誰が覚えてるんだよ、そんなの」


 確か、組合ギルド支部で見たコトリのIDは九桁くらいあったと思う。さすがに覚えていられない。


 「え、私はみんなの分覚えてるよ?カエデのもお母さんのも、友達のも」

 「……マジかよ」

 「この子は昔から記憶力が良くてね、なんでもすぐ覚えちゃうのよ」


 意外に勉強できるの、こいつ?そう言えば本から学んだっていう異世界や魔法に関する知識もすらすらと出てきてたしな。……なんとなく悔しい。

 試しに俺はコトリの個人情報を展開してみる。さっき見たコトリの個人情報と同じような画面が現れるが、一か所だけ違う場所があった。


 「あれ、コトリの職業スタイル一般人シティズンから初心者ビギナーに変わってるぞ」

 「ああ、冒険者登録したからね。まだ仮登録だから『初心者』なんだよ」


 なるほど。

 と、コトリの発言に母親が反応する。


 「コトリ、冒険者登録してきたの?」

 「うん」

 「でもあれって保護者の許可が必要なんじゃなかったけ?」

 「そうなんだけど、なんか今回はなくても大丈夫だったみたい」

 「そうなんだ」


 一瞬納得したように思った彼女は、再び口を開く。


 「てことはカエデちゃんもしてきたのかい?確かあそこの両親はカエデちゃんが冒険に行くことにはには反対していたはずだけど」


 ……え?


 俺がコトリの方を見やると、舌を出して「えへへ」と気まずそうに笑った。


 「ダメじゃん」

 「大丈夫だよっ。これからカエデの家に行ってカエデの親を説得するから」


 ……不安しかない。


 「ところで、お母さんはコトリが冒険に行くのには反対してないんですか?」

 「うん。私はね、コトリにはいろんな経験をしてほしいからね。やりたいっていうことはなんでもさせてあげたいと思うし」


 でも、と彼女は娘に視線を投げて、


 「あまり人に迷惑をかけるようなことはしちゃだめだよ」

 「……ごめんなさい」


  *


 昼飯を済ませて、カエデの家に向かう道中でコトリに質問してみる。


 「『魔王を倒す』って言ってたけど、どうしてそこまでして魔王を倒したいんだ?」


 俺を異世界から召び喚し、カエデに冒険者登録をさせ、今からその両親を説得しようとしている。並大抵の執念ではないはずだ。

 そんな思いを込めた質問に、コトリはわずかに表情を曇らせる。

 まずいことを聞いてしまっただろうか?そう思う俺をよそに、彼女はすぐに笑みを取り戻すと俺たちの前に走り出ると振り返り、



 「そりゃ、面白そうだから、に決まってるじゃん」



 そう言う彼女の表情から、俺は『それだけではない』何かを感じ取ったような気がした。

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