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俺の人生今日からニューゲーム  作者: やわか
俺の人生次は海底をマッピング
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    迷路 Lv2

 気が済むまで笑い飛ばした後、虎の男は真剣な顔に戻る。


 「魔王を倒すことに興味など無いが、その意気込みは気に入った。儂を騙して城に潜入したお主らを、本来ならここで斬り捨てるところだが特別に見逃してやろう」

 「はあ、ありがとうございます」


 ……取り敢えず、命拾いしたってことでいいんだろうか。

 話がそこで終わろうとしているのを察して、コトリが声を発する。


 「あれっ、情報はくれないんですか?」

 「すまんな。その方らの話を全て信頼するというのはやはり無理がある。魔王を倒す、それだけの理由で『同盟』が渡航許可を出すというのも、たった三人で魔王を倒すというのもな」


 魔王を倒すことが『それだけの理由』とは。一体『同盟』は何のためにあると思われているんだろうか。

 その部分はともかくとして、発言の後半に対してコトリがムキになった様子で反論する。


 「倒すもんっ!」

 「そうは言ってもな。その方らの語った『目的』を信じないということになれば、目的の不明瞭なやからにこの国での自由を許すことはできない」

 「どうしても……信じて、もらえませんか?」

 「いきなり、たった三人でやってきて『魔王を倒す』なんて突拍子もない事を簡単には信じられんさ」


 そう言われてはこちらとしても言い返す言葉はない。


 「でも、組合ギルドからの渡航許可はもらってるんですよ」


 一つ覚えになってしまうが、これ以外には最早もはや切れるカードが残されていない。しかし、それも敢え無く撥ね退けられる。


 「儂はこの国の長だ。国民を守る責務がある。『同盟』や組合が何を言おうと、その者たちを危険に晒す可能性のある判断は出来んのだ。『同盟』の言いなりになるのは、儂の仕事ではないのでな」


 守るべきものを守るための判断か。

 それなら、


 「俺達が海棲種マーフォルクとの問題を解決したら、信じて貰えませんか?」

 「……なんだと?」


 言葉を受けて、彼は眉間にしわを寄せる。


 「この国を脅かす海棲種。彼らをどうにかすることが出来れば、それは国民を助けることになるはずです」

 「次から次へと、面白いことをいう奴らだ」


 微かに失笑を浮かべ、虎の獣人は言葉を続けた。


 「その方らは言うたはずだ。『個人として』この場に来たと。それなら『同盟』からも組合からも後ろ盾は得られない」

 「確かに、そうですね」


 でも、と。


 「絶対になんとかするよっ」


 コトリ、俺の台詞を取るなよ……。

 だが、俺の言いたいことをバッチリ代弁してくれた。

 俺だって誰かの思い通りに動くのはゴメンだ。人間種組合本部長ヒューマンギルドマスターが何を考えているかはわからないが、まさか俺たちが、『同盟』が目を背けてきた問題を解決するなんて思っていないだろう。

 決めかねているような表情の彼に向けてさらなる言葉を連ねる。


 「『同盟』を見返してやりたくないですか?」


 海洋を支配する海棲種と正面から対立する選択肢は『同盟』にはない。そして今は輸出入なども制限されているため物資は減るばかり。小さな島国であるこのヤマトは掛け値なしに味方であるはずの獣人種組合にすら切り捨てられている。

 別に、そんな境遇に同情したわけじゃない。

 ただ、


 「彼らがどうしようもないと解決を諦めた問題を、『同盟』や組合の力なんか借りずにどうにかしてやりましょうよ」


 俺たちの眼差しに観念したのか、殿様はため息をいて言った。


 「負けたよ。その迷いのない瞳、まるで昔の己を見ているようだ」


 虎の大男はわずかに唇の端を吊り上げる。


 「この国の抱える問題、話して聞かせてやろう」

 「本当ですかっ?」

 「別に、それ自体は隠すような事でもないからな」


 殿様は一拍おいてから話し始めた。


 「その方らも知っての通り、ヤマトを囲む海洋には海棲種が生息している」


 本当のところは何も知らないのだが。


 「奴らは海流を操る能力ちからを持っておって、長きにわたり我が国の海洋船を沈めて積み荷を奪うなどしていた」

 「でも、飛行船を使えば問題ないんじゃないですか?」

 「飛行船を飛ばすために主に使われているのは反重力石アンチグラビティだが、あれは希少なものでな。船の数がそう多くは無いのだ。運用コストも低くは無いしな」


 なるほど。空を飛べる船があろうとも、輸出入経路は海路が主になっているということらしい。

 話の腰を折られた殿様は流れを元の方向に戻す。


 「そして、海棲種は船を沈めるばかりでなくこの国に圧力をかけてきていた」

 「圧力……?」


 コトリがつぶやく。


 「船を沈められたくなければ金を払え、とかですか?」


 俺が質問を投げかけると、彼は肯定する。


 「その通りだ。これまではそれでも何とか成り立っていた。しかし……」

 「組合ギルドの、貿易制限……」

 「うむ。魔王が現れて以来、組合は種族間の交流を制限し、船の出入りを極端に減らしてきた」

 「それで、貿易による収益は減ったのに、海棲種の要求は変わらないからジリ貧だってことですね」


 その言葉には、首を横に振られてしまった。


 「奴らの要求は過激化したのだ」

 「余計に厳しくなったんですか?」

 「海棲種は船一隻の通行に対して一定の通行料を課している。船の減少によって収入が減るのはあちらとて同じだったわけだな」

 「だから……一隻当たりの通行料を、上げてきた……ってことですか?」


 今度の問いには頷きで応える。


 「この国とて安定のためにはある程度金が必要だ。年貢や税金を引き上げるほかない。民には負担をかけることになってしまうがな」


 事の概要を話し終えて、もう一度彼は俺たちに問う。


 「ここまで聞いて、まだ意思は変わらんか?」

 「もちろんですっ」

 「……ふん」


 鼻で笑って、


 「それなら、せいぜいやってみると良い。結果を持って帰ってこれば、その方らの望みも叶うやもしれん」


  *


 「とは言ったものの、どうするんだよ?」


 謁見の後、城を出てから見つけた宿屋の部屋で二人に問う。

 自信満々に答えたは良いものの、具体案が何一つない。


 「だよねー」

 「お前が言い切ったんだぞ」

 「そうなんだけど」

 「海棲種が住んでるのは、海の、中……」


 そう。それが問題だ。

 正確な本拠地が不明なうえに、海流を操ることのできる奴らが海の中に立てこもってるんじゃ、手の出しようもない。

 彼らは要求を伝えるときなど、向こうの用事があるときにしかやってこないと言うしな。

 仮に対話が成立したとしても、どうすればめさせられるのかも思いつかない。


 「まーまー。そのうちいい考えを思いつくよっ」

 「そのうちって……」

 「それより」


 真顔に戻って、コトリは言葉を次ぐ。



 「ソウタってロリコンなの?」



 ………………………………………。


 「はあっ!?」


 思わず叫んでしまった。

 意外なことに、カエデまで向こうの仲間らしい。


 「どう、なの……ソウタ?」

 「いやいや、違うから!」

 「でも……」


 割り込んで、コトリが詰め寄る。


 「でもっ、子供たちに囲まれた時『かわいい』って思ったでしょっ?」

 「女の子を……撫でてたし」

 「他種族を見る機会なんてそうないから、ちょっとテンション上がっただけだし!?」

 「嘘。……竜人種ドラゴニアの時もここに着いた時も、獣人種ワービーストに囲まれた時は…そんな反応じゃなかった」

 「いや、あれは緊迫した場面だったし。それに、ほら、流石におっさん見てテンション上げてたら気持ち悪いだろ?」

 「やっぱり……ロリコン」

 「違うってのっ!!」

 「ソウタ、すぐに手を出すしね」

 「変な言い方をするな!頭撫でてるだけだろ!!」

 「ロリコンだから?」

 「いい子だからだっ!」


 必死に言い返すと、コトリも多少納得したような反応を示してくれた。


 「まあ、確かにあのウサギの子はいい子だったね」

 「そうだろ?」

 「まさか、私たちの話し合いが終わるまでお城の前で待っててくれるなんて」

 「それは、そうだね……」


 証を持たない俺たちが迷わないように、帰り道も一緒に来てくれたのだ。この宿を紹介してくれたのもあの子だった。


 「でもっ」


 まだ文句があるのか。


 「やっぱり小さい女の子に優しいよっ」

 「そんなことはないだろ」

 「あるっ!エミリアちゃんにだって、なんか馴れ馴れしかったしっ」

 「見た目は女の子でも中身は300歳オーバーだからな、言っとくけどっ!」


 こんなことを言ってはエミリアには悪いとは思うが、事実は事実だ。


 「でも、女の子は見た目でしょ?」


 なんてことを言うんだ。仮にも『女の子』の口から発せられていい言葉ではない気がする。


 「アガサ、ちゃん……にも、優しかった」

 「確かにあいつは見た目通りの年齢だと思うけどっ。特別な扱いをしてるつもりはないぞ?」

 「そんなこと……ないもんっ」


 頼むから睨まないでくれ……。


 「「だって私たち、撫でられたこと、ないし」」


 そこでハモるな。


 「そんなこと、言われてもなぁ……」


 彼女たちから目を逸らす。俺は異性が苦手なんだ。

 相手が子供なら多少、虚勢を張ることもできるが……。同じような年の女子を相手に、頭をなでるなんて大それたことを俺ができるわけがない。


 「私たちのことを女の子だなんて思わなくていいんだよっ。仲間なんだしっ」


 仲間でも関係ないだろ、そこは。


 「あと、女の子だと思わなくていいのか」

 「あー、やっぱりそこは可憐な女の子だと思ってっ」

 「可憐なとか、自分で言うな」

 「私…も、女の子……だからねっ」

 「……わかってるよ」


 本当に、どんな時でも緊張感のない奴らだ。

 でも、これでいいんだと思う。これが、俺たちらしさってやつなんだ。

 きっと、世界の命運を左右するって場面でも同じように笑っているに違いない。


  *


 下手に街を動き回るとまた道に迷って帰ってこられなくなりそうなので、その日は宿から出ずにそのまま夜を迎えた。海棲種については、明日から本格的に動き出すつもりでいる。……具体的にどう動き出すのかはまだ決めていないけど。

 と言った旨の話を、遠く離れた電話口の相手に伝えた。


 『観光とかしていく予定はないのかしら?』


 冗談めかして言うコトリの母親に、


 「少なくとも海棲種の問題を何とかしてからですかね。今のままじゃロクに町を歩くこともできないですし」

 『はははっ。それもそっか』


 それにしても、と。


 『種族間の問題にまで首をつこっむなんて、どんどん規模が大きくなってるわね』

 「まあ、最終目標は『魔王を倒して世界を救う』ことですからね」

 『そうだったね。じゃあ、こんなのはまだまだ序の口ってわけかー』

 「……全然想像はつかないですけどね」


 ついこの間まで普通の高校生やってた俺が、今や世界を救おうってんだから、本当にどうなるか予想もできない。


 『どうやって海棲種に会うのかもまだ考えてないんでしょ?』

 「ええ、まあ……」

 『まったく、コトリも相変わらず無鉄砲なんだから』


 返す言葉もないが、魔法越しの彼女の失笑する声はどこか嬉しそうにも聞こえた。

 会話の向こうで少し考えるような間があってから、彼女は唐突に言葉を発した。



 『あっ、そうだっ。こんなのはどうかしらっ?』



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