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俺の人生今日からニューゲーム  作者: やわか
俺の人生次は海底をマッピング
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一章 迷路 Lv1

 コトリの提案で俺たちは街の中心にある城を目指すことにした。

 あんな大きな建物、見失いようもない。

 簡単にたどり着けるだろう、と。

 そう、思って、いたのだが…………。


 「あれ、ここさっきも通らなかった?」


 言い逃れのしようもなく、道に迷っていた。


 「なんかこの町、変な感じだよっ」


 複雑に入り組んだ造りになっているようで、町全体が大きな迷路になっているかのようだ。

 幾度となく袋小路に捕まり、もう何度も見覚えのある景色とお目にかかっている。

 地図を見ながら歩いていても迷うのだから相当なものだ。

 痺れを切らした俺たちは背中の羽を使って空を飛ぶも、城に近づくことは叶わなかった。いよいよ怪しいな、この町は。

 住民たちに道を尋ねれば良いのかもしれないが、彼らはこちらを遠目に見つけてその場を後にしたり、指さしてコソコソ話したりと、冷ややかな態度だ。素直に道を教えてくれるかどうかは怪しいところ。さっき飛んでるところを見られたのも余計に不審がられてる要因かもしれない。

 頼るあてもなく、漫然と町内を散策する。


 「あーもう!ここどこだよっ?」


 もう何度目かの対面なのか、初めての出会いなのかもわからないが、再び突き当たった行き止まりに思わず天を仰ぐ。

 そろそろ諦めてしまおうかというところに、救いの声がかかった。


 「だいじょう、ぶ?」


 声の主は兎の獣人少女。さっき母親に連れていかれた子だ。


 「ちょっと、道に迷っちゃって」


 コトリが答えると、


 「この町は、『証』を持ってない人には歩けないから」

 「それより、俺たちと話してていいのか?またお母さんに怒られるぞ?」


 少女はふるふると首を横に左右に動かす。


 「怒らないよ。だってお母さんいつも言ってるもん。『困ってる人がいたら、助けてあげなさい』って」


 ガラス球のような瞳の少女。俺は少女の言葉にしばし言葉を失った。

 この子の見る世界はきっと美しいのだろう。

 彼女に微笑みかけて、俺は少女の頭に手を乗せる。

 俺と少女の間に割り込んで、声を発したのはカエデだった。


 「それで、さっきの……『証』って、言うのは?」

 「うん。こういうの、なんだけど」


 兎の少女はたもとから小さな光る物を取り出した。


 「これが無いと、道に迷って行きたいところに行けなくなっちゃうの」


 町に何か特殊な魔法でも施されているんだろう。道理で地図を見ても城にたどり着けないはずだ。

 だが、それが分かったところで何の解決にもなりはしない。

 永遠に目的地に着けないことが判明してモチベーションを削がれるだけだ。


 「お兄ちゃんたち、どこに行きたいの?わたしが、道案内してあげるっ」


   *


 親切な女の子に連れられて、やっとのことでくだんの城に到着した。


 「ここだよ」

 「ありがとう、助かったよ」


 彼女にお礼を言って城の内部へと続く門へと向かう。


 「なんだ、お前ら」


 当然の如く、二人組の門番に止められた。

 ま、そりゃそうなるよな。

 コトリが迷わず口を開く。


 「王様に会いたいんだけど」

 「……殿にお目にかかりたいということか?」

 「そうっ、それ。殿様に会わせてっ」


 あっけらかんととんでもないことを言う少女。


 「何を言うか。そんな訳に行くわけないだろう」


 だよな。


 「大体、人間種組合ヒューマンギルドから使者あるなどという連絡は入っていない」

 「でも、ちゃんと許可は取ってるはずだよっ」


 俺が先程と同じように許可証を取り出して門番に見せる。


 「確かに、渡航の許可は出ているらしいな。なら、目的は何だ?」

 「ヤマトの事を教えてほしいのっ」

 「……貴様は、何を言っている?」


 門番は明らかに俺たちを不審に思っている。

 そもそも、人間種がこの国を訪れるということがその長に伝わっていないというのが腑に落ちない。渡航の許可は人間種と獣人種の組合の間で取り交わされたものだ。つまり、獣人種組合が俺たちの事を一般人(シティズンに対して伏せているということになる。そのせいで俺たちは余計に動きづらくなっている。理由はわからないけれど、随分とあちこちから嫌われたものだ。

 コトリの勢いが止まり、短い沈黙のあとにカエデがポツポツと言葉を発する。


 「……ただでさえ、大変なのに…『同盟』のせいで、余計に、大変なんですよね」


 相手は眉を顰める。

 先刻の狼の男が言っていたセリフだ。『()()()()()()()()()()、「同盟」のせいで苦しい生活をしている』と言っていた。

 女の子一人に任せても置けないので、俺も思いつきで口を開く。


 「獣人種の抱える問題について……です」

 「何?」

 「俺達の、目的ですよ」


 ()()()()()()()()()()、と言うことは、『同盟』による貿易制限以外にも獣人種は問題を抱えているということになる。

 その解決のために来たということに出来れば、城に入るくらいは出来るかもしれない。

 カエデが言葉を次いでいく。


 「大変……ですよね。周りを海に囲まれた……こんな島国で、船の行き来を制限されたら……」


 相手がわずかに息を飲む。

 すると、コトリが声を発する。


 「あっ、海棲種マーフォルクっ!」


 なんだそれは。

 と思ったが、門番の二人には明らかに動揺が走る。どうやら図星らしい。


 「『海の中で暮らしている種族である海棲種は、漁船や貿易船を狙って海洋国をおびやかしている』。……このヤマトも例外じゃない、でしょ?」


 俺が理解していないのを察してか、どこかの本から引用したみたいな言い回しで説明を加えながら門番に問うた。


 「……人間種組合は、何を考えているんだ?」


 呟いて押し黙った門番に、コトリが畳み掛ける。



 「ねえ、お殿様に会わせてよっ」



  *


 門番の一人が殿様に謁見の許可を取りに行っている間、少し門から離れて俺たちは言葉を交わす。


 「コトリ、よくわかったな。……マーフォルク、だったか?」

 「うんっ。昔、おじいちゃんから聞いたことがあって。海棲種は、海賊みたいに漁船なんかの船を襲ってるって。本で読んだこともあるしね」


 コトリの祖父も確か冒険家だったか。滅多に家には帰らないと聞いた気がするが。


 とにかく、コトリも相変わらず大した学習能力だと思う。

 ……なんでこんな奴の頭が良いんだか。

 などと世界の不条理を呪っていると、目の前の少女に睨み付けられた。

 話題を変えようと、カエデに水を向ける。


 「それに、カエデもすごかったな」

 「え、私……?」

 「そうだよ。門番にあんなブラフをかけるなんて、思いもしなかったぜ」

 「……ブラフ……?」


 俺の言葉に彼女は目をぱちくりさせる。


 「ホントにっ。門番の人が『周りを海に囲まれた』って言ったときに少し動揺したのを見て海棲種のことも思い出せたもんっ」


 すごいよカエデっ、というコトリの賞賛に俯いて顔を赤らめる。

 人見知りだったはずのカエデが、あんなことをするなんて。俺も負けてはいられない。

 成長していかないとな。

 そこに、帰ってきた門番が声をかけてくる。


 「おい、謁見の許可が出た。案内するからついてこい」


 不機嫌そうな彼に案内されてたどり着いた部屋で、虎の獣人の男が座布団に座して待っていた。

 木材に囲まれた長方形の部屋。

 その部屋の一段高くなったところで胡座あぐらをかく彼が恐らく『殿』なのだろう。


 「失礼します。こやつらが、例の者たちです」

 「わかった。下がっていいぞ」

 「はっ」


 殿様の前に連れてこられた俺たちに、


 「まあ、まずは座るがよい」


 会釈して、用意されていた座布団に腰を下ろす。


 「それで、早速さっそく本題だが」

 「はい」

 「人間種組合は何を考えている?」

 「え?」


 意図をくみ取り切れず聞き返した。さっきの門番もそんな事を口にしていたが。


 「海棲種が海を支配している、というのは何も今に始まったことではない。『同盟』や獣人種組合はそれに目を瞑ってきたはずだ。何せ海棲種あやつらは海中のほぼ全てを牛耳っている。敵に回したくはない。小さな犠牲で多くを守れるのならそれに越したことはないという方針だったはずだ」


 そうだったのか。


 「しかも獣人種組合を通さずに、こんな少人数を城に直接送り込んでくるとは。『同盟』や獣人種組合の意思に反して、人間種がヤマトに恩を売るだけのメリットがあるとは、残念ながら思えない」


 彼は俺たちが、人間種組合によって送り込まれた使者だと思っているようだ。狙い通りではあるが、城に入ることに成功した以上はその設定は逆に邪魔になる。

 殿様の考えをコトリが否定する。


 「ごめんなさい。私達は組合の指示でここにいるんじゃないんです」

 「個人として、城まで押しかけてきたと?何のために?」


 訝しげな表情を浮かべる殿様。


 「情報が欲しいんです」

 「なんの情報だ」


 あまり他種族には言わない方が良いと言われたのを忘れたわけではないが、状況的に言わないわけにはいかなそうだ。


 「魔王を倒すための方法です」



 「……魔王?」



 あまりに予想外だったのだろう。単語をオウム返しにするのが関の山だったらしい。


 「私たち、魔王を倒すんですっ」


 続いたその言葉に、殿様は弾けたように笑い出した。


 「はっはっはっ!その方ら、なかなか面白いではないか」

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