四章 残党狩り Lv1
マテオさんたちの村に到着し、彼らから船を借り受け、消費した分の薬も補充してくれた。
乗船したクルーたちは勝手の違う船に多少の戸惑いがあるようだ。
船長は船の内部を検めて言葉を漏らす。
「この船、飛行石を使用してねーのか」
「飛行石なしで空を飛べるんですか?」
「どうやら風の力だけで飛ぶようにできてるらしい。大したもんだ」
飛竜種や竜人種が空を飛ぶのにも、翼で大きな空気の流れを生み出しているらしい。
「飛ばせそうですか?」
「何、飛行の仕組みが違うだけで操縦系に関してはそこまで大きな違いもなさそうだし、問題はないさ」
行けるな、お前ら!と彼が船員に声をかけると威勢のいい肯定の返事が響いた。
「どうだろうか、問題なく動きそうか?」
背後からマテオさんが声を投げかけてくる。
「俺たちはあまり船を使わないから、動かなくなっている部分もあるかもしれない」
「いや、特に故障なんかもなさそうだ。良い船だぜ、こいつは」
船長の返答に竜人は安心したように笑った。
「それは良かった。では、しばらくの間は自由に使ってくれ」
それだけ言うと彼は船から出て行った。
*
「それじゃあ、行くぜ!」
甲板で船頭が号令をかける。
「離陸!」
その声に応じて巨大な船が声を上げる。
周囲にヘリコプターが離陸するときのような暴風をまき散らしながらゆっくりと地面から離れる。
なびく髪を抑えながらテトラが手を振る。
「お兄さんたち、またおいでねーっ」
船の上から俺たちも手を振り返した。
彼女たちの姿がはっきりと見えなくなってから傍らに立つ仲間たちに話しかける。
「さぁて、やっと目的地に向かえるな」
「そうだねっ。ヤマトに着く前からこんなことになるなんてね」
「このまま……無事に、到着できればいいけど」
不穏なことを口にしないで欲しいんだが。
まぁ、出発早々にバウログやらドラゴンやらに襲撃を受ければそう言いたくなるのもわからなくはないけれど。
んなことを考えていると、
ぐううううううう。
隣の少女の腹が大きな音を立てた。
「あはは。お腹すいたねー」
やっぱり犯人はコトリだったか。
確かにそろそろ昼ご飯の時間ではある。
「そうだな、飯でも食って休憩してくればいい。何かあったらまた呼ぶさ」
「船長さんは行かないの?」
「出航して早々に船頭がいなくなっちまう訳にゃいかねーだろ?俺たちは船を動かすことが仕事だかんな」
「そっかぁ」
「あんたらの仕事は船の用心棒だ。敵がいないときは休んでりゃいいさ」
「それじゃ、お言葉に甘えてっ」
少女は満面の笑みでうなずいた。
「ほら、カエデ、ソウタっ。行こっ」
「ああ、そうだな」
「もう……待って、よう……」
さっさと行ってしまうコトリを二人で追いかけて船内に引っ込む。
「さっ、ご飯にしよっ」
今朝までの船とは違って勝手がわからないが、適当な部屋に入って食事を摂ることにする。
いくつかのテーブルと椅子が並べられた大部屋に入ると先客に迎えられた。
「おう、てめえらか。そっちも休憩か?」
そう言うからには彼もそうなのだろう。部屋では他にも二人の男が椅子に腰かけていた。
「はい。取り合えず敵もいないみたいなので」
「ところで、昼飯にしたいんだが。食料を出してもらえないか?」
言われるまで忘れていた。前の船では食料は船内に保管していたのだが、飛竜種との戦闘後、無事だった食料やその他備品を俺たちが預かってたんだった。
「ああ、はい。わかりました」
彼らが料理をするんだろうか。
そんな疑問を口に出す前に、隣に立つ少女から声が発せられる。
「今からご飯作るの?」
「もしかしてお前らも食べたいのか?」
「うんっ。おなかペコペコー」
奔放な少女に空の男たちも嘆息する。
「自分の食う分くらい自分で作れ。……と言いたいところだが、世話になってるからな。ついでに作ってやるよ」
この大きな部屋は食堂と厨房を兼ねているらしく、部屋の奥には調理台が設置されている。
彼らの指示通りに食材や調理器具を取り出して渡すと、武骨そうな見た目からは想像できないほどの手際で材料を料理に変えていった。
「料理、上手なんですね」
何気なく言った言葉だが、これまた彼らの神経に障ったらしい。
「馬鹿にしてんのか?」
「いえいえっ!」
両手を振って否定すると、比較的温厚そうな男性が代わりに答えてくれた。
「俺たちはバラバラに休憩をとってるからな。食事を作るのも当番制でやってるんだ」
「当番になってるやつはそのあと休憩に入る奴らの分もまとめて作っておいておくのさ」
道理で、この人数で食べるには多いと思った。この量を作るのであれば、俺たちの分なんてほんとについでのついでだな。いや、十分ありがたいけど。だったらすんなり作ってくれても良かったのにと思わなくもない。
完成した料理を、途中でやってきたメンバーも含めてその場の十名ほどでテーブルを囲んで召し上がる。
「これ、おいしいっ」
スープを一口飲んだコトリが声を上げる。
俺の舌はそれほど上等なものではないため細かいことはわからないが、確かに美味いと思う。多分飲食店とかでこれを出して金を取ってもクレームは出ないだろう。
少女の台詞に多少は気分を良くしたのか中心になって調理をしていた男はふん、と鼻を鳴らすと、
「たりめーだ」
一言呟いた。
とはいえ、俺たちと彼らとの間にはそれ以上の会話は無いまま食事は進み、全員の食器が空になった。
昼飯を終えて、自分の使った皿やフォークなんかを洗った後は、船乗りたちの会話に溶け込めず何となく気まずかったので、とりあえずお呼びがかかるまで各自の自室で待機することにした。
護衛としてお呼びがかかるようなことはないに越したことはないけれど。
特にやることもなく何の気なしにベッドに寝転がっているとだんだん眠たくなってきた。
お腹がいっぱいになると睡魔に襲われるのはどの世界でも変わらないらしい。
その睡魔に抗うことなく、しばらく眠りに落ちることにする。
どのくらいそうしていただろうか。
けたたましい警報が俺をたたき起こした。