表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の人生今日からニューゲーム  作者: やわか
俺の人生今日からニューゲーム
6/120

    チュートリアル Lv3

 手続きを終えた職員に案内された部屋で、別の男性職員が応対を引き継いだ。どこかで見たことがあると思ったら、さっき俺の市民登録を担当した職員だった。魔法系の手続きを行う部署の職員なのだろうか。

 その彼が、口を開く。


 「今から術式追加を行いますが、作業が行えるのは一人ずつとなります。どなたからにいたしましょうか?」

 「私から!」


 コトリが真っ先に声を上げる。


 「了解しました。それでは施術に移らせていただきます」

 「願いしまーす」


 男性職員は彼女の後ろに立って手にした杖を構える。今度は市民登録の時のように長い呪文を唱えることはなく一言、


 「術式追加バージョンアップ


 そう詠唱するとコトリが光に包まれる。コトリを含め俺たち三人が思わず声をあげる。


 「あー、びっくりしたー」


 薄れる光の中からコトリが現れる。

 そして順番に俺とカエデが術式追加を受ける。


 「これで施術は終了となります。『スキル』と詠唱して魔法を確認してみてください」


 俺たち三人は言われた通りに呪文を唱える。すると俺の目の前に『戦闘魔法スキル』とタイトルのついた画面が現れる。さっき見た能力値画面よりはいくらか横幅が狭い。

 細長い画面には上詰めで魔法の内容を表していると思われる三つのアイコンとその横に魔法の名前とその説明文と思われる文字列があった。


 「なんでアイコンの表示が暗めになっているんですか?」


 どうやら俺と同じ画面を見ているらしいコトリが、職員に質問する。どういう仕組みかは知らないが、他人の開いている画面を見ることはできないらしい。

 自分の開いた画面を見やると、確かにアイコンはほかの表示に比べて暗い気もする。


 「現在使用できない魔法はそういう表示になります。今は武器を装備していないので、どれも使うことができませんが装備することによって、装備した武器に対応した魔法が一つ使えるようになります」

 「わかりました」

 「それでは、実際に戦闘魔法を使ってみましょう。この建物の外に簡易訓練場がありますので、そちらに向かいます」


 そう言って部屋を出た男性職員についていく。いくつかの角を曲がり、職員が開けたドアを出た先はちょっとした庭くらいの広さの土地だった。


 「使用する武器を取ってきますのでここで少し待っていてください。ちなみに戦闘の職業は何がいいですか?」


 初期職業は剣士系、魔法系、射撃系から選択することがでできます、と付け足したのに対してコトリが返事をする。


 「じゃあ私は魔法でっ」

 「あの、えっと、射撃……でお願いします」


 カエデもおずおずと希望を口にする。


 「俺は……剣士にします」


 別に職種をバラバラにしなければいけないということもないだろうが、俺たち三人はこれから一緒に戦うわけだしパーティー全体のバランスをとったほうがいいだろう。


 「わかりました。それではとって参ります」


 少しして武器らしきものを手にした職員が戻ってきて、俺たちに手渡す。

 俺には木刀、というより木剣だろうか。そんな言葉があるかは知らないが、なんにせよ、木でできた剣だ。

 そしてコトリには、こちらも木製と思われる、指揮棒程度の長さの棒のようなものだ。棒にはびっしりと、文字とも模様ともつかない何かが黒いインクで描かれている。

 最後にカエデに木を組んで作られた輪ゴム銃が渡される。俺たちが渡されたものの中で一番つくりは複雑そうだが、攻撃力もダントツで低そうだ。

 試しに戦闘魔法、とつぶやいて邪魔になるので閉じておいた画面を開いてみる。

 今度は一番上のアイコンは明るく表示されていた。

 魔法名称スペル強化斬撃スラッシュ。説明文によれば剣士職の基本魔法、ということらしい。


 「武器を装備すれば魔法を使用することができるはずです。アイコンが明るく表示されている魔法の名前を、ほかの魔法を使うのと同じ要領で詠唱してみてください」

 「火球魔法フレア!」


 職員が言った直後にコトリが杖を構えて呪文を唱える。構えた杖の先に火の玉が生み出された。


 「おお、すげー」


 感心して思わず声を上げると、コトリは嬉しそうに、えっへへ、と笑いながらこちらに杖を向ける。その杖の先にある火炎球が、俺に向かって飛んできた!

 驚きながらもかろうじてそれをかわした俺は、コトリに不平を投げつける。


 「あっぶねーなっ」

 「あはは、ごめんごめん」

 「だ、大丈夫…ですか?」


 頭に手を当てて笑うコトリ。カエデも遠巻きではあるが心配そうにこちらを見やる。

 そんな様子を見てか、職員が思い出したように、訓練場の端を指さして口を挟んだ。


 「あそこに的を用意してありますので、試し撃ちをする場合はあれを狙ってください」


 ……そういうことは先に言っておいてほしいんだが。確かにそこには丸太に的を描いた簡易的な標的が用意されていた。ほかにもいくつか置いてあるようだ。

 気を取り直して、今度は輪ゴム銃を構えたカエデが的に向かって魔法を放つ。


 「しゅ、強化射撃シュートっ」


 引き金を引くと、光を放つ輪ゴムが的に向かって一直線に飛んで行った。そして、的に輪ゴムが当たると、『50』という数字が現れてすぐにフェードアウトしていった。


 「すごいな、カエデ。一発で当てるなんて」


 そうカエデに声をかけてから、俺は職員に質問をする。


 「さっきの数字は何ですか?」

 「あれは放った攻撃によって、相手に与えたダメージ量、つまり削ったHPを表しているんです」


 俺の質問に答えてから、まぁ、あの的は無尽蔵ともいわれる大地の魔力を使って維持していますから、いくらダメージを与えても壊れることはありませんけどね、そう付け足した。

 続いて俺が近くの的に魔法を放とうとしたところで、後ろからまた火の玉が飛来した。

 俺の横をすり抜けたそれは的に命中し『5』という数字、それとその横に赤色で『15』の表示を残し消えていった。


 「だから!あぶねーだろっ!」

 「てへっ」


 てへっ、じゃねぇっての。ところで。


 「さっきの赤い数字は何ですか?」

 「ダメージ表示には物理ダメージと属性ダメージがあって、あの赤い数字は炎属性ダメージ値を表しているんです。魔導士系の攻撃は物理ダメージより属性ダメージの方が高い傾向があるんです」

 「ありがとうございます」


 説明をしてくれた職員に対して礼を述べる。

 彼によれば属性ダメージの表示はその属性によって色が異なっているらしい。

 そこで思い出したように、


 「次、ソウタの番だよ」


 コトリが俺に魔法を使ってみるように促す。人の邪魔をした人間の言うこととは思えない。

 わかってるっつーの。誰のせいだと思ってんだか。

 俺は的に向けて得物えものを構え魔法を放とうと試みる。


 「強化斬撃!」


 手にした木剣が光を放つが、丸太に向かって振り下ろす前にそれは失せてしまった。


 「魔力の出力が安定していませんね。さっき市民登録をしたばかりだから仕方ありませんけど」


 男性職員は俺にそう言った。ついさっき初めて魔法を使ったばかりなのだからうまくいかないのも仕方がないのかもしれない。

 コトリが、俺の横に立ってアドバイスをよこす。剣を持つ俺の手に、彼女は手を添えて、


 「ほら、もう一度やってみよ。剣に意識を集中して」


 そんなことを言われても、手を握られていたんじゃどうにも集中できない。女の子とここまで接近するのは、記憶にある限りではこれが初めてだし。

 と、いうような俺の心情に気付いていない様子の彼女に促されながら何度かやるうちに、やっと丸太にまともな一撃を入れることができた。


 「やったね。できたじゃん!」

 「ああ」


 いいからさっさと離れてくれ……。


 「戦闘魔法を使用すると、MPが消費されます。消費されたHPやMPは自然に回復もしますが、魔法薬品ポーションを使うことで回復することもできます」


 そういわれて、改めて自分の能力値を見てみると、かなりMPが消費されていた。魔法を使うのも楽じゃないな。


 「今回はMPを回復する魔法薬品を用意しましたので、どうぞ使ってください」


 職員は、どこから取り出したのか、いつの間にか手にしていた小瓶を俺たちに一本ずつ差し出した。


 「ありがとうございます」


 丸底フラスコのような容器に入った半透明の青い液体を、栓をしていたコルクを外して口にする。サイダーのような甘い味が口の中に広がる。

 不味い薬とかじゃなくてよかった。


 「MPは0になっても自然回復や薬で回復できますが、HPは0になるとそういった方法では回復できなくなりますので、ご注意ください」


  *


 次に組合支部の建物を出て、職員に案内された先は、村のはずれだった。『訓練場』と書かれた看板の横を通り抜け、木製の門を開けて職員に続いて中に入る。ちょっとした芝生が広がるそこでは何か、巨大なスライムのようなものが複数跳ね回っていた。かわいらしい目のようなものがついているのが逆に少し不気味にも思える。


 「最後にここで戦闘訓練を受けていただきます」

 「ところで、こいつらは何なんですか?」


 俺は地面を飛び跳ねている水滴を指さして尋ねる。


 「あれは『マナアクア』です。地中の水滴に魔力が宿り、意思を持ったものです。今回はあれを倒してもらいます。この訓練場では魔物の出現する数を調整していますので、増えすぎることもいなくなってしまうこともありません」


 そういいながら彼は顔の前で何やら操作をしている。

 と、唐突に俺の目の前にウィンドウが現れる。少し小さめのそれのタイトルは『依頼クエスト:マナアクアの討伐』であり、内容は『マナアクア30体の討伐』そしてその下には『報酬:500exp』とあり、画面下端には『受諾』と『拒否』のアイコンが表示されている。


 「うわっ、なにこれっ?」


 コトリが声を上げると、職員が説明を始める。


 「それは依頼画面です。冒険家だけが使用できる魔法で、他人が発行した依頼を見ることができるんです。依頼の発行は冒険家でなくても誰でもすることができます。達成した依頼は依頼主に『返還』することで依頼主が設定した報酬を得ることが可能です」


 職員が指示するのに従って、機能参照画面のタグから『依頼』を選択するともう一つ画面が現れる。その画面も画面上端の三つのタグで分けられていた。画面の下のほうには『発行』と書かれたボタンが表示されている。『exp』というのは経験値のことだろう。


 「画面下の『発行』を選択することで依頼を発行することができます。依頼は冒険家一般に対して発行することも可能ですが、今回のように直接特定の冒険家に対して発行することもできるんです」


 そこまで言うと、いったん言葉を切って説明を続ける。


 「一般に対して発行された依頼は依頼画面のタグのうち、『受諾可能』の画面のほうで確認できます」


 今回は私が直接発行した依頼を受諾してください、と言われ、今まで開いた不要な画面を削除してから先ほどの依頼を『受諾』する。すると依頼画面が消えて、代わりに依頼開始クエストスタートと書かれた光の帯が現れてフェードアウトしていった。


 「受諾した依頼は先ほどの依頼確認画面の『遂行中』のタグから確認できます」


 俺は先ほどの依頼内容を確認するべく、依頼確認画面を開く。『遂行中』タグを開くと画面の一番上に『マナアクアの討伐』という、依頼の題が示されていた。それに触れると、もう一枚、『マナアクアの討伐』というタイトルのウィンドウが表示され、その遂行状況が『マナアクア 0/30』と画面に表示されている。報酬の内容もきちんと記載されていた。


 「それではマナアクアの討伐を始めてください。MPやHPが損耗した場合は、魔法薬品を出しますので、私にお申し付けください」


 その言葉を合図に、俺たちは跳ね回る水滴のもとへ向かっていった。

 近づいていくと、マナアクアの上あたりに緑色のバーが現れる。


 「敵に近づくと名前、それから残りHP残量を割合で表したHPバーが出てくるので、倒すときの参考にしてください」


 はい、と答えてから剣を振るう。


 「強化斬撃!」


 後ろから出てきたコトリが炎の魔法でとどめを刺す。魔力を失ったマナアクアはただの水へと戻り、地面に吸い込まれていった。


 「遠距離職があまり前に出るなよ?」


 コトリを咎めていると、


 「ああ、説明を忘れていましたが」


 と、職員が付け足して説明を行う。


 「複数名がダメージを与え対象を倒した場合には、ダメージを与えた全員がその魔物を倒したことになります」

 「んじゃあ、次はカエデが攻撃してくれ」

 「わわ、わかりました」


 動揺しながらも正確に魔法を込めた射撃をマナアクアにヒットさせる。そのあとに俺が強化斬撃を与え、それでも倒れない魔物に――


 「とおっ」


 ――後ろから俺を飛び越えたコトリのドロップキックが直撃する。

 すると、弾けた水滴が着地したコトリに降りかかる。


 「きゃ、冷たいっ」

 「だからあまり前に出るなって……!」


 そういいながらコトリのほうを見ると、水をかぶって服がペットリと体に張り付いた彼女の姿が目に入り、思わず言葉を詰まらせる。


 「ん?どうしたの、ソウタ?」

 「な、なんでも……。とにかく!魔導士は後衛職なんだから、前衛は俺に任せてくれ。さぁ続けよう」


 数体のマナアクアを退治し終わった瞬間、一瞬俺の体が光を放った。


 「おわ、なんだっ?」

 「今のはレベルアップだよ。経験値をある程度ためると、レベルが上がるの。レベルが上がったらHPとMPは全回復するんだよ」


 ついでに質問してみたところ、コトリとカエデのレベルは現在7らしい。普通に生活しているだけでも、わずかながら経験値を得ることはできるらしい。


 

 そんなこんなで、数刻後。



 「それではこれで冒険家についての初期説明チュートリアルを終了します」


 職員からの依頼を達成し、『返還』すると彼はそう述べた。そのころには俺のレベルは10、コトリとカエデは15に達していた。


 「本登録についてはまた後日改めてご連絡いたします。武器は私が倉庫に戻しておきますのでそこにこいておいてください。お疲れ様でした」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ