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俺の人生今日からニューゲーム  作者: やわか
俺の人生の新たなるステージへ
56/120

    Battle Lv3

 「……むにゃ」


 覚醒しつつある意識の中で、そんな声を聴いた。

 それはひどく聞きなれた声で。

 それはどこか安心できる声で。

 それは――。


 「ッ……!こっ、ここ、コトリ!?」


 はっきりと目が覚めて状況を把握する。

 眼前には見知った顔があった。

 綺麗な黒い短髪の少女が俺の隣で眠っていた。

 というか俺を抱き枕にしていた。


 「ん。おはよう、ソウタ……」


 パジャマ姿の少女はぼうっとした様子で目をこする。


 「ああ、おはよう。…って、そうじゃない!とりあえず離れてくれ」

 「まーまー、いいじゃん」


 言って、益々俺を抱きしめる。


 「なに?寝ぼけてんの、お前!?いいから起きろっ!」

 「冷たいなー、ソウタ」


 無理矢理に彼女を引きはがし起き上がらせたことに対して、不満げに頬を膨らませるコトリ。


 「とりあえず、状況を整理しよう」


 まず、ここは俺の部屋で間違いないな?

 見渡す。

 冒険家は特に目に見える荷物を持ち歩かないため、俺の部屋だからと言って何かそれとわかるものもないが。

 他の部屋にも行っていないから違いもわからないし。


 「大丈夫。ここはソウタの部屋だよ」


 なるほど。全然大丈夫じゃないな。

 彼女がそれを言うということは、ここを俺の部屋と認識したうえで侵入したことになる。


 そして、疑問は二つ。


 「どうやって入ってきたんだよ?」


 この部屋にも、かんぬきを通すだけの簡単な造りではあるが一応鍵がついている。

 窓も付いているが、流石さすがに空を飛ぶ飛行船の外壁を伝って来たってことは無いだろう。

 だとすれば、鍵を開けて入ってきたのだろうか。


 「そんなことしないし、できないよ」


 ベッドの上で足を崩して座るコトリが俺の思考に反論する。


 「魔法とか使えば開けれるんじゃないか?」

 「そんな魔法持ってないよ」

 「コトリって詠唱が無くても魔法を使えなかったけ」

 「あれは炎みたいな簡単なものだからだよ。火球魔法フレアみたいな火を生み出す魔法が魔法刻印マジックトークンに刻まれてることもあるし」


 加えて言えば、鍵を開けるような『力』、すなわち『運動エネルギー』や『位置エネルギー』などへの変換は効率が悪く難易度が高いらしい。

 飛行魔法に反重力石が用いられるのもそのためなんだとか。


 「あ、そうか。空間移動テレポートか」


 気付いてしまえば簡単だな、と一人で納得しかけたところでそれも否定される。


 「はずれっ。空間移動じゃ部屋の中には入れないの」

 「そうなのか?」

 「だってそんな事出来たら冒険者は泥棒し放題だよ」


 確かに。


 「だったらなんで?」

 「鍵、かかって無かったから」


 ……かけ忘れてたか。

 結局昨日は夜中の三時くらいまでカエデの練習に付き合ってから帰ってきたため、多少注意力が散漫だったのは認めざるを得ない。

 頭を掻きながら、謝罪する。


 「疑って悪かったよ」

 「わかってくれたならいいよっ」


 いや、良くない。

 俺の疑問はもう一つ残っている。

 ともすれば最初の疑問よりも大事なことだ。


 「で、何しに来たんだよ?」

 「何って、そりゃ……」


 彼女は当然のことように言葉を発する。


 「ソウタと一緒に寝に来たんだよ」


 何一つ納得できる要素が無い。


 「何でだよ!?」

 「だって、ソウタが部屋の鍵を閉めないで寝ちゃうから」


 チャンスだと思って、と。

 ……理由になっていない。


 「ソウタと一緒に寝ると、何か安心できてよく眠れたよ?」

 「……そうかい」


 待て。

 どうして俺が寝る瞬間をこいつが知ってる?

 まさか……。


 「昨日の……」

 「うんっ。見てたよ」


 コトリは視界の両端で人差し指を立てて、


 「最初から、最後まで」


 ……穴が無いなら掘ってでも入りたい。


  *


 昨日同様にクルーたちと卓を囲んでの食事を終え、俺たちは船の上に出ていた。


 「あっ。見てっ!あれ、砂漠じゃないっ?」


 飛行船が航行しているのは乾燥帯の上空。

 一面には彼女の言う通り砂漠が広がっている。

 故郷を出たこともなく、テレビも写真もないこの世界に住んでいる彼女にはこの景色は珍しいものなのだろう。

 俺も実際に砂漠を見たのは初めてだ。

 ついでに言えば砂丘も見たことがない。


 「あれ、何だろう……?」


 別方向からの声に振り向く。

 カエデが船の進行方向を指さしている。

 そちらに目を凝らしてみると、確かに何かが見えた。

 羽の生えた――鳥、だろうか?


 「あれは、飛竜種ドラゴン……!」


 絞り出すように声を発したのはともに甲板かんぱんに出ていた船長だ。


 「ドラゴン?」


 ドラゴンと言えば、俺のいた世界では翼を持った大きなトカゲのようなものの事だ。

 船長の態度の意味は理解できないが、要するにまたモンスターの襲来ってわけか。


 「ダメだよ、ソウタ」

 「え?」


 鎧を装備して戦闘に入ろうとした俺をコトリが止める。

 こうしている間にも遠くに見えていた飛翔大群は飛行船に近づいて来ている。


 「どうしたんだ?来るのが見えてるなら先手を打った方がいいだろう?」


 俺の言葉に応えたのは船長だった。


 「あんた、馬鹿か?」


 その言葉の意図はわからなかったが、何かまずいことを言ったのだけはわかった。

 絶句した俺に、船頭は続ける。


 「人間ごときが飛竜種にかなう訳ねぇだろ。……いや、()()()()()()()が『あれ』を狩れるわけないんだよ」

 「――第二種生物、飛竜種。堅い鱗に強い力を持ってて、様々な魔法、『祝福ブレス』を行使する種族だよ」


 そして彼の言葉を継いだコトリがさらに続ける。


 「第一種生物が第二種生物に魔法戦で勝てる確率は限りなくゼロだよ。それに、飛竜種に敵対することは竜人種ドラゴニアに敵対することとも見なされかねない」

 「竜人種に?」


 彼らも組合ギルドを構成する種族の一つだったはずだ。

 それ以上の情報は知らないが。


 「……ドラゴ、ニアは…始祖竜プロトドラゴンを、信仰しているの。彼らは、自分たちと、飛竜種…以外を始祖竜の、正統な子孫と認めてなくて……特に、原初の姿をほぼ、保っているとされる……飛竜種を大切にしているの」


 カエデのたどたどしい説明の間に随分と間合いを詰められていた。

 彼女らの説明は理解した。

 飛竜種には勝てないことも、そもそも手出しすら危険であるということも。

 なら、どうすればいい?


 「船長、どうするんですか?」


 俺の質問に彼はこう返した。


 「さっき乗組員たちには群れを迂回するように指示を出した。飛竜種は賢明で温厚。こっちから喧嘩を吹っ掛けない限り襲ってはこないはずだ。このままやり過ごす」


 船長の言った通り、船は群れに対してそれを避けるように舵を取る。


 ……が。


 竜の群れはそれに反応するように進路を変える。

 そう。俺たちの船の方へ。


 「くそ、どうなってやがる!?」


 回避は不可能と悟った彼は船員たちに次の指示を出す。

 胸元の装置が船内にいるほかのメンバーにも彼の声を届かせているのだろう。


 「飛竜種の群れが突っ込んでくる!防護術式展開っ!」


 直後、船を衝撃が襲う。

 ドラゴンたちの攻撃だ。

 赤い飛竜たちは口元から火炎の魔法を吐き出してこちらを攻撃してくる。

 無線機から乗務員の声が響く。


 「対象確認!小型炎竜、サラマンドラです!」


 あの火を吹く竜の事だろう。

 乗用車ほどの大きさはあると思うが、あれで小型とは恐ろしいものだ。

 火炎の塊を受けて揺れる船体。


 「わっ」

 「きゃっ……」


 少女たちが小さく悲鳴を上げる。

 船頭が大きな声で叫ぶ。


 「全速前進っ!!このまま群れの中を突っ切れぇええええ!!」


 攻撃の衝撃と急激に速度を増したことによる慣性で俺たちはバランスを崩し倒れこむ。

 飛竜種たちは依然として高速で進む飛行船に追いすがるように攻撃を仕掛けてくる。


 「起動ブートっ」


 俺は船を飛び出す。

 攻撃はできなくても船を守るくらいなら問題はないはずだ。


 「自己犠牲アーンヘイトっ!」


 ある程度の攻撃を自分に誘導し、


 「攻撃分散プロテクション!!」


 盾でもって襲い来る『祝福』の威力を殺す。

 同じく飛び上がってきたコトリも防御魔法を使って船への攻撃を防ぐ。


 「断層防壁ディメンションシールドっ」



 その時、一匹の竜が吐き出した熱線が防護術式をも破って飛行船を貫いた。



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