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俺の人生今日からニューゲーム  作者: やわか
俺の人生の新たなるステージへ
55/120

    Battle Lv2

 飛行船のクルーたちと一緒に船の中で夕食を取る。

 細長いテーブルに着いたのは全部で十数名程度か。船員たちは交代で食事や休憩をすることになっているらしく、ここに居るほかに現在船の舵や周囲警戒を担当するものが数名いるんだとか。


 「この船って、大砲以外の武器は積んでないんですか?」


 俺が尋ねると、船長がその質問を一蹴する。


 「バカ言え。こりゃ、ただの貿易船だぜ?まともな武器なんか乗っけてるわきゃねーだろ」


 まぁ、それはそうなのだろう。

 そうでなければわざわざ俺たちを護衛に付ける理由がないし、先の戦闘で他の装備を使わなかったのはおかしい。


 「この船にあるのは大砲と、操風術式、防御術式くらいだな」

 「防御術式があるんですか?」


 乗組員の一人が言った言葉に質問を返す。


 「船自体に自動防御術式を施しているからHPが残っている間はあらゆる攻撃も致命傷にはならないし、必要なら防護障壁を展開することもできる」


 魔力の消費が大きくなるから滅多に障壁を展開することはないけどな、と付け足す。

 今回のバウログ戦でそれを使用しなかったのも同じ理由からだろう。

 魔力が無くなってしまえばバリアどころか、船を動かすことすら出来なくなってしまうのだから。


 「使わなくて済むのが一番いいんだがな」


 その言葉に俺は「ですね」と、心から口にした。


  *


 その後、割り当てられた自室でいつもの近況報告を行っているところに、ノックの音が鳴った。


 「ソウタ、今大丈夫?」


 俺は慌てて通話の相手に事情を説明する。


 「すみません、コトリです」

 『そうかい。今日はもういいから、相手をしてあげてちょうだい』

 「ありがとうございます。おやすみなさい」

 『うんっ、おやすみー』


 通話を切断して、部屋の外に向けて返事をする。


 「鍵は開いてるから入っていいぞ」


 それを受けて扉が開かれる。


 「今、誰かと話して無かった?」

 「いや、ただの独り言だ」


 一応、コトリの母親からはこのことは秘密にするように頼まれている。

 目の前の少女に嘘が通用しないことは重々承知しているが、正直に話してしまうわけにもいかない。

 彼女はそんな俺の心情を知ってか知らずか、


 「ふうん」


 と、相槌を打つと扉を閉めて部屋の中に入る。

 ベッドに腰かけていた俺の隣に座ると、俺の顔をじっと見つめる。


 「……な、何だよ?」

 「ソウタ」


 気恥ずかしさに目を逸らしそうになった瞬間に、コトリが俺に抱き付いた。


 「ななな、なに、何すんだよっ!?」


 心臓が跳ね上がる。

 頭が真っ白になって、言葉が上手く出てこない。

 目を白黒させる俺を見て、コトリは可笑しそうに笑う。

 しばらくそうした後、彼女は満足そうに体を離す。


 「どうしたんだよ、急に……?」

 「なんだか最近、ソウタが私に冷たいような気がして」

 「そんなつもりはないんだけど」

 「うん、そうみたいだね。今のでそれはなんとなくわかったよ」


 コトリは少し笑顔を潜めて俺から視線を外す。

 その表情は少し不満を含んでいるようにも見えた。


 「でも、何かカエデを頼ることの方が多いんじゃない?」


 彼女がこんな風に思っているとは知らなかった。


 「それは、適材適所ってやつだ」


 納得していない様子のコトリに、俺は言葉を続ける。


 「洞窟でのことは、あのでかい岩の塊には外からのダメージが通りにくかったから状態異常バッドステータスを使ってHPを削ってもらった。さっきのバウログだって、カエデが船にいたからだし、あいつのの方が射程が長くて攻撃範囲も広かったからだ」


 息継ぎをして、再び口を開く。


 「俺はコトリのこともカエデのことも仲間だと思ってるし、互いに助け合えばいいと思ってる。コトリ、お前が教えてくれたことだ」


 そこまで言うと、彼女はクスリと笑みを漏らした。


 「ごめんね、ソウタ。少しイジワル言っちゃった」


 つられて俺も笑う。


 「いいさ。たまにはそう言うのも」

 「ありがと」


 言い残すと、彼女は立ち上がり部屋を出ていく。


 「じゃあねっ。おやすみ」

 「ああ、おやすみ」


 扉が閉まるのを見送って、俺はベッドに身を預けた。

 コトリの距離の近さには慣れてきたと自分では思っていたのだが、いざとなってみると全く反応できなかった。

 いつになったら改善されるのやら。


  *


 だらんと手を広げ、うつらうつらとしているところに、再度ノックの音が聞こえた。

 体を起こして応じる。


 「はい、どうぞ」


 半分ほど開けられた扉の影から姿を覗かせたのは、カエデだ。


 「どうした?」


 中々入ってこようとしない彼女に聞くと、


 「あの、えっと……」


 目を泳がせ、俯くと、小さく呟いた。



 「……付き、合って……くれる?」



 心臓が、止まるかと思った。


  *


 何のことはない。

 彼女がお願いしに来たのは、輝翼フェアリーウィングでの飛行練習に付き合って欲しいということだった。

 いや、そんな事だろうとわかってはいた。

 わかってはいたのだが、一瞬でも勘違いした自分が恥ずかしすぎて、穴があったら入りたいとはまさにこのことだ。


 「……大丈夫?」


 心配そうに顔をのぞき込むカエデから思わず距離を取る。


 「あ、ああ。大丈夫。始めようか」


 なんだかんだ言っても、練習のために甲板にまで出てきた以上引き下がれはしない。


 カエデは俺が何らかのコツをつかんでいるのだと思っているようだが、全くそんなことはない。

 確かに、感覚派で天才肌のコトリならまだしも、俺がべたのだからそう思っても仕方ないかもしれないけれど、俺は俺で自分でもどうして自分が飛べるようになったのか分からない。

 最初はバランスを取るのにずいぶん苦労したが、何回か使っているうちに自然とできるようになっていた。

 今ではほとんど思い通りの飛ぶことが出来る。

 それが世間でいう『コツをつかんだ』ということになるのだろうか?

 どうすればいいのかわからないが、突っ返すわけにもいかないし、できるだけのことはやってみることにした。


 俺はまず、カエデの手を取る。


 「ひゃっ」


 薄暗い中で急に手を触ったのが悪かったのか、カエデは小さく悲鳴を上げる。

 俺としてもさっきの勘違いもあって結構気まずいのだが、怯まずもう片方の手もつかむ。


 「な、なに……?」

 「このまま、俺を支えにしながら浮かんでみてくれ」


 自転車でも水泳でも、最初の練習と言えば大体こんな感じだと思う。


 「わ、かった。……やってみる」


 カエデは飛行装置を起動ブートし、頭一つ分ほど浮かび上がる。

 ここまではカエデもできるようになっている。

 そのまま俺が後ろに下がり、彼女を引っ張る。


 「大丈夫そうか?」

 「う、うん。なんとか」


 数メートル進んだところで声をかける。


 「じゃあ、放すぞ?」

 「……うん」


 ゆっくりと手を放す。

 カエデはそろそろと前進を続ける。


 「いい感じだ、カエデ」


 集中しているのか、返事はない。

 と、いきなり声を上げる。


 「わ、きゃ……っ!?」


 バランスを崩したカエデが勢い余って俺に倒れこむ。

 落ちてくる体を俺も慌てて受け止めに行くが、結果として彼女の胸を顔面で受け止めることになってしまった。

 反射的に俺たちは互いに飛び退く。


 「ご、ごご、ごめん、カエデ。だ、大丈夫か?」

 「うん、えっと、あの、うん。……大丈夫」


 二人とも俯いたまま気まずい沈黙が流れる。

 その沈黙を破ったのはカエデの方だった。


 「ソウタ、もう一回……良いかな?」

 「あ、ああ。もちろん」


 当然、このまま終わるわけにはいかない。

 今晩だけでどこまで上達できるかは分からないが。


 「気が済むまで付き合うよ」


 俺はもう一度、カエデの両手を握った。

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