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俺の人生今日からニューゲーム  作者: やわか
俺の人生で初めてのダンジョン
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終章 つぎのぼうけんへ

 「にしても、またロンディアに戻ることになるとはな」

 「本当にね。全然進んでる感じがしないよー」

 「で、でも。冒険家としては……進歩、してるはず、だよ」


 アステルダまで子供たちと誘拐犯を連れて行き、組合ギルド本部へ遺跡調査の結果を報告すると、誘拐犯を捕まえたこともあって特別報酬を賜り、それによって俺たちのレベルは30に達した。

 そこで、ロンディア支部の各々の師匠から二次転職セカンドステップの案内が入った。

 またちょっとした転職試験を経た後に戦闘魔法スキルを開放するらしい。確かに、冒険家としては間違いなく前に進んでいるはずだ。

 というか、そうでないと困る。

 俺たちの目標は魔王を倒すことなんだからな。

 そういう訳で、流石に村に戻った日は休んで、その翌日にあたる今日、俺たちは今ロンディアへ向かって歩を進めていた。


 「……そう言えば、結局クマのぬいぐるみは見つからなかったな」

 「あ、ほんとだっ」


 なんやかんやあり過ぎてすっかり忘れていた。あの女の子には少し悪いことをしてしまった。


 「きっと……イルザさんたちが、見つけてくれるよ」

 「それもそうか」


 彼ら――『十字軍(仮)』の面々とも別れ際に友達登録を交わして置いたし、後で連絡でもしておこうか。


 「それにしても、せわしなかったねー」


 まったくだ。

 昨日の晩、いつものように遠隔会話テレフォンで連絡してきたコトリの母親にも、今日村に来て明日には出る、と伝えると同じようなことを言っていた。

 村を訪れた日に事件に巻き込まれるなんて思ってもみなかった。

 とは言っても、この世界に来てからというもの、そんなことばかりな気もするが。

 『こちら』に来たその日に村が盗賊に襲われ、ロンディアに着いたと思ったらまた盗賊がその村を襲撃しているし、次の日には土精種ドワーフの集落に迷い込み、やっと出てきたと思ったら今度はダンジョンに誘拐犯と来た。まるで休まる暇がない。

 それでも、こういうのを『充実してる』って言うのかもしれないな。忙しいし、疲れもあるが、嫌じゃない。こんな感覚は久しく感じていなかった。俺は今が、とても楽しい。


 「ソウタ、楽しそうだねっ」


 気付けば、黒髪の少女の笑顔が目の前にあった。


 「うわっ」


 驚いて思わず仰け反ってしまった。遅れてその言葉に返事をする。


 「ああ、楽しいよ。コトリや、カエデのおかげでな」


 カエデにも視線を向けると、彼女は恥ずかしそうに俯いた。


 「え、わ、私……も?」



 「もちろん。俺たちは3人でパーティーだろ?誰が欠けたってこんなに楽しくはないさ」



 「さっすが、ソウタっ。良いこと言うねっ」


 コトリにそう言われて、突然俺まで恥ずかしくなってきてしまった。


 「うるせーよ」

 「照れちゃってー」


 ……こいつには敵わないな、いろんな意味で。

 と、目の前に画面が現れる。脳内にはコール音が響く。

 ルビィさんからの着信だ。

 立ち止まってそれに応答する。



 『ハロー、ソウタくん。大変だったみたいだねー』



 「ルビィさん、何で知ってるんですか……?」

 『組合の情報能力、なめちゃだめだよー?』


 そんなことに組合の力を使わないでもらいたいのだが。


 『私があげた特殊魔力ソウルは役に立った?』


 そんなことを尋ねるルビィさん。


 「はい。……奇跡的に」


 俺はそう答えて、あなたは予言者か何かですか、と呆れ交じりに聞き返した。


 『まさか。今回のは流石にたまたまだよ、たまたま』

 「まぁ、そうなんでしょうけど」


 こんなところでまでルビィさんに助けられちゃいましたね、と呟いた声に反応して彼女は言った。


 『そんなことないよ。今回のことはソウタくんの機転と勇気のおかげなんだから』


 そこまで言われるほどの事を俺がしたのかは分からないけど。

 それでもやっぱり、嬉しかった。


 『コトリちゃんやカエデちゃんも元気してる?』

 「はい」


 いきなり立ち止まって話し出した俺を見て困惑気味のカエデと、事情を察しているのであろうコトリを見やって、通話を音声変換スピーカーモードに切り替える。

 俺の失念のせいで二人は蚊帳かやの外だっただろう。

 通常の遠隔会話では届けられた信号を電気信号に変換し、脳に直で声を認識させているため周りには相手の声が届かないのだ。


 「ルビィさんからだ。『元気にしてるか?』だって」


 二人の少女に問いかけると、


 「はいっ。もちろん元気ですよっ!」

 「わ、わた、し……も、元気、ですっ」


 その返事を聞いて、通話口の向こうの相手は満足そうに言った。


 『そっかそっか。それなら良かった』


 それから続けて、


 『私は近くに居れないけどさ』



 『君たち三人なら何があってもきっと大丈夫!私が保証するよ』



 彼女の根拠のない言葉には、なぜかとても説得力があった。


 「ありがとうございます」


 俺は苦笑しながら礼を言う。

 同じく彼女の声を聴いていた二人も声を発する。


 「ルビィさんが言うなら間違いないですねっ」

 「がんばり、ます」


 ――そう。

 たとえこの先に何が待ち受けていようと。

 俺たちなら乗り越えていける。


 「ソウタっ」

 『ソウタくん、後ろ!』


 同時に鼓膜を揺らした二つの声に、後ろを振り返ると、一匹のおおきな魔獣が今にも飛びかかろうとしているところだった。


 「貫通射撃アローブローっ」


 素早いカエデの判断で、相手が一瞬動きを鈍らせた隙に魔法を発動する。


 「強力斬撃メガスラッシュ!」


 そこにコトリの援護が降り注ぐ。


 「落雷魔法サンダーっ!」

 畳みかけるようにとどめの一撃を放つ。



 「一刀両断バスターブレード!!」



 魔力を使い果たした魔獣は光の粒へと還っていった。


 『お見事!』


 音声だけで決着を察したのか、そんな声が響く。

 俺たちは互いに手を打ち合わせた。


 ――この世界に来て、短い間にたくさんのことがあった。

 初めは戸惑うことや驚くことも多かったが、どれもこれも楽しかった。

 そして今も、こんなに楽しい。

 だから、何があっても大丈夫だ。

 時間はかかるかもしれないけれど、いつか絶対に魔王を倒す。



 この、最強のパーティーで。

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