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俺の人生今日からニューゲーム  作者: やわか
俺の人生で初めてのダンジョン
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    みんなでかえろう Lv3

 何があるかわからないため、慎重に奥の部屋へ進む。各々に魔力の回復も済ませる。

 入口からの細い通路を抜けると、少し開けた場所に出た。部屋の壁にはいくつかの松明が設置されており、炎を湛えている。

 そして予想通り、部屋の中央付近には手足を縛られた子供たちが集められていた。

 誰もが疲れ果てた表情を浮かべ、逃げ出したいという意欲すらも残されていないようだった。


 「……大丈夫か?」


 声をかけながら、ゆっくりと中央に歩いていく。罠がある可能性もあるし、何より、彼らを怖がらせかねない。

 案の定、こちらに気付いた子供たちは驚いた表情を浮かべてこちらの行動をうかがっている。

 こんなところに閉じ込められていて、いきなり現れた俺たちを信用しろという方が難しいだろう。当然だ。

 さっきまでの戦闘の音も聞こえていたかもしれない。その間にも怖い思いをしていたことだろう。


 「安心してっ。私たちは悪い人じゃないの。あなたたちを助けに来たんだ」


 コトリが笑顔で彼らに言葉を投げかける。


 「……本当に?」

 「たす、かるの……?」

 「うんっ。もちろんっ」


 天真爛漫な笑顔に子供たちも幾分か警戒心を解いたようだ。

 と言ってもやはり完全に信じてもらえたわけでもないようで、縄をほどこうと手を伸ばすと反射的に身を引かれてしまった。


 「大丈夫。その人たちは信用できる人たちだよ」


 子供たちの内の一人がそんな発言をした。


 「あ、あの子っ」


 誘拐犯が成り済ましていた少年だ。彼も捕まっていたのか。


 「何度も助けてもらって、ありがとうございます。でも、きっと来てくれるって思ってました」

 「無事でよかったよ。……妹の方も」


 少年の隣には、探していた妹も座っていた。

 彼のおかげで俺たちはやっとある程度の信頼を得たらしい。


 「今、ほどいて……あげるから」


 カエデはそっと彼らに近寄ると、手足の縄を丁寧にほどき始めた。俺とコトリもそれに加わる。


 「みんな、歩けそうか?」


 全員の拘束をほどき終わって、そう声をかけるが、子供たちにはそれほど体力は残されていない様子だった。


 「組合支部に連絡をしてみよう。迎えに来てくれるかもしれない」

 「そうだね」


 俺は文書メールを組合のアステルダ支部に送信する。内容は、遺跡の調査を行った結果、誘拐犯を捕まえて子供たちを保護したから救援をお願いしたい、といった感じだ。

 少ししてから返信があった。


 「お、救援要請承ったそうだ。すぐに人が来ると思うよ」


  *


 「無事だった?あんた達」


 遺跡の外で救援を待っていた俺たちのもとに現れたのは、見知った顔の三人だった。


 「イルザ。どうしてここに?」

 「どうして、って。組合から依頼があったから来たに決まってるでしょ?救援を要請した本人がとぼけたこと言わないでよね」


 どうやらアステルダ支部の寄越した『救援』というのは彼らの事らしい。


 「まさか、三人だけ?」


 俺の質問にイルザは嘆息する。


 「仕方ないでしょ。組合はどこもかしこも人手不足なの」


 これでは結局、子供たちを連れて歩くことになりそうだ。まあ、文句ばかりも言っていられない。親御さんたちも心配していることだろうし、日も暮れてきた。早く村に戻ったほうがいいだろう。


 「イルザ。こいつを『蘇生』してやってくれるか?」


 子供たちを縛っていた縄を使って縛り上げた男を示す。


 「こいつを?誘拐犯でしょ?」

 「そうだよ。こいつをおぶるんなら子供をおんぶした方がいいだろ?」

 「なるほどね。戦線復帰リザレクション


 彼女が唱えると、子攫いを光が包む。


 「ほら、立てるか?」

 「わかってるよ」


 俺が促すと、男は大人しく立ち上がった。万が一逃げ出さないとも限らないから、縄の端は俺が手に持っておく。


 「さ、帰ろっか」


 コトリの号令で、数十人の子供を引き連れた冒険家6人は移動を開始した。その図はさながら幼稚園の遠足か何かだ。


 「ねーねー疲れたー」

 「はいはい、おんぶしてあげるから」

 「いーなぁ、僕もー」

 「ずるいー」

 「わかったわかった。俺がぶってやるよ」

 「俺も背負ってやるぞ」

 「えー、おじちゃんはいーや」

 「おじ……っ」


 わいわいと騒がしい少年少女を、意外と面倒見のいい『十字軍(仮)』のメンバーが相手している。

 俺たちの方は子供の世話には慣れていなくて大変だ。


 「わっえっと、ちょっと待ってっ」


 コトリが子供たちによじ登られている。


 「きゃうんっ」


 盛大にひっくり返った。


 「大丈夫か?」


 言っている間に俺やカエデにも子供がまとわりついてくる。


 「お、重たい」

 「わ……わわあわ……っ」


 カエデが涙目でこちらを見つめてくる。


 「ソウタ、助けて……」


 助けて欲しいのは俺の方だ。


 「ああ、もう、まとわりつくな」


 誘拐犯の男も子供に囲まれている。


 「何で怖がられたりしてないんだよ、お前?」

 「子供達こいつらの前に出るときは変身薬でもっと恐い顔してたからな」


 子供には顔を見られたくなかったってことなんだろうか。


 「ねーねーおじちゃん、どうして縛られてるのー?」

 「そーいうシュミなの?」

 「ちげーよっ!」


 流石の誘拐犯も幼子の言動には処置がないようで、困ったようにため息をいた。


 「良かったな。人気者だぞ」

 「うるせー。俺は誘拐犯だ」

 「そうだな」



 「でも、大事なのは過去よりも未来だろ?」



 「……またそんな楽観的な事を」


 忌々いまいまにつぶやく誘拐犯。


 「お前の過去に何があったかは、俺は知らない。けど、お前が変わりたいと、変えたいと、思うんならさ」


 隣を歩く男に微笑みかける。


 「きっと、変えられる。自分自身も、未来も。過去は変えられなくても、その過去があって良かったって思えるようになる」


 こんな俺だって、少しずつ変わっていけてるんだからな。

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