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俺の人生今日からニューゲーム  作者: やわか
俺の人生で初めてのダンジョン
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四章 みんなでかえろう Lv1

 轟音とともに振り下ろされた右の拳が床を撃つ。

 避け損ねた俺は攻撃の煽りを受けて数メートル転がされる。

 攻撃を受け止めた盾が部屋の端まで弾き飛ばされるのが視界の隅に見えた。


 「ぐっ……あ……っ」


 巨大な体躯の割に、その動きは緩慢とは程遠いものだ。

 続けて怪物はこちらに向かって突進をしてくる。さながら暴走トラックだ。

 からくも突き上げられた角をかわして、動作の隙に魔法を叩き込む。コトリとカエデも同様に魔法をぶつけるが、全くと言っていいほどにHPが減っていない。


 「ウゼェンダヨォオオオオおおおおおおおおおッ!」

 「が……ッ!?」


 振り向きざまに振るわれた剛腕が俺を弾き飛ばし壁にぶち当たる。地面に落ちるより早く、再度放たれた突進が俺を壁に縫い付ける。

 刺股さすまたのように両脇の下から持ち上げられ壁に押し付けられた体勢で、動こうにも身動きが取れない。


 「落雷魔法サンダーっ!」

 「二矢射撃ダブルシュート!」


 二人の仲間が支援攻撃をしてくれるが、怪物は意に介した様子もない。対抗手段もなく、何とか言葉だけを絞り出す。


 「俺たちを殺したって、失敗はなかったことには、ならねぇぞ……っ」

 「ウルセェ……」

 「大体、冒険家は、『死なない』……。知ってるだろ、そのくらいっ?」

 「ウルセェッテ、言ッテンダロォガァあああああああああ!」


 ガンッ、と俺を押し上げる力が大きくなる。


 「ぐぅ……っ」


 自動防御術式がなければ肋骨の五、六本は折れていたところだろう。

 残り二割ほどになっていたHPが、再びじわじわと減少を始める。


 「ソウタっ!」


 コトリが心配そうに声を張り上げる。


 「空間移動テレポート!」


 彼女の手にしていた杖が虚空へと消え、怪物の体のそばに現れた。

 おそらく、杖を体内に転移させようとしたが、自動防御術式か何かの干渉を受けて失敗したというところだろうか。

 駄目だったか、というような表情を見せて、今度は自分自身を転移させる。誘拐犯の背中に瞬間移動した彼女は、空中を舞う杖をキャッチして、怪物の頭部、俺の方へ上ってきた。

 コトリが手を差し伸べる。


 「ソウタ!空間移動っ!」


 その手に触れた次の瞬間には、俺は地面に転がっていた。

 急いで方向を確認して怪物を視界に捉えると、俺を助け出してくれた少女が、肩から飛び降りているところだった。


 「ありがとう、助かった」


 魔法薬品ポーションでHPを回復しながら、二人の仲間に礼を述べる。


 「シネェエエええええッ」


 俺の姿を見つけた誘拐犯は迷いなく突っ込んでくる。


 「貫通射撃アローブロー!」


 カエデが怪物の目に向けて矢を放つが、腕の一振りでそれを払い除ける。


 「強力斬撃メガスラッシュっ!」


 地面を斬りつけ間一髪のところで肉の塊をやり過ごした。


 「だから、『死なない』って言ってんだろ!?」


 自動防御術式がある限り、冒険家は『死なない』。HPが無くなれば近くの安全な場所に転移されるだけだ。


 「ワカッテルサ。デモナァ、オ前等ヲココデ倒シテガキ共ヲ連レダス時間サエ稼ゲレバソレデ十分ナンダヨ」


 なるほど、確かにそうなのかもしれない。俺たちがここで倒されたあと、組合ギルドに協力を仰ぐにしても、俺たちだけでここに向かうにしてもこいつがここから逃げるだけの時間には足るんだろう。

 なら、今ここでこいつを俺たちが倒すしかない。


 「そう簡単に行くかな?」

 「ンダトォ……?」

 「失敗を無かったことにしてしまおう、なんて奴に、俺たちは負けねぇよ」

 「チョォシニ乗ルナァアアあああ!」


 振りかぶった拳が地面に叩きつけられる。

 バックステップで攻撃から逃れながらコトリに疑問を飛ばす。


 「あいつ、一体何なんだ!?」


 それだけの質問で彼女は的確な返答をしてくれる。


 「魔力の塊だよっ。変身薬で姿を変えるときに足りない魔力を魔力結晶マジカライトで補っているんだと思うっ」


 変身薬にマジカライト。『少年』が怪物になる前にカバンから取り出していたものがそうなのだろう。

 それが分かったところで今すぐに対応策は思いつかないが、正体が分かっていれば糸口も見えてくるかもしれない。


 「ありがとう!」


 左腕が体の内方向で横なぎに振るわれる。もう一度後ろに下がってそれを避けると、今度は前進しながら反動を利用して逆方向に腕を動かす。

 下がってばかりもいられないので、前方に転がってそれを回避すると、攻勢に移る。


 「一刀両断バスターブレード!」


 剣を振るおうとした俺の体が、もう片方の腕によって持ち上げられる。


 「く……っ」


 体を締め付ける圧倒的な力に、意識を持っていかれそうになる。思わず剣を取り落としてしまう。


 「ロクニ失敗モシタコトナイ奴ガ、エラソウニ語ッテンジャネェヨ……ッ」


 返す言葉もない。失敗することを恐れて何もしてこなかった。

 でも。


 「俺は失敗を無かったことになんか、しない。いいや。本当はお前も、わかってんだろ……?無かった、ことになんかできない」

 「マダダ……。邪魔スルオ前等ヲ消セバ、マダ、ヤリナオセル」

 「無理だよ」


 放った言葉に、体がへし折られそうな力がかかる。


 「ッ……!?失敗……は、過去は……無かったことにはならない。人生は、リセットなんか出来ないんだよ。失敗したからやり直すなんて、そんな……虫のいいこと、できないんだよ」


 俺は、何もしてこなかった。失敗するのが怖かった。だから、いつでも誰かの言うとおりに動いて、そこに自分の意思なんかなかった。人生を浪費してきた。

 そんな『失敗』を。


 「失敗は成功には変わらない。だから、失敗と向き合って、何度でもリトライするしかねぇだろう?過去の失敗を抹消しようとするより、未来の成功を作り出すしかできないだろっ!?」


 認めて、見つめて、『次』につなげる。失敗を殺すのではなく、活かして、生きていく。そう決めた。

 ギチギチと、体がきしむ音が聞こえる。


 「モウ、俺ニ、再挑戦ノ機会ナンテ残ッテネェンダヨォオオオおおおおおおっ」

 「ああああああああっ!?」


 コトリとカエデの放つ魔法も、まるでハエでも払うかのように片手で弾いて退ける。

 ……何か、手は……っ?

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