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俺の人生今日からニューゲーム  作者: やわか
俺の人生で初めてのダンジョン
42/120

    ショートカット Lv3

 コトリは何かの痕跡をたどったのか、彼女に導かれた先には隙間のできた壁があった。


 「よくわかったな。こんなとこに抜け道があるなんて」

 「まーね。さっきの路地裏から村の出口は結構遠いし、わざわざ私たちに声をかけて行ったってことは近くに別の出口があるのかと思ったんだ」


 大したもんだ。てっきりさっきの男の子の匂いでも残ってたのかと思った。


 「言っとくけど、私はちゃんと人間だからねっ!?」

 「わ、わかってるよ」


 心、読まれてるんじゃないだろうな……?


 「とにかく、追いかけ……よう、か」

 「そうだな。急ごう」


 四つん這いになってやっと通り抜けられる隙間をくぐって村の外へ出る。

 立ち上がって見渡すと、森が広がっていた。辺りをうろついていた魔物がこちらの姿に気付いて近づいてくる。こんな近くに魔物がいて壁の穴から侵入してこないのは、『結界』とやらが確かに機能しているからだろう。


 「今は、相手してる場合じゃないな」


 向かってくる魔物たちを牽制けんせいしながら先を急ぐ。コトリの予想通りあそこの穴から男の子が抜けだしたのなら、まだそう遠くへは行っていないはずだ。


 「おーい、どこ行ったー?」

 「一人じゃ危ないよーっ」


 少年を呼びながら森を走る。


 「……すけて……っ」


 聞こえてきた微かな声に、俺たちは足を止める。

 耳を澄ます。



 「――――誰かっ!助けてっ!!」



 「この声っ」

 「ああ!」


 さっきの男の子の物だ。


 「行こう……っ!」


 声の聞こえてきた方に足を向ける。そうしている間にも、森の中には少年の声が響いている。

 先頭を走っている俺を、コトリが呼び止める。


 「待ってっ!」


 反応の遅れた俺の腕を、彼女は引き寄せる。

 ――ひゅんっ。

 鼻の先を巨大な斧の刃のようなものが通過した。

 地面に突き立ったそれは、結ばれた綱に引かれて再び木の上に戻っていく。


 「と、トラップ……ッ?」


 寿命が軽く二十年は縮まった気分だ。


 「もしかして、この近く……なんじゃない、かな?」

 「近くって、何が?」


 カエデの呟きに、俺は聞き返す。


 「遺跡の、裏口だよ」


 言われて、確かに思い当たった。村人たちから聞いた遺跡の最深部への裏道。行ったことのあるという人はいなかったが、彼らの話によれば位置はこのあたりのはずだ。このあたりが遺跡の最奥まで通じているのなら罠が仕掛けてあるのも当然と言えるかもしれない。


 「……たすけて……っ」


 その声が思考から俺を引き戻す。

 彼も、この森にある罠に引っかかっているのかもしれない。それが今さっき俺が当たりかけたようなものだとしたらただ事ではない。


 「コトリ」

 「まっかせてっ!」


 皆まで言う前にコトリは先を進み始める。


 「こっちっ」


 彼女は迷いなく木と木の間をすり抜けていく。遅れないように後を追いかける。どうやって罠の存在を察知してるんだか。

 不思議ではあるが、今はコトリの直感に頼って進むのが一番手っ取り早い。

 そうして木の隙間を縫いながらクネクネと走っていると、森の合間に助けを求める少年の姿が見えた。木の檻に捕らわれた少年が、涙を流しながら必死に声を上げている。


 「今行くからっ」


 彼を見つけるとコトリは一直線に檻へと走っていった。

 俺が声を上げる間もなく、


 「きゅんっ!」


 ミニスカートの少女が木から真っ逆さまに釣り上げられる。

 ……まったく、何やってんだか。


 「助けて―っ」


 少しは隠せよ。

 目を逸らしながら、カエデに「助けてやってくれ」と声をかける。


 「行くよ……っ。貫通射撃アローブローっ」


 カエデの矢によって縄を切ってもらったのであろうコトリがふわりと着地したのが見えた。猫みたいなやつだな。


 「コトリ、慎重にな」

 「うん、ごめんごめん」


 引っかかったのがあんな罠だったから良かったが、もっと危ないものだったら大変だった。


 「おねぇちゃん!来てくれたんだねっ!」


 俺たちに気付いた捕らわれの少年が嬉しそうに声を発する。


 「待ってて。すぐに行くからね」


 応えて、今度はきちんと罠を避けながら檻へと近寄っていく。

 そこまで行きついた俺たちは、少年に檻の向こうに寄っているように指示を出してから魔法で檻を破壊した。


 「うわああんっ!怖かったよぉおおおー!」


 解放された彼は泣き叫びながら、一番近くにいたコトリに抱きついた。


 「よーしよし。大丈夫だからねー」


 少年をあやして落ち着かせたコトリは、顔を上げると俺の方に視線を投げて、


 「ソウタ、この子」

 「ああ、わかってる」


 それ以上は言わなくても良い、と彼女を見返して目で訴える。


 「ところで、どうしてここに?」


 俺が尋ねると、彼はこう答えた。


 「妹が、ぬいぐるみが遺跡にあるかもしれないって言ってたのを思い出して」


 いや、流石にそこにはないだろう。


 「よくここまで入ってこられたね。罠もいっぱいあったのに」


 続いたコトリの質問にも緩慢かんまんなく言葉を返す。


 「村に昔から伝わってる童歌わらべうたがあるんだ。それがここのトラップをい潜るための暗号になってる。それを頼りにここまで来たんだけど、ちょっと失敗しちゃって。おねぇちゃん達が来てくれて本当に良かった」

 「とりあえず、先に進もうか。この先に妹がいるんだろ?」

 「うん、そのはずだよ。……来てくれるの?」


 先を促した俺に、少年が聞き返す。


 「何かあってからじゃ遅い。先を急ごう」


 その先もまた、コトリの先導で遺跡を目指す。少年は俺たちがトラップの位置を把握していることが不思議なようだったが、理由を聞かれても『直感』としか答えようがない。童歌の暗号も参考にした方がより安全で確実ではあるのかもしれないが、あいにく俺たちには時間がない。今は彼女についていくのが最前手だという判断だ。

 結局、一度も罠に見舞われることなく先ほど俺たちが調査に入った遺跡の側面らしき壁が見えてきた。歩いて近づいていくと、少年が声を上げる。


 「気を付けて!」


 俺たち三人は不意のことに「え?」と声を上げたが、直後にコトリも何かに気付いたらしく、一足先に立ち止まる。


 「危ないっ」


 少し前に出た俺とカエデもその声に反応して後ずさる。

 ふっ、と空気が重くなる。

 すると、一瞬前まで俺たちがいた場所に、空中より巨大な二足歩行の何かが現れた。

 重い音と衝撃を生み出しながら地に足を付けたそれは俺たちを認めると大きな咆哮を上げる。

 深い緑色の体に、俺の倍はあろうかという身長。その体を支えるに十分な筋肉をまとった肉体。


 「番人ってわけか」


 戦闘態勢に入る三人。少年には下がっているように指示を出す。


 「遺跡の中にはどうやって入ればいい!?」


 後ろに向けて声を放つ。帰ってきたのは少年の声だ。


 「その魔物を倒せば遺跡の奥へと続く道が開くはずっ!」

 「わかった!」


 前方に見える壁には扉のようなものは見えないが、きっとあのでかぶつを倒せばどこかから入れるようになるのだろう。


 「そいつが姿勢を低くしたら、僕の方に向きを誘導して!」


 ……なるほど。


 「了解!」


 言葉を返しながら俺は緑の巨人に走り寄る。ゆっくりと振り下ろされる拳を躱して魔法を叩き込む。続けてコトリとカエデの援護射撃もヒットする。

 怪物は一歩、二歩と距離をとると、飛び上がりボディプレスを仕掛けてくる。


 「あっぶね」


 ギリギリのところでそれを回避すると、起き上がり際にもう一度魔法を食らわせる。

 起き上がると、次はぐっと姿勢を低くする。

 ――来たな。

 思って、俺は化け物の気を引いて、体の向きを少年がいる方向に調節する。


 「避けろよ!」

 「うんっ」


 巨人が地面を蹴ると同時に俺と少年は横に転がる。まっすぐに突進した番人は俺たちがやってきた森に突っ込んだ。少年がいた場所のすぐ後ろの木の間を通ったとき、降り注いだ複数の刃がモンスターの体を貫く。

 勢いのままに直進していくそれに、次々と脅威が襲い掛かる。刃に炎、電撃、落石。それらは確実にトロールにダメージを与え、魔力へと還した。

 俺たちの体が淡く光る。レベルが上がったらしい。直接的にとどめを刺さなくても、ダメージを与えてさえいれば報酬は貰えるのか。意外と適当な判定だな。

 そんなことを考えていると、今度は遺跡の側面の一部がゴゴゴ、とスライドして開いた。あれが最深部につながっているのだろう。


 「さぁ、行こうか」

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