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俺の人生今日からニューゲーム  作者: やわか
俺の人生で初めてのダンジョン
41/120

    ショートカット Lv2 

 「あれ、図分速かったわね。遺跡の調査は終わったの?」


 そもそも、一番に向かう予定だった村にたどり着いた俺たちを迎えたのはイルザ達『十字軍(仮)』だった。


 「なんか面倒になったから途中でやめて帰ってきた」

 「面倒になった、って……。あんた達何しに行ったのよ?」


 聖職者(プリ―スト)の少女は呆れたように言った。


 「俺たちのレベルじゃ、あそこの魔物は多少骨が折れるんだ」

 「それに、宝箱も空っぽだし」


 俺たちの言い訳に、


 「確かにお前らのレベルには合ってないない。間違った判断ではないさ」

 「得る物のない冒険ってのもテンション上がんねーしな」


 侍と銃士が同意を示した。

 二人の男に対して、フィンランド系女子が食ってかかる。


 「得る物ならお金とか経験値とかあるじゃない」

 「そう言うのじゃないんだよなぁ。お前はロマンってのが分かってねー」

 「ロマン?またそんな下らないこと言って」

 「下らないとはなんだよ」

 「くだらないでしょっ?」

 「まぁ、二人とも落ち着け」

 「「あんた(おまえ)黙ってて(黙ってろ)!」」


 またしても仲良く言い争いを始めた彼らを放って、俺たちは俺たちで村の中を見て回ることにする。何か有益な情報が見つかるかもしれないし。

 めんどくさくなって帰ってきたとは言っても、コトリが言っていた『何か』をそのままにしておいて良いとも思えないし、遺跡最深部までの近道とか誰か知らないかな。

 適当に村を歩いていると、一人の少年が声をかけてきた。


 「あ、あの!」


 振り返ると、相手は先ほど助けた男の子だった。近くに妹の姿は見えない。おつかいか何かだろうか。


 「ん、どうした?」


 妹が見つかってほっとしているものかと思っていたが、彼の顔は今にも泣きだしそうだ。


 「さっきは、ありがとうございました。妹のことも見つけてくれたみたいで」

 「俺たちは大したことは」


 律儀に頭を下げる少年にそんな言葉を返す。

 少年は続けて、


 「でも、また、いなくなってしまったんです」


 驚きというか、呆れというか。俺たちは言葉を失ってしまった。


 「また、ぬいぐるみを……探しに?」

 「たぶん、そうだと思います」


 イルザ達が妹を少年の家まで送り届けた後、母親に叱られたこともあり、しばらくは家で大人しくしていたらしい。しかし、ふと目を離したすきに再び姿を消していたのだとか。


 「ずっと、見てたつもりっ、だったんですけど……。また何か、あったら……っ」


 少年は涙がこぼれそうになるのを必死にこらえながら、言葉をこぼす。


 「だから、お願いです」


 妹のために、兄は口を動かす。



 「もう一度、力を、貸してくれませんか?」



 「当たり前だろ?」

 「まっかせてっ」

 「絶対に、また、見つけて……くるから」


 間髪を入れない俺たちの返事に、虚を食ったような表情を浮かべる少年だったが、「本当にいいんですか?」などとは尋ねない。


 「ありがとうございます!」


 深々と頭を下げると、さっそく、妹がいなくなった時の状況を説明し始めた。


 「いなくなったのに気づいたのはついさっきです。まだ、そんなに遠くには行ってないと思うんですけど」

 「なら、まずは村の人たちに話を聞こう。誰か、姿を見た人がいるかもしれない」

 「わかりました。僕も僕で探してみます」


 言うなり、少年は駆け出して行ってしまった。止める間もなく、路地裏へ消えていく。


 「とりあえず、俺たちも始めるか」

 「そうだね」

 「……うん」


 まずは近場の八百屋に行ってみる。


 「すみません」

 「はいはい。何をお求めかな?」


 言いながら、店の奥から姿を見せた女性は俺たちを見ると、怪訝そうな表情を見せた。


 「あんたら、見ない顔だね」

 「私たち、お客さんじゃなくて。女の子を探してるんですっ」


 俺に代わってコトリが言葉を紡ぐ。


 「女の子を?」


 八百屋の主はいよいよ不審そうにこちらを睨みつけたが、俺が来ている制服を、正確にはその胸元の組合章ギルドバッジを見つけて、


 「冒険家なのかい?」

 「そうなんです。組合の依頼でこの近くの遺跡を調査に来たんですけど」

 「妹さんを、探してほしい、って……依頼を、受けて」

 「このくらいの子なんですけど、クマのぬいぐるみを探してるみたいで」


 その説明を受けて、疑うような視線を向けていた店主もいくらか警戒心を和らげたらしい。


 「ああ、ウーシィちゃんね。勝手にいなくなって困ってるってあの子のお母さんも言ってたわ。またいなくなっちゃったの?」


 と、話に乗ってきた。


 「そうなんですっ。見かけませんでした?」

 「見たよ。あっちの方に一人で歩いてったね。最近誘拐が多いって聞くから心配だね」

 「誘拐、ですか……?」

 「なんでも、子供が次々に居なくなってるって話みたいだけど」


 よそ者に対してやけに警戒心をあらわにしていたのはそういった理由があったのかもしれない。

 確かに、少し気になる話ではある。村の周りの間も物のこともあるし、ますます心配だ。


 「ありがとうございました」


 八百屋の主人に礼を言うと、そのあともいくつかの店を回ったり、道行く人を捕まえては話を聞いた。

 初めに声をかけた八百屋の近くではいくつかの目撃証言を得ることが出来たものの、それ以外の場所では一切の痕跡をたどることが出来なかった。

 巷で噂になっているという『誘拐』については、それ以上の収穫があった。

 ここ一、二週間の話らしいのだが、今までですでに6人もの子供がさらわれているというのだ。クマのぬいぐるみを探している少女、ウーシィもそいつに攫われたのでなければいいのだが。

 そして、得られた情報はそれだけではなかった。

 俺たちが遺跡の調査に来たということを説明したからだろうか。求められた質問に答えられなかった、という負い目のようなものもあったのかもしれないが。

 女の子のことはわからないけど、と言って遺跡の最奥部に通じる抜け道があるという話を数人から聞き出せた。その誰もが実際に行ったことはなく、本当に存在するのかも半信半疑な感じもあったが。昔から伝わる伝承の類なのかもしれない。ただ、そんな話が語り継がれるくらいなのだから、全く根拠のない話でもないだろう。探してみる価値はあるとは思う。


 「ウーシィちゃん、見つからないねー」


 ただ、現在遺跡の調査よりも優先順位が上なのは少女の発見だ。裏道を探すのはそのあとだな。


 「困ったな。八百屋の近くにしか目撃者がいないってことは、あのあたりにいるってことなんだと思ったんだけど」

 「どこに、行っちゃったのかな……?」


 初めに探索を始めた辺りは既に、店の中や路地裏、ゴミ箱の中に至るまで隅々探したが、目的の少女もクマのぬいぐるみも見つからなかった。コトリに関しては民家の扉をノックして中の住人にまで話を聞いていたのだから、大した行動力だ。……たまにそれがあだになることもあるのだけど。


 「まさか、攫われちゃった……とかじゃ、ないよね?」


 ぬいぐるみの少女を探して入った路地裏で、カエデが心配そうに最悪の事態を口にする。

 今はそうでないことを祈って探すしかない。


 「あれ、どうしたの?もしかして、妹ちゃん見つかった?」


 コトリの視線の先を見やると、小さな男の子が彼女のパーカーの裾を引っ張っていた。肩からは大きなショルダーバッグをぶら下げている。


 「あ、ううん。そうじゃ、ないんだけど」

 「何か、あったの?」


 しゃがんで少年に目の高さを合わせると、コトリはその顔を神妙な表情でじっとのぞき込む。


 「ぐ……っ」


 思わず距離をとった少年。コトリはわずかに首をかしげる。


 「な、なんでもないよ。ただ、少し村の外も探してみようかと思って」

 「危ないよ。私たちも一緒に行く」

 「大丈夫!おねぇちゃん達は村の中を探してて。すぐに戻るから」


 言うと彼はかけて行った。


 「ちょっと待ってっ」


 男の子を追いかけて路地を出るが、もうそこに彼の姿は無かった。


 「子供はすばしっこいな」

 「大丈夫、かな……?」


 コトリに視線を投げると、


 「村の外に行ってみよう」

 「そうだな。それがいい」


 ……少し気になることもあるしな。

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