二章 ショートカット Lv1
謎の第六感を働かせる少女に導かれて、俺たちは問題の遺跡までやってきた。
サイズ的に言えばデパートくらいだろうか。見た目は全然似ても似つかないけど。
石を削って作られた柱や装飾、石のブロックを積み上げて作られた外壁などはまさに遺跡、という印象を受けた。一面に刻まれた紋章は、俺たちの侵入を拒んでいるかのようだ。
「やっぱり。……ここからよくわからないけど、感じるの」
俺たちの仲間は霊感少女だったのか。
くだらないことを考えていると、黒髪のその少女からじろりと睨まれてしまった。本当に思考を読まれているんじゃないかとたまに思う。
「ま、とりあえず入ってみるか」
俺が口にすると、ここに来て怖気づいたらしいカエデがおずおずと口を開いた。
「あ、危ないんじゃ、ないかな……。だっ……て、さっき、だって……」
確かにさっきも狼たちに囲まれて危うく死ぬところだった。
実際のところ、緊急離脱術式がきちんと作動しているのなら、冒険家が冒険の中で死ぬことはないはずではあるのだが。どっちにしろ、あまり気分の良いものでもないだろう。自分が『死ぬ』のも、仲間が『死ぬ』のを見るのも。
「大丈夫だよ、きっとっ。ほら、危険になったら逃げてこればいいんだし」
楽観的な霊感少女。
ちなみにそういう台詞は死亡フラグに分類されると思う。
「で、でも……」
渋るカエデの気持ちもよくわかる。何しろ俺は、死にかけた張本人だしな。一応来てみたはいいが、恐怖心が全く無いというわけでもない。
「何だったらコトリ一人で様子を見てくるか?」
「えーっ!?ここまで来てそれは酷いんじゃないっ?」
「冗談だよ、冗談」
俺は自分の発言を軽く流す。
ここまでやってきたのは俺の判断によるところが大きいし、流石にコトリを一人で行かせるわけにはもちろんいかない。とは言え、カエデを一人置いていくのも忍びない。俺たちは三人でパーティーなわけだし。
「で、どうする?」
コトリが『何か』を感じている以上、この中には善かれ悪しかれあるのだろう。軽率な判断をして良いものでもないかもしれない。
二人の顔を見回すと、
「行こーよっ!ぜったい面白いよっ」
こうなったら彼女は意見を曲げることはないだろう。
「わかったよ……。危なくなったら、帰ろうね……?」
幼馴染もそのことは察しているようで、不満げな表情を残しながらも遺跡の探索に賛成した。
「やったっ」
コトリは嬉しそうに飛び跳ねると、真っ先に入口の方に突っ走っていった。
「おい、待てっての!」
「ちょ…っ。おいて……かないで」
取り残された俺とカエデも急いで後を追う。
内部は意外と入り組んだ造りになっているのか、入ってすぐに左方向へ道が伸びていた。何だか、美術館や博物館の中を歩いているような気分で少し進むと、目の前に魔物が現れた。侵入者に対して反応するようになっているのかもしれない。防犯システムみたいなもんか。
刀を持った骨格標本が三体ほど襲い掛かってくる。
「いったん下がれ!」
俺たちは来た道を走って引き返す。相手のレベルは50。普通に戦っても恐らく負ける。
向こうもこちらを追いかけてくる。俺は踵を返すと先頭を走っている骸骨に魔法を放つ。
「強力斬撃!」
相手がひるんだところに後ろから追い打ちをかける。
「貫通射撃っ」
「落雷魔法!」
そして、とどめの一撃。
「一刀両断っ」
魔物はいつものようにその一部を残して消えていった。
残りの2体も同じように単体で処理していく。
複数を同時に相手するのは厳しくても、一体ずつなら何とかなりそうな気はする。
そんな風にしながら、進んでは少し引き返し、また進んでは後退しを繰り返しながら少しずつ進んでいく。どうやら一度倒したところからはしばらく敵は出現しないらしい。遺跡の魔力を使って魔物を作っているからだろうか。もしかすると、再度召喚するにはある程度エネルギーチャージの時間が必要なのかもしれない。
途中で、いくつかの宝箱を見つけた。
「あ、宝箱だよっ。ソウタ!」
本当にこんなのが無防備においてあるものとは思わなかった。
でもまぁ、既に調査済みの遺跡なわけだし、何も入っていないだろうと思いながら開けると、予想通り中には何もなかった。ないだろう、と思いながらも微かに期待していたのが何だか阿保らしい。
他の宝箱も同様に蛻の殻だった。
「よし、先に進もう」
気持ちを切り替えて先を目指すことにしよう。
遺跡の中が迷路のように入り組んだ造りになっていて助かったと思う。これが広間一つ、とかだったら周りを囲まれて先ほどの二の舞になってたかもしれない。ここでも、さっき倒した魔物が復活する前に進んでしまわないと挟み撃ちの可能性があるにはあるのだが。
どれほどの時間進んだだろうか。おそらく30分かそれ以上。何度か行き止まりに突き当たったりもしながら歩いているのだが、一向にゴールが見えない。外から見たところだと3階建てくらいはありそうな気がしたのにまだ一度も階段を上っていない。
「疲れたよーっ」
言い出しっぺが最初に音を上げた。
「お前が入りたいって言ったんだろう」
「そうだけどー」
若干飽きてきたのは俺も否定はしないが。
「壁、ぶち破っちゃおうか?」
ものすごく暴力的なことを言い出した黒髪少女。
「さすがに……まずいんじゃ、ないかな?」
俺もそう思う。
が、しかし、破壊少女は聞く耳を持たない。
「火炎爆撃!」
今まで主に外周を歩いてきたから、階段があると思われる中心方向の壁に向かって魔法を放つ。
壁に衝突した火の玉は爆発を起こす。
どかんっ。
爆発と、それによって引き起こされた爆風、砂埃が収まったあと、そこには傷一つない壁が残されていた。
「ダメか―っ」
むしろ壊れなくて良かったよ。
「まだ私たちじゃレベルが足りないみたいだね」
レベルが上がったら壁を破壊して進む気なのか。
俺の不安はよそに、飽きっぽい破壊魔は、
「仕方ない。帰ろうか」
……まったく、自由な奴だ。
「そう、だね……。帰ろうか」
心なしか、カエデは嬉しそうだ。彼女的にはこれで良かったのかもしれない。
「ま、調査はやれるだけやったってことで、体裁も保てるかな」
ダンジョン、というのも思ったより面白くはなかったな。やっぱり、こういうのは人の手が入っていないのが一番だ。宝箱が空っぽじゃあ、どうにもモチベーションが上がらない。
とにかく、俺たちは調査を半ばにして遺跡を後にした。