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俺の人生今日からニューゲーム  作者: やわか
俺の人生で初めてのダンジョン
39/120

    しんでしまうとはなさけない Lv3

 倒したモンスターが落としたアイテムを回収してから、彼女はこちらへ向き直る。


 「大丈夫だった?」

 「おかげさまで」

 「それは良かったわ。ところで、あなたたちはどうしてこんなとこに?」


 その質問に対して、俺たち三人は各々に自己紹介をして、現状に関する説明を羅列してみた。はっきり言って行き当たりばったりでたどり着いてしまったので、自分たちでも整理がついていない。まさか、死にかける羽目になるなんて考えもしてなかったしな。

 こちらの話を聞き終えた相手は、立場を変えて自らの事情を口にした。


 「なるほど。それは災難だったわね。あなたたちのレベルじゃあ、この辺はまだ厳しいでしょうに。あ、それはそうと、私はイルザ。聖職者(プリ―スト)よ」


 そう述べた彼女は白地に青色のラインが装飾されたデザインの修道服で、どこかヨーロッパらへんの国旗を連想させる。


 「私たちの方は、このあたりをパトロール中に注意対象エリアボスが出現したって聞いて来たのよ。そしたらあんた達が襲われてるし、まったく、来てよかったわよ」

 「ほんとだよー。ソウタなんか、また倒れちゃうし」

 「助かり、ました……。ありがとう」


 こいつらにも、また心配をかけてしまった。そんなことを考えながら、わからないことは積極的に質問していく。


 「さっき言ってた注意対象って何なんだ?」

 「簡単に言えば、力の強い魔物のを指す言葉よ」


 感謝を述べる二人にヒラヒラと手を振りながら、イルザが答える。


 「基本的にその辺に普通に出てくる魔物なんかは大地の循環魔力が漏れたとか溢れたとかで形成されてるって言われてて、『意思』を持った『生物』ではないっていうのが定説なんだけど、中には『生物』と同様に『魂』を持った魔物がいるの。それが強敵ボスって言われてるの」

 「魂…?」

 「一般に、『生物』とされるものは肉体と魂魄こんぱくから成っている。『肉体』は魔力粒子で形成されるが、どういう構成で魔力粒子をくみ上げるか、のような情報を持ったものが『魂魄』だ。設計図みたいなものと言ってもいいかもしれない。同時に、『肉体』は『魂魄』が宿るためのれ物の役割も果たしていて、『肉体』だけでも『魂魄』だけでも生き物は成り立たないんだ。魂魄にはそれが生きた軌跡、所謂『記憶』のようなものが刻まれるらしい」


 イルザの説明を引き継いだのは剣士の男。

 その説明からすると、『魂魄』はDNAみたいなものなのか?それとも、『肉体』がハードウェアで、『魂魄』がメモリみたいな感じなのだろうか。


 「でも、普通の魔物は魂を持ってないんですよね?」


 直感の鋭い少女の質問に、刀の男はこう返答した。


 「多くの魔物の場合はその『設計図』を『地球』が持っていて、それをもとに作られているってことになってるみたいだな」


 工場で大量生産するようなもんか。


 「ちなみに」


 話題に入れなくて寂しかったのか、ガンナーも口を挟んでくる。


 「エリアボスってのはボスの中でもある一定の分割地区エリアでリスポーンするものを言うんだぜ?大体の魂は土地に縛られてるらしいからな。倒されても『肉体』の材料になる魔力粒子がある程度集まったらまた復活すんのさ」

 「大体、って言っても、格の低い魂だけだけどね」

 「『格』?」

 「ま、扱いによって分けてるだけだから、実際に格上とか格下っていうのとは少し違うかもしれないけど」


 と前置きをして再びイルザが口を開く。


 「魂は器を失うと次の器に移るんだけど、その時に『記憶』はリセットされるの。たまにその『リセット』が完全じゃない場合もあるみたいだけど。それはともかく、魔物なんかの魂は表面の『記憶』だけリセットされて、深層の『設計図』の部分は使いまわされるの。それに、『行動範囲』も限られている」


 一度、息継ぎをする。


 「ほかの生物の場合は、その根幹部分も書き換えられてまったく違う生き物に生まれ変わる、らしいわ」


 魔物に関しても、『書き換え』が起きて新種が生まれることもあるみたいだけど、と軽く付け足した。


 「それにしても、随分詳しいな」


 きっとこれ以上掘り下げても、到底理解もできないだろう。いや、すでに置き去り気味だが。


 「聖職者は魂を司る魔法を得意とする職種でもあるからね」

 「ところで、イルザ達はこの村の所属なのか?」


 尋ねると、白い少女は首を横に振る。


 「私たちは組合の依頼でこのあたりの村を護衛するために一か月くらい前に教会から派遣されてきたのよ。その名も『十字軍(仮)』っ!」


 イルザの紹介に、残りの二人は不服そうに捕捉する。


 「おい。教会から派遣されてきたのはお前だけだろ。俺たち三人はばらばらに集められてたまたま一緒になっただけだ」

 「それに、聖教徒になるつもりもない」

 「もう、何よあんたたち!!」


 二人の裏切りに頬を膨らませるシスター。


 「聖なる能力ちからを使えれば魔王だって倒せるかもしれないのよ!」

 「その程度で倒せるなら今頃倒されてるだろうよ」

 「大体、学び直し(リラーニング)にはまだ大分条件が足りてないしな。その頃にまた考えてみるよ」

 「絶対よ!?」


 仲良く言い合う三人に割り込んでいくのは若干、恐縮ではあったのだが、聞き覚えのない単語が出てきたので尋ねてみることにする。


 「学び直しって言うのは?」


 イルザが俺の質問に答える。


 「一つの職業スタイルにおいて、全ての戦闘魔法の熟練度を最大まで上げた後に、別の職業の魔法を一から身に着けることができるの。人間種ヒューマンだけに与えられた特権なのよ」

 「人間種だけが特別扱いされてるってことか」

 「そう言うわけでもないけど。魔法にはいくつか魔法特性オートアビリティってものがあるんだけど、その一つの種族特性ユニークスキルは種族によってそれぞれに持っているものなの。それで、人間のそれは弱者の生きる術マニピュレータ。魔力を効率よく使ったり、既存の魔法を組み合わせるようなことが得意な種族なのよ」


 『弱者の生きる術』の基本的な効果は、装備した武器や防具の能力値や追加効果アームズアビリティの効果を高めることで、その副次的なものとして魔法を自分に合わせてカスタムする事ができるらしい。人間は複数の職業の特性を組み合わせたり、自分の得意な魔法に特化することで新しい職業が生まれやすい種族なんだとか。

 違う職業から聖職者の魔法を学び直す経路はいくらかの前例があったそうで、かつてはそう言った冒険家で構成された『十字軍』なるものが教会には存在していたという話だ。今は彼らの多くが引退してしまい『十字軍』は解散されてしまったが、それを再興するのがイルザの夢なのだと語っていた。魔王を倒すとか云々うんぬんはある意味で建前のようなものなのかもしれない。


 「今更で悪いんだが、俺はロルフだ。職業は二銃士ダブルガンナーをやってる」

 「そういえばそうだな。俺は刀術師サムライのヨスカだ。よろしく」


 突然の自己紹介に、


 「あ、よろしくお願いします」

 「よ、よろしく、お願いします……」

 「お願いしますっ」


 俺たちはばらばらに挨拶を返した。


 「あー。敬語とか気にしなくていいぞ?同じ冒険家なんだからよ。年上とか先輩とか、そういうのは抜きにしようぜ」

 「俺もそれで構わない」


 そうは言われても相手は年上だ。いきなりため口は多少抵抗がある。


 「わかったっ。それじゃ、よろしくね!」


 全く躊躇している素振りが見えないコトリ。


 「まぁ、こいつらもこう言っていることだし、全然気遣わなくていいわよ」

 「お前はもう少し年上に敬意をだなぁ……」

 「仲間だって言ったじゃないのよ」

 「それにしても……」

 「あんたも、うっさいわよ!」


 なんだかんだ言ってこの三人は楽しそうだ。出会ってまだ一か月と言っていたが、俺たちも、いずれはこんな風になれるんだろうか。


 「私たちも、もっと仲良くなれるよ」


 俺の心を読んだかのように体を摺り寄せてくるコトリ。


 「ああ、そうだな」


 だが、この距離感はまだ俺には早かった。さりげなく遠ざかると、今度はカエデの肩に触れてしまう。


 「わ、わわ」

 「ごめん、大丈夫か?」

 「う、うん……大丈夫、だよ」


 呟いて俯くカエデ。


 「……仲間、だからね」


 急に手を握られて、思わず振り払ってしまうところだった。激しく脈打つ心臓を落ち着かせながら、俺も彼女の言葉に応じる。


 「頑張ろうな。これからも」

 「私のことも忘れないでよっ?」


 コトリが空いている方の腕にまとわりついてくる。


 「わ、わかってるよ。もちろん」


  *


 『十字軍(仮)』を含めた六人は一人の小さな女の子を連れて村へと向かっていた。

 ……はっきり言って、ごねる少女を説得するのはなかなか骨が折れた。

 思い出したように泣き始めた少女に言葉など通じるわけもなく、しゃがみ込んだ女の子に寄ってくる魔物に対応しながらしばらくの間困り果てていたわけだが、泣く、というのは案外体力を使うものらしい。ぬいぐるみの名前を泣き叫びながらいつの間にやら眠りに落ちて行った。寝てしまった少女をイルザが修道女シスターらしくおんぶして運んでいる。

 他の五人が戦闘を担って進んでいると、またしてもコトリが何かを感じ取ったらしく、ふと足を止める。


 「今度はどうしたんだ?」

 「何か、いやな感じがするの」


 彼女がそう言うのならきっと何かあるのだろう。俺たちは少女の視線の先を見やる。


 「あの方向だと、ちょうど遺跡のある辺りかしらね」

 「ああ、そうだな」


 遺跡、か。俺たちが調査を依頼されているそれの事だろう。

 この超人少女がいやな感じがする、と言っているのだ。行かない選択肢も一応あり得ると思う。


 「どうするの、ソウタ?」


 カエデがエメラルドに輝く瞳でこちらを見つめながら尋ねる。

 さて、行くべきだろうか。

 ここで遺跡に向かうことにどれほどのメリットがあるだろうか。考えてみる。

 先ほども死にかけたばかりだ。このあたりの魔物は俺たちが相手するには少々レベルが高いのは事実。遺跡の調査どころか、遺跡に向かう道中ですら危険な香りがする。

 今から向かおうとしている遺跡は組合の管理下にあるそうだ。つまり、既に調査済みということであり、何かお宝が眠っている可能性は限りなく低いだろう。

 遺跡の調査は組合直々の依頼だ。達成報酬クリアボーナスもそれなりにあったはず。メリットと言えるようなものはそれぐらいか。

 では逆に。

 遺跡に行かないことのデメリットは何だろうか。こちらも考えてみることにする。

 ……ない。第一印象ではそんな解答が頭に浮かぶ。別に目下、誰かが危険な目に遭っているわけでもなければ致命的な危機が迫っているというわけでもない。

 こういうのはどうだろう。村が襲われ続ける。遺跡に問題がある限り、あそこから出てくる魔物たちの脅威に村はさらされ続けることになる。

 少なくともこのままでは何も解決はしない。出てくる魔物を逐一迎撃するだけでは根本的な解決にはなり得ない。

 あいつらはどう思っているのだろうか。そう思って、二人の仲間に視線を投げる。

 カエデは相変わらず、俺の出す答えを待っているようだ。彼女の性格だと、本心としては恐らくあまり気のりはしていないだろう。


 「ソウタ。ダンジョン、だよ?」


 一方、もう一人の少女はというと、ガーネットのような赤い目をらんらんと光らせている。

 そうか。行くことのメリットを一つ忘れていた。


 ――――『面白そう』。


 一番大事なことをすっかり思考から除外してしまっていた。

 彼女もなんだかんだと理由をつけてはいるが、その根っこのところでは冒険を楽しんでいるのだろう。そうでなくてはならない。そのために、俺はここに居るんだから。誰にも縛られず、誰の思惑からも解放されて、自分の意思で、自分のやりたいように世界を楽しむ。

 なら、初めから選択肢なんか一つしかない。


 「そうだな。ちょっと行ってみるか」


 俺の言葉にロルフが少し心配そうな顔を見せる。ヨスカも俺たちを気遣ってくれる。


 「大丈夫か?何なら俺たちも付いてくが」

 「なんなら代わりに行ったって構わない」

 「いや、大丈夫。その子を村まで頼むよ。俺たちじゃ、安全に村まで送り届けられるか怪しいし」


 答えると、


 「そう。じゃあ、行ってらっしゃい。あなたたちに神の加護があらんことを」


 全くもって引き留めようとしないフィンランド系シスター。

 銃士と剣士も見送ってくれた。


 「気ぃ付けてな」

 「くれぐれも、無理はするな」


 幼い少女を託して、俺たちは遺跡を目指すことにする。


 「ありがとう。任せたよ」

 「じゃーねーっ。また後で」

 「お、お願い……します」

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