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俺の人生今日からニューゲーム  作者: やわか
俺の人生で初めてのダンジョン
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一章 しんでしまうとはなさけない Lv1

 村へ向かって歩いていると、不意にコトリが声を上げる。


 「今の、聞こえたっ?」


 俺は首を横に振る。魔物と対峙していたこともあってか、俺には何のことだかわからない。

 それはカエデも同じらしく、


 「どうしたの、コトリ。何も聞こえなかった、けど……?」


 コトリは真剣な表情で続ける。


 「確かに聞こえたよっ。叫び声だった!」

 「わかった。どっちから聞こえた?」


 彼女の五感は人並み外れたところがある。俺も何度か助けられてるからな。

 声が聞こえたという方向に向かって走っていく。

 そこには、魔物に囲まれた一人の少年がいた。


 「おい、大丈夫か!?」


 こちらの声に反応した魔獣がこちらに注意を向ける。

 何か言葉を発そうとした少年を遮り、


 「そこでじっとしてろ!すぐに助けてやるっ!」


 少年は黙って首を縦に振った。


 「よし、行くぞ」


 二人の仲間に声をかけ、飛び出す。飛びかかってくる獣に一閃をくらわすと、淡い光の粒へと還っていく。

 コトリとカエデも魔法を放ち、2、3の影を光に還す。

 残った魔獣は尻尾を巻いて散り散りになっていった。


 「……ありがとうございました。助かり、ました」


 その場にへたり込んだままの男の子の手を引いて立たせる。


 「どうしてまた、こんなとこに?」

 「妹を探してるんです」


 そう言って彼はここに至るまでの経緯を話した。


 「……なるほど。でも、わかったろ?ここは危険だ。村に戻ってろ」

 「でも……っ」

 「安心して。妹ちゃんは私たちが見つけるからっ」


 コトリの言葉にしばし逡巡した様子だったが少年は頷いて、


 「よろしくお願いします」


 と言うと走り去っていった。


 「さて、行くか」

 「うんっ」

 「絶対、見つけよう」


  *


 どうやらここは分割地区エリア名から察するに、初心者ビギナーの訓練場として使われている場所のようだ。きっと最近は冒険家不足のせいで使ってなかったんだろうけれど。

 今は魔物の溜まり場となった訓練場を奥へ進んでいく。


 「強力斬撃メガスラッシュっ」


 魔法を使って襲ってくる魔獣を切り捨てる。

 さっきの少年の妹もこいつらに襲われてなけりゃいいが。

 中ほどまで進んだ頃だろうか。コトリが歩みを止める。


 「待って、誰かいるよ」


 周りを見渡すが、見つかるのは四足歩行の獣だけ。

 コトリは視線をあちこちに動かして、ある一点でそれを固定する。

 その視線の先。

 一本の木の上にその少女はいた。


 「あ、あれ!」


 よく気付いたな。獣たちでさえ認識していないというのに、こいつは本当に人間かよ?

 その思考を読まれたのか超人少女の視線が突き刺さるが、彼女もそれより優先すべきことを見据えて口より先に足を動かした。


 「もう大丈夫、助けに来たよっ!」


 その目立つ動きと声にアクティブになった魔物の注意が集中する。


 「ったく」

 「……っ」


 俺とカエデでそれらに対処し、その間に目にもとまらぬ速さで木に登ったコトリが小さな女の子を抱えて飛び降りてきた。

 抱き寄せられた少女は今にも泣きだしそうな顔をしている。


 「村まで送ってやる。大丈夫だ」


 俺はそう励まそうとしたが、彼女の心配事は他の事だったらしい。


 「……ベアリ……っ」


 確かこの子が探しているぬいぐるみの名前だったと思う。兄と話しているときに聞いた気がする。

 この状況でこんなことが言えるのは度胸が据わっているのか何なのか。子供の考えていることはよくわからない。俺にもこんな頃があったはずなんだけどな。

 そんなことを考えながら、女の子の頭に手を乗せ微笑んだ。


 「わかった。一緒に探してやる」

 「うん!」


 パッと笑顔になった少女を連れて、さらに訓練所の奥へと進んでいく。草むらや木の影を覗きながら歩いているのだが、それらしきものは見つからない。

 彼女が言うには白い熊のぬいぐるみらしいのだが。


 「ベアリーっ!どこーっ?」

 「どこー?」


 熊の名前を呼びながら歩くコトリと小さな少女。魔物が寄ってくるからやめてほしいんだけど。


 「出ておいでーっ」


 ぬいぐるみがそんなんで出てくるかよ。

 少なくともコトリは少し黙っててくれ……。


 「強力斬撃!」


 もちろん近づいてくるのはそこらをうろつく獣だけだ。


 「ほらー、みんな心配してるよーっ?」


 誰だよ、みんなって?


 「貫通射撃アローブロー!」


 結局、そんな調子のまま行き止まりまでたどり着いてしまった。

 さて、困ったものだ。

 幼い同行者はまたしても瞳に涙を溜めている。


 「ほ、ほら……きっと、見つかるから。……今日は、おうちに……か、帰ろ?」


 過剰に刺激を与えないように言葉を選びながら少女の説得を試みるカエデ。

 が、努力もむなしく爆弾は爆発してしまった。

 弾けたように泣き出した彼女の声が草原に響き渡る。それにおびき寄せられるように続々と狼たちが姿を現す。


 「……まずいな」


 俺たちは訓練所と外界を隔てる壁を背にするように後ずさる。この壁もところどころ穴が開いていたりするが、ど真ん中に立っているよりは囲まれ辛いだろう。


 「魔力防御マジックガード

 「集中強化コンセントレイト


 コトリとカエデは自らを強化する魔法をかける。

 それにしても妙だ。

 泣き声を聞きつけてきたにしては数が多すぎる。こうしている間にも敵の数はとどまることを知らない。

 すると、魔物たちの後方から一回り、二回りほど大きいそれが現れる。

 なるほど、こいつを中心とした群れってわけか。

 俺は、二人の仲間に声をかけて前にでる。


 「この子を頼む」


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