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俺の人生今日からニューゲーム  作者: やわか
俺の人生はベリーハードモード
35/120

終章 新着メッセージがあります

 昨日、ゴーレムとの戦闘があり、そのあとに宴会が行われた広場に俺たちは再び来ていた。

 商売の拠点を修復している土精種ドワーフたちが、こちらに気付いて声をかけてくる。


 「おう、早いじゃねーか」

 「おはよう、人間さんたち」


 ここに迷い込んだ頃に比べると、受け入れてくれる土精種も増えたのかもしれない。

 俺たちは各々に挨拶を返しながら広場の中心へと降りていく。昨日の宴の後に指定された場所だ。

 長老は俺たちが地上に帰るための方法にあてがあるようなことを言っていたが、


 「どうするつもり何だろうね?」


 コトリが俺の疑問を先読みしたかのように口を開く。


 「さあな。お前の空間移動テレポートとかでは無理なのか?」

 「少なくとも今は無理だね。熟練度が足りないから人ひとり分くらいの重さしか移動できないし、距離も50mくらいなんだ」


 そんな会話をしていると、広場に長老と族長が入ってきた。その場にいた土精種たちと挨拶を交わしながらこちらへ向かってくる。彼らの他にも数人の土精種がともについてくる。

 エミリアが一番に口を開く。


 「皆さん、本当にお世話になりました。集落を救っていただき、それだけでなく、私を勇気づけてくださいました」

 「大したことはしてないよ」

 「それでも、私は、失いかけていた族長としての自信を取り戻せました。『出来ないことなどない』……きっとそうなんでしょう。貴方あなたたちを見て、そう思えました」

 「役に立てて良かったよ」

 「あなたならこれから先の土精種の未来を明るい方向へ導いて行けますよ。みんな、あなたを信頼してついてきてるんですから」

 「そうですよ、頑張ってくださいっ」

 「そうだよ、エミリア。……応援してる」


 俺たちの言葉を受けて、彼女は微笑わらった。


 「……はい!」


 タイミングを見計らって長老が話を切り出す。


 「それでは、今から地上に戻る方法を説明します」

 「はい」

 「今、ここには大掛かりな術式を動かすほどの余力は残されていません。ですので、地上から引き揚げてもらう方法をとります」

 「具体的には、どういう?」


 ルビィさんの疑問に、


 「我々には、協力関係にある人間の研究者がおります。その者に協力を仰ぎました。彼女にはこの広場の正確な座標を伝えました。そして、地上側で『特定の座標にあるものを手元に移動させる』術式を使用してあなた方を地上に戻します。彼女は信頼のおける者ですので、どうかご安心ください」


 この集落の現状では、空間移動のような『手元にあるものを特定の座標に移動させる』術式は使えないから、逆に、地上から俺たちをサルベージしようってわけか。


 「わかりました。お願いします」


 同意の声を受けて、長老は地上の研究者に念話を繋ぐ。


 「こちらの準備はできた。そっちはどうじゃ?……ふむ、そうか。了解した」


 今度は俺たちの方に意識を向けて声を発する。


 「いつでも転送は可能だとのことです。よろしいですかな?」

 「はい」

 「それでは……」


 地上に合図を出そうとした長老を遮って後ろに立っていた土精種の男が声を上げる。


 「と、その前に」

 「おお、すまん。忘れておったわ」

 「忘れないでくださいよ。このために俺は来たんですから」


 土精種にしてはがたいの良い彼は前に歩み出ると、俺に何かを差し出した。


 「これ、持ってきな。俺は鍛冶屋でな。それは俺が作った盾だ」

 「いいんですか?」

 「ああ。助けてもらったからな、あんたらには。せっかく片手剣を使ってるんだ。盾も使わねぇとな」

 「ありがとうございます」


 俺はそれを受け取り、装備に加える。


 「よく似合ってるぜ」


 鍛冶屋は微笑むと元の位置に下がっていった。


 「それでは、今度こそ良いかな?」


 長老は周りを見渡し、確認を取る。反応がないことを確かめてから改めて合図を送る。


 「転送を頼む」


 その言葉を皮切りに、俺たちの周りが淡い光に包まれる。


 「おい!」


 その声は、もはや聴きなれたルーカスの物だった。鍛冶屋と同じく長老についてきていたらしい。


 「俺はやっぱり人間は信用できない。でも……」



 「少なくとも、お前らのことは信用できると思った。……ありがとう、ソウタ」



 そう言った彼の表情は、出会った時と比べていくらか柔らかいものに思えた。


 「おう!またな、ルーカスっ」


 手を振って応じる。

 周りの光が強まってくる。

 長老の横に立っていたエミリアも口を開く。


 「じゃあね、カエデ」

 「うん、バイバイ。……エミリア」


 光が視界を埋め尽くす。

 次に視界が開けた時には、日の光の当たる場所に立っていた。高々数日の間、地下にいただけなのにひどく久しぶりに感じる。瞳を刺す光に目を細めていると、後ろから声が聞こえた。



 「お疲れ様。地下の世界はどうじゃったかの?」



 振り返ると、白衣を着た少女、というか幼女が立っていた。分厚い眼鏡をかけた彼女に問いかける。


 「ええと、君は……?」

 「わしはアガサ。研究者であり、発明家じゃ」

 「え……?」

 「今、『こんなちっちゃいのが研究者?』とか思ったじゃろ!?」

 「いやいや、そんなこと」


 思ったけど。


 「まったく、せっかく助けてやったのに失礼な奴じゃの」


 不快そうな表情の彼女に俺たちは慌ててフォローを入れる。


 「悪かったよ、謝るから許してくれ」

 「ありがとう、アガサのおかげで助かったっ」

 「本当に…感謝してる」

 「小さいのにすごいと思うよ、アガサちゃん」


 機嫌をよくしかけていた彼女に最後の最後で余計なことを言う赤い剣士。


 「小さくて悪かったなっ!」

 「ルビィさん……」

 「あはは、ごめんごめん」

 「これだから人間というのは!すぐに見た目や年齢で他人を判断しようとする!!そもそもだな……っ」


 わめき散らす少女をたしなめるように声をかけながらまた一人、別の女性が現れた。


 「ほら、先生。その辺でいいでしょう?久しぶりのお客さんなんだからもてなしてあげないと。それに片付けも」

 「……セルマ」


 アガサはその女性の姿を認めると大人しくなって、


 「わかっておるわ」


 俺たちの転送に使われたらしき魔法陣の中心に台車を持っていき、そこに置かれた鉱石を乗せようとする。

 その間に、セルマと呼ばれた彼女が自己紹介をする。


 「私はセルマ。先生の世話役です。親代わり、とでも言いましょうか。彼女は疑う余地もなく天才だけれど、まだ小さな女の子なのも事実です。許してあげてくださいね」

 「あ、いえ。俺たちの方こそ、すみませんでした」


 頭を下げてからアガサの方を見ると、どうやら鉱石を台車に乗せるのを手間取っているらしい。鉱石は砂時計の台座のようなものに支えられて地面に立っている。俺の背丈より少し小さいくらいのそれを持ち上げるのは、少女には少し難しかったかもしれない。


 「手伝うよ、アガサ」


 歩み寄りながら声をかける。


 「俺はソウタ。助けてくれてありがとう。君がいなかったらどうなってたか」


 まだ名乗っていなかったことを思い出して、今更ながら名前を伝える。


 「もういわ。とにかく早く手伝え」

 「はいはい」


 手に持った盾を置いて、巨大砂時計に手をかける。


 「せーのっ」


 息を合わせてそれを台車に乗っけた。そうしてから地面に置いた盾を拾い上げる。

 改めてそちらに視線を向けたアガサが、おっ、と声を上げる。


 「それは『ドヴェルグの盾』じゃな。『下』で何があったかは詳しく知らんが、彼らの信用を勝ち得るほどの事をしたのは確かのようじゃな」

 「『ドヴェルグの盾』?」


 アイテムウィンドウからその盾を確認すると、確かにそう名前が書かれていた。


 「なんじゃ、知らなかったのか。それは良いものじゃぞ。大切に使えよ?」

 「そうさせてもらうよ」


 苦笑して、台車を押していく彼女に付いていく。

 そのまま、少し離れたところにポツンと建っている建物に向かっていく。


 「あそこがわしの研究所じゃ。少しゆっくりしていくと良い」

 「ありがとう」


  *


 案内された建物でセルマに出されたお茶を飲みながら一息をつく。


 「ところで、ここはどのあたりなんだ?依頼クエストを『返還』するために王都に帰らないといけないんだが」

 「依頼の返還なら直接会わずとも可能じゃろうに」

 「え、そうなんですか?」


 俺はルビィさんを見やる。彼女は目を逸らして、


 「そう言えばそうだったかも……」


 忘れてたらしい。


 「ほ、ほら。私は支部所属の冒険家だから、民間の依頼を受けることがあんまりなくてさ」


 などと言い訳をするルビィさんをよそに俺はクエストを返還した。

 俺、コトリ、カエデの三人の体が淡く光り、レベルが上がったことをしらせる。これで俺のレベルは24になった。


 「じゃあ、次はどうしますか?」

 「うーん、そうだね。私はそろそろパーリスに帰らないといけないし。昨日から支部がうるさくってさ。文書保管庫メールボックスがいっぱいだよ」


 そうだった。この人は本来なら昨日にはパーリス支部に戻っている予定だったのだ。


 「何、寂しいのー?」


 確かに、今までお世話になった彼女がもう帰ってしまうのかと実感すると、少し寂しいような気もする。たまには俺も、ルーカスを見習って素直になってみるか。


 「そうですね。少し」

 「おっ。素直になったね」

 「まぁ、最後くらいは」

 「大丈夫だよ、ソウタくん。2度と会えないってわけでも無いんだからさー」

 「うわっ、ちょっと……っ」


 言いながら子供をかわいがる母親のように俺を抱きしめるルビィさんを引きはがす。


 「じゃあ、俺らはどうする?」


 気を取り直してもう二人の方に話を振る。


 「そうだねー。魔王を倒すにはまだまだレベルが足りなそうだし、もう少し依頼を受けたりしながら経験値を積むのがいいのかな」

 「私も、そう思う」


 二人の言葉にアガサが反応する。


 「お前ら、魔王を倒すのか?」

 「ああ、一応そのつもりだ」


 幼女は少し考えるように俯きながら、


 「なら、気を付けた方がいい」

 「わかってるよ。簡単じゃないことくらい」

 「そうじゃない」


 俺の反論に、彼女はそう応えて、


 「組合ギルドに、じゃよ」


 意外な言葉に発するべき言葉が見つからない。黙った俺に、彼女は続けて口を開いた。


 「あやつら、どうにも動きが怪しい。まるで、魔王に関する情報をひた隠しにしているようにも見える」

 「どうして、そんなことを。組合にとっても魔王は厄介者のはずだ」

 「そうだよ、普通は情報を共有して倒しやすくするんじゃないの?」

 「本来なら、な。じゃが、組合が冒険家やそれ以下の一般市民に対して情報を意図的に伏せているのは事実なんじゃ」


 具体的には、魔王降臨以来、研究などの関係で頻繁に交流していた他種族からの情報が極端に減ったらしい。土精種に対する『対応』も不自然に早かったんだとか。


 「まるで種族間での協力ではなく、隔離を進めようとしているかのようにも見える」


 理由はわからんが、とにかく、と。


 「魔王を敵に回す、ということは組合を敵に回す、ということにもなりかねん。あまりあやつらの言うことを信用しすぎん方が良いかもしれんの」

 「アドバイス、感謝するよ」


 と、感謝を述べたところでルビィさんが声を上げた。


 「お、ソウタくん。次の行動、決まったみたいだよ」


 皆が彼女に注目する。


 「今、本部に今回の事を報告したところなんだけど、次は遺跡の調査をして欲しいんだって」


 詳しく聞けば、魔王の魔力の悪影響を受けた古代遺跡から近頃多くの魔物が出てきて近くの村に脅威を与えているとのこと。


 「人使い荒いですね、組合も」

 「言ったそばから。まったく、組合も何を考えておるんじゃか……」

 「さて、目的地も決まったことだしそろそろ行くか」


 俺が立ち上がると、小さな博士が怪訝そうな顔を見せる。


 「こら、遺跡は組合の管理下にある。くれぐれも……」

 「わかってるよ。俺だって思い通りに動いてやるつもりもない。ただまぁ、今のところ具体的な目標がないのも確かだしな。取り合えず目の前の人助けをしてみるよ」


 言ってから、一応二人のパーティーメンバーにも確認を取る。


 「コトリ、カエデ。二人もそれでいいか?」

 「もちろんっ」

 「うん」


 その返事を聞いて、


 「そういうわけだからさ。俺はあくまでやりたいようにやるだけさ」


 アガサは嘆息すると、


 「そうか。困ったときはまたここに戻ってくると良い。何かしてやれることもあるかもしれんしな」

 「助かるよ」

 「あ、そうそう。土精種の、エミリア族長が率いる集落への転移装置ポータルを作る予定じゃ。彼らは武具を製鉄や加工することに長けておるからの。武器の強化なんかもしてくれるかもしれん。また向こうにも顔を見せてやれ」

 「わかった。完成を楽しみにしてるよ」


  *


 彼女の研究所を後にして、少し。

 地面から小さな人型の何かが現れる。

 小学生程度の背丈。褐色の肌。とがった耳に、黄色い瞳。

 土精種ドワーフ

 俺たちを囲んだ彼らの目はどこか正気ではない。初めて『野蛮種ゴブリン』を見た時はわからなかったが、直接土精種たちと時を過ごした今なら、それが分かる。

 おそらく魔王の魔力に悪影響を受けた土精種たちだろう。

 ただ、彼らの中にも正気を保っているように見えるものもまばらにいる。


 ……生きるため、か。


 エミリアが言ったように彼らが抱える問題は未だ多い。

 それはきっと、土精種に限ったことではないのだろう。人間だって同じことだし、そのほかの種族にとっても魔王の影響は多少あるはずだ。

 組合の抱える『闇』もまた。

 俺はどう関わっていくべきだろうか。

 決まっている。


 ―――俺は、俺の信じる道を進む。


 それが、『この世界』で俺が選んだ生き方だ。誰にも縛られず、全体の一部としてではなく。

 『俺として』生きていく。

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