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俺の人生今日からニューゲーム  作者: やわか
俺の人生はベリーハードモード
34/120

    不具合についてのお詫びです Lv3

 「え?」


 耳に入ってきたエミリアのつぶやく声に、思わず声を漏らしてしまった。


 「お爺様っ、お爺様……っ!」


 駆け寄っていく少女を追いかけて俺も降下してくる光の球に向かう。その場にいた他のメンバーも同様に中心へ集まってくる。

 先に到達したエミリアが光の壁に包まれた人物に必死で呼びかけている。俺は、彼を包む光に触れる。魔力による『アイテム』の保護はそれをドロップしたモンスターに少しでもダメージを与えたものでしか解除できない。魔力保護から解き放たれた彼をエミリアが受け止める。顔にも体にも皺の目立つその容貌は一目で彼が老人であることを推測させる。やせ細った手足も相まって弱弱しい印象を与えられた。


 「大丈夫ですか、お爺様!」


 その声に、年老いた土精種ドワーフはうっすらと目を開く。


 「おお、エミリアか。元気、じゃったか……?」

 「ええ、ええ!」


 久しぶりに聞いたのであろう祖父の肉声に涙する少女はただ何度も頷くことで返答とするのが精いっぱいだった。


 「能力確認ステータスカウント


 彼に手の平を向けてそう唱えると、その声でこちらの存在に気付いたらしく、ゆっくりと首を回して視線を向ける。

 能力値ステータスを見たところHPにもMPにも異常はないようだった。ただ、名前の下あたりに『虚弱ウィークネス』とあった。


 「あなた、方は?」

 「俺はソウタって言います。訳あってお邪魔しているんです」


 そんなことより、まずはこの人をどうにかしないことには何も始まらない。


 「これをどうぞ」


 と、横合いから何らかの薬が差し出される。持っていたのはルビィさんだった。


 「ありがとうございます。ほら、お爺様。お飲みください」


 受け取ったエミリアは周りが止めるよりも早く祖父にその魔法薬品ポーションを飲ませる。


 「ルビィさん、今のは?」

 「あの人の今の状態、『虚弱』は能力異常デッドステータスの一つなの。だからそれを回復する薬よ」


 さすがですね、と言うと彼女からは、まあね、と恥ずかしげもない返答を貰った。

 能力異常から回復した老人が立ち上がり口を開く。


 「助かりました。どなたかは存じませんが、ありがとうございます」

 「いえ。それはそうと、薬では異常を直すだけで、蓄積された疲労なんかまでを回復することはできないので一度どこかでお休みになられたほうが良いかと」


 確かに、HP残量に関わらず、空腹も眠気も感じるからな。エミリアの話からすると三年間ほどあの中にいたわけだから、魔法や薬だけでどうにかなるものでもないのだろう。


 「そうですね。お爺様、お部屋までお連れしますね」

 「すみません、後できちんと挨拶はさせていただきますので」


 エミリアは祖父を連れて広場を後にする。ルーカスを含め数人が彼女らを追っていった。それと入れ替わりになるように、戦闘の終わりを察したほかの土精種たちが広場に流れ込んでくる。

 改めて広場の惨状を見渡す。えぐれた地面。崩れた屋台。飛散した商品。壁沿いのらせん階段もあちこちが落ちてほぼ機能を果たしていない。


 「めちゃくちゃになっちまったな」


 俺は隣に立っているルーカスに声をかける。彼は、


 「何、広場自体は族長の力が戻ればすぐに直せるさ。それに店や売り物は俺たちが何とかする。土精種は、それほどやわな種族じゃないさ」

 「そうか」


 たくましいものだ。そう思って、微笑んだ。


  *


 「ところで、あなた方はどうやってここに来られたのですか?」


 しばらく空き部屋となっていたらしい、かつての族長が使っていた部屋で、事情を伝えた俺たちはベッドに横たわる前族長の言葉を受けていた。


 「……そういえば、まだ聞いていませんでしたね」


 現族長が呟く。俺たちがエミリアと初めて対面したときはルーカスがやけに突っかかってきたせいで話がどんどん逸れて行ってたからな。すっかり説明しそびれていた。


 「実は罠、みたいなものに引っかかってしまって」


 そう言って、


 「物品取出プルアウト


 収納していた例の術式を内蔵した特異魔力ソウルを取り出す。そういえば、それ、周りの魔力を吸収するとかじゃなかったか?


 「普通にしまってて大丈夫だったんですか、それ」

 「大丈夫だよ、倉庫にしまったものは魔力的に『時間の止まった』状態に置かれるから」


 とにかく、とルビィさんは続ける。


 「これのせいで地面に穴が開いて、落ちてきたんです。すぐに魔力が切れて閉じてしまいましたが」

 「なるほど。また魔力を補充すればもう一度穴をあけることはできそうですが」


 族長はルビィさんからその鉱石を受け取り眺めながらそんなことをつぶやいた。


 「ただ、私やエミリア、それにロウヒ様さえ疲弊している現状でこの地の魔力を吸収させればこの地下空間が持たないかもしれません。ほかの方法を使った方が良さそうです」


 石が手渡されるときに一瞬ふわりと光ったのを見て、ふと思ったのだが、ルビィさんや前族長さんは魔力を吸われたりはしないんだろうか。


 「地面の部分なんかは地球の核から距離が離れて力が弱いから魔力粒子を奪うことも多少できるけど、私たちくらいなら大丈夫だよ」

 「そうなんですか」


 俺の表情を読み取ったのだろうか、女の人は勘が鋭いものなのかもしれない。よく知らないが。


 「ちなみに、ほかの方法、というのは?」


 ルビィさんが尋ねると、彼はこう口にした。


 「心配なさらないでください。あてならあります」


 と。


 「明日、あなた方を地上にお返しいたしますので、今日のところは申し訳ありませんがまたこちらでお過ごしいただければ、と思います」


  *


 祖父とその孫娘に連れられ前族長の部屋を出て広場に戻ったとき、片づけがひと段落したらしいその場所の中心で大きな鍋が火にかけられていた。


 「族長、長老、宴の用意が出来ております」


 歩み寄ってきたルーカスがそう述べる。


 「宴?」


 思わず呟いた俺に彼はこれ見よがしに眉を顰めて言った。


 「行方不明だった長老が戻られたんだ。当然だろう」


 長老、というのは前族長の事だろう。確かに、三年間も行方知れずだった人物がかえって来たのだから自然な流れなのかもしれない。


 「わかったらとっとと手伝え、人間」

 「俺らも参加していいのか?」

 「嫌ならもう一度、牢屋に戻っててもかまわないがな」


 それだけ言って作業を進めている仲間たちの元へ戻っていった。


 「まったく、彼も素直ではありませんね」


 失笑しながらエミリアは呟いた。


 「本当にな」


 答えて、俺たちも準備を進めている広場の中心に向かう。

 各々がその手に器を持ったところで、鍋の横に現族長エミリアが歩み出る。


 「皆さん、本日は大変お疲れ様でした。貴方たちのおかげでロウヒ様と私の祖父を助けることが出来ました。本当に、ありがとうございました」


 深々と頭を下げる。周りの土精種たちからは、


 「やめてくださいよ、族長」

 「そうだぜ、姫さん。あんたの方がよっぽど頑張ったんだ」


 などという声や、互いを称えあう声が聞こえてきた。族長は顔を上げて続ける。


 「また、解決にあたっては、ご存知の通り人間の方々も協力してくださいました。彼らの力無くして今の結果は得られなかったでしょう。一族を代表して私からお礼を申させていただきます。ありがとうございました」


 そう言って彼女は、もう一度丁寧にお辞儀をした。


 「しかし、今回のことは私たちの抱える問題の一つを解決したに過ぎません。まだまだ多くの向き合うべき問題が私たちには残されています。それらを解決するためにも、これから先も力を合わせて、互いに協力し合っていかなければなりません。こんな不甲斐ない私ですが、どうか、これからも皆さんの力を貸してください」


 しっかりとした族長の台詞に、その場の全員が自然と拍手をした。それが鳴りやむのを待ってから、彼女は自分の言葉を締めくくった。


 「とは言え、今宵は祝いの席です。大いに楽しんでください!」


 それを合図に宴の幕は開いた。

 彼女はこちらに戻ってくると、


 「ソウタさん、コトリさん、カエデさん、ルビィさん。数々のご無礼があったにも関わらず、本当に、ありがとうございました。改めてお礼を言わせてください」

 「いえ。土精種と人間種の間のしがらみには、こちら側の問題もありますから」

 「そうですよ。お互い様なんだから、頭を下げるのはもう無しです」

 「俺たちもあの状況をほっといたら死んでたかもしれないわけだし。な、カエデ?」


 俺が隣に立つ少女に水を向けると、真っ直ぐエミリアを見つめてゆっくりと口を開いた。


 「……全てを、許したわけじゃ、ありません。人間にも悪い部分が……あったのは、わかりますけど、まだ…全部に、納得、は……できません」

 「ええ」


 対峙する少女も正面からその言葉を受け止める。


 「でも、私は、そういう……人間と土精種のいざこざとか、そういうのじゃなくて……上手く、言えないんですけど。私個人として、皆さんと向き合っていこう…って思いました」


 彼女が初めて土精種という言葉を使った。野蛮種ゴブリン、ではなく。それはきっと、小さくとも、何か一線を越える一歩を踏み出した証だろう。


 「……はい」


 エミリアは頷いて、


 「それじゃあ、一つ、お願いです」


 と右手を差し出した。


 「……??」


 困惑するカエデに、小さな少女はにっこりと笑いかけた。


 「私と、お友達になってくれませんか?」

 「……もちろんっ!」


 その手の意味を理解して、もう一人の少女も笑顔で自分の手を差し伸べ、相手の手を取った。

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