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俺の人生今日からニューゲーム  作者: やわか
俺の人生はベリーハードモード
32/120

五章 不具合についてのお詫びです Lv1

 俺、コトリ、カエデ、ルビィさんが横に並んで巨大なゴーレムに対峙していた。

 その数メートル後ろにエミリアも同行している。


 「皆さん、気を付けてください!」


 後方からの声に俺が応える。


 「おう!そっちも、頼むぜ!」


  *

 

 エミリアが話したことによれば、あの大きなゴーレムも実態として存在している以上、必ずコアは存在している。それを破壊すれば、とりあえずあいつを止めることが出来るのではないか、ということだ。しかし、大地を意のままに操ることのできる能力ちからを持つという『超聖霊ハイスピリット』ロウヒに戦闘の意思があればすぐにでも蘇生するだろうとも言っていた。


 「それなら、どうすればいい?」


 俺の質問への彼女の回答はこうだった。


 「私が、ロウヒ様を止めます」

 「止める?」

 「族長に与えられた能力、これがあれば大地の神であるロウヒ様と対話をすることが出来るのです。私がロウヒ様を説得し、正気を取り戻していただきます」


 ただ……、そう呟いて不安げな表情でエミリアは続ける。


 「対話をするためにはロウヒ様の近く、少なくとも広場の中に、入らないとなりません。あの方は今、


ゴーレムに宿っておられますから。その間、その……私は他のことが出来なくなってしまいますが」


 「そうか、なら」


 コトリとカエデ、それとルビィさんと目を合わせてうなずき合う。


 「俺たちが、そのロウヒ様ってのを説得してる間、エミリアを守ればいいんだな?」

 「……お願いしても、よろしいでしょうか?」


 俺たちがこう言うことも予想していたのだろう。神妙な顔つきでまっすぐとこちらを見つめて言った。


 「当たり前だろ?」


 微笑んだ俺に、彼女も安堵したような表情を見せた。そして少女はすぐに族長の顔になると、周りの土精種ドワーフたちに呼びかける。


 「貴方たちも、この方々の援護を行ってください。もちろん、人間種ヒューマンに対して快く思っていない者もあると思います」


 一族の長は視界の端にあるであろう俺たちのことを気にしながらも、同胞を見回しながら演説を続ける。


 「しかし、彼らは私たちの集落を守ってくださいました。そして、今回も立ち上がってくれた。私たちもそれに報いなければなりません。今ばかりは一丸とならなければなりません。彼らのために。私たちのために。……未来のために」

 「わかっていますよ、族長。戦いましょう。我らの集落を守るために」


 いの一番に答えたルーカスに続いて、今まで黙して聞いていた土精種たちも沸き立つ。

 彼女は俺たちの方を振り返ると、頭を下げた。


 「それでは、よろしくお願いします」

 「めてくれよ。お前も言ってたろ?俺たちは協力関係だ。対等な関係なら、こうだろ?」


 頭を上げた彼女に俺は手を差し出す。少しの間、目を見開いて停止していた彼女だが、こちらの意図を

理解して微笑むと、同様に腕を伸ばししっかりと俺の手を握った。


 「こっちこそよろしくな。エミリア」


  *


 ゴンッ!


 こちらを踏みつぶそうと迫った足を四人は散り散りになって躱す。

 俺とルビィさんは暴れる岩石の塊の気を引くために戦闘魔法スキルを使用してダメージを与える。コトリとカエデは後方に下がっていく。あの二人はエミリアを守りながら援護を行うことになっている。エミリアは目を閉じて胸の前で両手の指を組んで、意識を集中しているように見える。

 援護をしてくれるはずの土精種たちの姿は見えない。


 「一刀両断バスターブレードっ」

 「剣戟の舞ブレードストーム!」


 ルビィさんを第一目標と定めた巨体は彼女に対して拳を振り下ろす。その間に俺は足元まで走り寄りすねあたりに魔法を叩き込む。


 「強力斬撃メガスラッシュ!!」


 この怪物に弁慶の泣き所なんかがあるのかは知らないが、うめき声をあげてふらつく。

 そこに追い打ちをかけるべく、カエデやコトリの魔法が飛来する。それぞれに着弾し、爆発を起こす。

 ゴーレムは大きく仰け反ったが、あと一歩のところで踏みとどまる。足を着く、それだけの動作で粉塵が舞い、屋台や直置きにされた商品などが瓦礫と散る。


 「ごおおおおあああああああああ!」


 さっきの攻撃が相手の怒りに触れてしまったのか、ゴーレムは咆哮する。


 バヂンッ……!


 そんな音と赤い閃光。


 「きゃっ」


 小さく悲鳴を上げてエミリアが倒れる。


 「大丈夫かっ?」

 「へ、平気、です」


 コトリに抱き起されながら答えて、


 「ロウヒ様に拒まれてしまいました。……やはり、私の力では……」


 種族を背負う少女は目を伏せて絞り出すように呟く。


 「なあ、知ってるか?」

 「え?」


 俺は自分に迫る拳から目を逸らさずに、後方に声を放る。



 「ゲームってのは、難しい方が面白いんだぜ?」



 地面に向かって強力斬撃を放ち、間一髪で振り下ろされた脅威を避ける。その拳は地面を割らんばかりに叩きつけた。


 「コトリっ!」

 「凍結束縛フリーズ!」


 転がりながらの呼びかけに応えて発動された魔法が、怪物の右手を地面に縛りつける。意図が通じる確信はなかったが、流石さすが、要望通りだ。

 これなら届くか……っ?


 「一刀両断っ!」


 地面に釘付けの手を踏み台に跳躍しながら輝く長剣を振るい、巨大なゴーレムの首元を掻き斬る。

 ひときわ大きな叫びをあげて氷の拘束さえ解き放って苦しむ。暴れる怪物に弾き飛ばされながら、叫ぶ。


 「エミリア!できないことなんか何もない、お前が望むならっ!」

 「っ……!そうですね」


 そう言って彼女は大地の神との対話を再開する。

 一頻り苦しんだ怪物は再びこちらを睨みつける。目があるのかもわからないが、顔にあたる部分に赤く輝く鉱石が一つ埋まっている。

 その目が。

 きらりと光る。


 直後。


 「空間移動テレポート!」


 真横に現れたコトリが俺を押し飛ばす。何が、と思う間もなく彼女は赤い閃光に焼き切られる。


 「きゃああああっ」


 それがあの赤い目から放たれたものだと気づくのに、被弾したコトリが数メートル飛び、さらには2,3回地面を跳ねる程度の時間を要した。地面の魔法陣が一直線に削られている。

 やっと我に返った俺は立ち上がると名前を呼びながらコトリに駆け寄る。


 「大丈夫かっ!?コトリっ」

 「あはは、魔力防御マジックガードがなかったらやばかったかも」


 確かに彼女のHPは残り一割を切っていた。


 「無理すんなっつてんだろっ」

 「そんなことより、次が来るよ」


 言われて振り返れば、先ほどと同様に赤い目が一瞬光る。ルビィさんがそれを止めようと攻撃を加えるが、動じる様子はない。


 「貫通射撃アローブローっ!」


 俺が動く前に、カエデの放った矢が赤い鉱石を貫き光線が放たれるのを防ぐ。ゴーレムの悲鳴が空気を震わす。

 くそ、守られてばっかじゃねーか。


 「そんなことないよ、ソウタ」


 また、表情に出してしまっていただろうか、コトリが立ち上がりながらそんな風に声をかけてくる。


 「私たちは仲間なんだからさ、助け合うのは当たり前だよ。助けてばっかりでも助けられてばっかりでもない」

 「そうだったな。ありがとう」


 一人でいることの多かった俺は他人に頼ることに慣れていない。つい、忘れがちになる。今の俺は、一人じゃない。

 顔を上げて、微笑む。


 「もう、大丈夫だ」

 「うん」


 頼れる仲間は笑顔で頷いた。

 ターゲットはルビィさんが請け負ってくれているらしく、ゴーレムは彼女の方を向いている。その間にコトリは薬を飲んでHPを回復し、俺はこちらに背を向けた化け物を見上げる。すると、首元に赤い石を見つけた。首を切ったとき、カエデが目を撃った時の反応と言い、あの石が比較的弱い部分なのかもしれない。


 『カエデ、首元か顔の赤い石を狙ってくれ』


 隠密会話パーティチャットを使ってカエデに指示を出す。今まで使ってなかったのは、この魔法が誤作動を防ぐために、それなりの集中力を要し戦闘中の使用に向かないという理由からだ。特に魔法に不慣れな俺ではどちらかがお留守になってしまう恐れがあった。


 『わかった!』


 カエデの撃った攻撃に巨大な影は悲痛な声を上げる。続けて矢を放とうとするカエデを『待て』と制止する。あまりカエデがダメージを与えすぎると、そちらに攻撃の矛先が向きかねない。俺とルビィさんでゴーレムに攻撃を与える。

 そんな感じでヘイトを調整しながらゴーレムに徐々にだがダメージを与えていく。半分ほどまでHPが減ったころ、モンスターは大気をびりびりと震わせる咆哮を上げた。その声は周りの壁や天井までもを震えさせ、ばらばらと岩や鉱石が落下してくる。慌てて回避するが、そこで終わらない。落ちてきた岩石群は、あるいはゴーレムとして形を為し、あるいは巨大なゴーレムの周りを旋回し始める。巨体の周りを浮遊する岩石の集合体は、まるで雲のようだ。


 「んなのありかよっ?」

 『ソウタ、これじゃ、弱点を狙え……ないっ』


 脳内にカエデの声が響く。岩を自分の周りに侍らせたのは目や首の後ろを守るためか。


 『わかった、無理はしなくていい。とにかく、小さいのを優先して倒してくれ』

 『うん!』


 俺は魔法陣の描かれたところから広場の端に上がり、壁を這うらせん階段を駆けあがる。下からが無理なら上から行くしかない。下で奮闘してくれている人たちには申し訳ないと思いつつも、ひたすら上を目指す。

 が。

 真ん中まで来たあたりだろうか。ゴーレムの視線がこちらを向く。


 「バレたか……っ」


 思うか否や周りを回っていた岩石のいくつかがこちらめがけて飛んでくる。何とかして躱そうとするが、次々と飛んでくるそれらは階段を破壊し、足元を失った俺は下へと落ちていく。落ちながらも、しつこく追ってくる岩に体を撃たれる。


 「がああっ!?」


 壁や階段や岩石にあちこちぶつけながら、地面まで達する。


 「情けないな、人間」


 倒れた俺の頭の上から、声が聞こえた。

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